先月初旬、バーナンキFRB議長はマサチューセッツ州で講演し、長期的な期待インフレ率の上昇を断固阻止する旨の発言をしました。その発言をきっかけに金利が急上昇、現在、年内に利上げが実施される確率は80%に上っています。

言うまでもなく、去年の今頃は5.25%だった政策金利が今年の3月2.00%まで引き下げられてきた大きな目的は金融システムの安定化です。確かにクレジット市場は3月中旬と比べると幾分改善はしてきています。しかし株式市場では金融セクター株は軒並み下落、特に地方銀行や中小金融機関に至っては3月中旬の安値を大きく下回っていて、とても「金融システムの安定化」が達成されたと言える状況ではありません。もちろんバーナンキ議長がこのような状況を理解していないという訳ではないでしょう。むしろバーナンキ議長は意識的にこのような発言を行ったように感じます。

即ち、バーナンキ発言には2つの目的があったように思います。第一に、これまで金利もかなり積極的に下げてきたし、流動性も十分に供給してきた。3月からは大手証券会社を含むプライムディーラーに対する直接貸出を6ヵ月以上続けるという大胆な政策も実施した。これは、この間に十分に資本を増強しなさいよ、この間に資本増強をしなかった金融機関を救済する意図はありませんよ、というメッセージを市場に送る目的。そして第二に、原油先物市場への機関投資家の資金流入が顕著になってきた事から、金利を引上げて資金の移動を促すという目的。なるほど、これだけ急速に原油高が進行する中、金利を引上げて原油高が阻止できるのであれば、それはかえって経済の安定につながるという見方もできます。

一方、前号で書かせていただいた通り、金融機関の保有証券及びその損失額の開示姿勢は不誠実なのが現状です。大手金融機関は昨年第4四半期、そして今年第1四半期の決算発表時にそれぞれ大規模な資本増強を行っています。もうお馴染みになったSWF(政府系ファンド)が積極的に応じた事もあって、これまでの資本増強は非常にスムーズに進みました。しかし今回で資本増強の大きな波は3回目です。「すみません、また損失が出ました。お金を出してもらえないでしょうか」というオオカミ少年に、投資家はどのような態度で接するでしょうか。

金融機関の不誠実な姿勢、そして連銀のスタンスを見ていると、3月にあったような、連銀による金融機関救済はもう期待しないほうが無難に見えます。3月、最も懸念されていたのは一金融機関の破綻よりも、連鎖倒産など金融システムが麻痺してしまう可能性でした。しかし今となっては、連銀が金融システムを麻痺させるような状況は放ってはおかないだろうという前提さえ甘いように見えます。
現在、破綻の予備軍は様々な所で見え隠れしています。航空業界、自動車業界、住宅業界、金融業界、債券ヘッジファンド、そしてその中の一つでも破綻した場合、保険や金融商品などを通じて多くの金融機関に影響が及ぶシステムになってしまっています。ポートフォリオは「次の破綻に連銀救済はない」事を前提に構築しておく時と考えています。