それではエラーにせよ、なぜこれまで1年以上も原油価格と株式相場が連動してきたのでしょうか。それは恐らく、原油価格の下落の影響が先に出てくる性質を持っているからでしょう。株価というのはどうやって決まるのかを思い出してみて下さい。これはその企業から生まれる将来のキャッシュフローを現在価値に引き直した合計です。これを産油国や石油開発プロジェクト、石油関連企業に置き換えてみるとどうなるでしょう。将来のキャッシュフローというのは恐らく原油価格に連動しているでしょうから、原油価格の下落はそのまま、産油国の資産やプロジェクトの価値、石油関連企業の株価に跳ね返ります。即ち、資本の価値は直ちに反映される性質を持っているということです。
これによって様々な分野に影響が及びます。よく言われるように、原油価格下落によりエネルギー業界向けの融資が焦げ付いたり、投資の価値が大きく毀損するというものです。また産油国が収入減穴埋めのために、これまでソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)を通じて世界の金融市場で運用していた資産を売却せざるを得なくなっている、という動きもあるのでしょう。実際に、ノルウェーのSWFの運用はその積極性で有名ですが、2016年度予算の一部は、SWFを売却する事によって賄うことを発表しています。
これらの影響が比較的早く金融市場に影響してくるというのはその通りで、だからこそ原油価格の下落が先に、株式相場にも下落という影響で表れてきたのでしょう。しかしその影響度合いについてはよく吟味する必要があります。まずエネルギー業界向けの融資と、サブプライム住宅ローンが金融システムに与えた影響というのは、全く規模が異なります。今年1月、決算発表時に大手銀行が開示したエネルギー業界向けの融資は、全融資のせいぜい2-3%の規模でした。しかもエネルギー業界だからといって全て原油価格下落の影響を受けるわけではなく、リスクが高いのはそのうち約4割を占める油田サービス、開発・生産の分野のみです。金融危機時のショックがあまりに大きかったのは分かりますが、エネルギーを2007-9年の金融危機と結び付けるにはかなり無理があります。
また恐らく、産油国を中心とするSWFがその一部を売却しなければならなくなっているのもその通りでしょう。そしてそのようなファンドの動きは短期的な需給には少なからず影響を与えるでしょう。しかし本来、株価というのは中長期的にはその企業のファンダメンタルズによって決まるものであって、短期的な「誰が売った、誰が買った」で決まるものではありません。そのようなSWFの動きによって株価が割安になるのであれば、それを割安と見て拾う投資家が必ず出てきて、中長期的にはその企業のファンダメンタルズを反映した株価に戻るのが普通の動きであるはずです。
それではその、「割安と見て拾う投資家」の動きが遅れている、又ははっきり見えないのは何故でしょう。それは最終的にはエネルギー業界が受けた打撃を上回るメリットを受けるものの、そのメリットは時間をかけて少しずつ表われる性質のものだからです。それではそのメリットを受ける主体は?もうお分かりですね。そう、アメリカ経済の7割を占める消費者です。ガソリン価格の下落は着実にアメリカ消費者の財布を少しずつ潤していて、これは既に最近の消費関連指標にも表われています。そしてこのシナリオが正しいとすれば、アメリカ経済の成長は年後半にかけて加速し、それは株価にも反映されるはずです。経済原理に逆らった原油価格と株式相場は順相関のミステリーはこうして、最終的には解決されるものと見ています。