3月決算銘柄の第1四半期決算が出揃いました。決算発表と同時に、通期の業績予想を修正した銘柄、修正しなかった銘柄と様々です。中には第1四半期が好業績、もしくは業績不調だったにもかかわらず業績予想を修正しなかったケースもあります。こうした事実に個人投資家としてどう対応すべきかを考えてみたいと思います。
好悪入り乱れた第1四半期決算
8月中旬をもって、3月決算銘柄の第1四半期決算が出そろいました。また、12月決算銘柄は第2四半期決算、6月決算銘柄は通期本決算が発表されました。
好調な業績で決算を迎えた銘柄もある一方、業績悪化が明確になった銘柄も少なくありませんでした。
決算発表を踏まえ、株価が乱高下するのは毎度のことですが、筆者の感覚では、決算発表により株価が急上昇する銘柄より、急落する銘柄の方が多かったような印象を持っています。
やはり、円高が進行したこと、および日本経済全体がデフレ傾向にあることが企業業績にマイナスの影響を及ぼしているようです。
第1四半期決算を受けた通期業績予想の修正
ところで、企業は本決算時(3月決算企業であれば今年4月下旬~5月上旬ごろの平成28年3月期決算発表時)に、来期の業績予想を合わせて発表するのが原則です。そして、その業績予想に大きな変動が生じることが明らかになった時点で、予想を修正することになっています。
そのため、今回の第1四半期決算を踏まえて、通期(平成28年4月~平成29年3月までの1年間)の業績予想を修正したところも目立ちました。
例えば、ステラケミファ(4109)は好調な第1四半期決算を踏まえ、通期業績予想を次のように上方修正しました。
(単位:百万円)
- 売上:28,249 → 28,909
- 営業利益:1,374 → 3,159
- 経常利益:1,340 → 2,900
- 当期純利益:1,009 → 1,971
一方、第1四半期決算にて業績が大幅に悪化した中村超硬(6166)は、通期業績予想を次のように下方修正しました。
(単位:百万円)
- 売上:9,400 → 7,300
- 営業利益:1,700 → 460
- 経常利益:1,600 → 300
- 当期純利益:1,000 → 140
これを受け、ステラケミファ株は上昇(ただし決算発表前から株価は大きく上昇していたため決算発表後株価は頭打ちになっています)、中村超硬株は大きく下落しました。
第1四半期決算が好調・不調にかかわらず通期業績予想を修正しなかった理由
しかし、第1四半期決算が好調だったにもかかわらず通期の業績予想を上方修正しなかった銘柄の方が多いのが現状です。この本当の理由は経営者に直接聞いてみないと分かりませんが、予想される主な理由は次のようなものがあります。
- 第1四半期決算は確かに予想以上に好調だったが、まだ3カ月しか経っていない。第2四半期決算以降は不透明であり、厳しい状況になるかもしれないため、通期の業績予想は上方修正しなかった
- 第1四半期決算は好調で、おそらく第2四半期決算以降も順調に推移するだろうが、あまり強気の予想を発表して後で下方修正するのは望ましくないので通期の業績予想をあえて上方修正しなかった
また、第1四半期決算が不調であった銘柄の多くは、通期の業績予想を下方修正していません。この場合予想される主な理由は以下のとおりです。
- 第1四半期決算は確かに不調だったが、まだ3カ月しか経っておらず、第2四半期以降で十分に挽回可能と会社側が考えている
- 不調だった第1四半期決算を踏まえると確かに通期業績予想を下方修正すべきかもしれないが、いわば通期業績予想は「努力目標」として下方修正は見送った
個人投資家は自らの企業分析を絶対的に信用して大丈夫なのか?
このように、第1四半期決算の結果を受けて、通期の業績予想を修正しなかった銘柄については、その理由についてはまちまちであり、かつ経営者の思いが多少なりとも入っているものと思われます。そのため、個人投資家がそれらを正確に推し量るのは非常に困難であると筆者は思っています。
例えば、アトラ(6029)は12月決算銘柄ですが、8月に発表した第2四半期決算では、6カ月の業績は予想より上振れして着地しました。しかし通期業績予想は上方修正せずに据え置きました。これを踏まえ、株価は下落しました。
これにつき、レベルの高い個人投資家の方であれば、「通期業績予想を上方修正しなかったのは、この社長の保守的な性格が理由だろう。私の企業分析から考えて、通期の業績が予想より大きく上振れることは間違いない。株価が大きく下がった今の局面は強気で新規買いだ」と考えるかも知れません。
こうした考え方につき、企業分析に絶対の自信をもち、かつ今までもこの方法で成功を収めているという方なら実行すればよろしいかと思います。でも、「好業績間違いなしのはずなのに株価が下落してラッキー」と新規買いした結果、株価が意に反して大きく下落してしまうという経験が多いのなら、その考え方を捨てて、株価の動きを重視した方が大きな失敗を回避できるはずです。そして筆者も含めて、大部分の個人投資家は後者に属すると思います(大部分が前者に属するならばほとんどの個人投資家は株式投資で満足のいく十分な投資成果をあげているはずですので)。
精緻な企業分析が困難な個人投資家は「株価の動き」を重視するのが安全
となれば、プロ投資家のような精緻な企業分析が困難な個人投資家としては、プロ投資家を含めた市場参加者全体のコンセンサスを如実に表す「株価の動き」をもって、その実態を把握する方が安全だと思います。なぜなら、筆者の目から見ても、「なぜこの決算でこんなにも株価が想定外の方向に大きく反応するのか」というケースをよく見かけるからです。
例えばDOWAホールディングス(5714)の第1四半期決算は前年同期に比べて減収減益、通期業績予想も据え置きでしたが発表翌日の株価は急騰、その後も上昇を続けています。一方、通期業績予想がもともと減益だったミクシィ(2121)の第1四半期決算は前年同期比で減収減益でした。特にサプライズもない内容と筆者は思いましたが、株価は大きく売られてしまいました。
このような、個人投資家には予想がしにくい決算発表後の株価の動きに対抗するには、株価のトレンドに従って売買していくのが無難だと思いますし、筆者自身それにより株式市場で生き残ることができています。例えファンダメンタル分析の結果好業績が継続すると思われる銘柄であっても、通期の業績予想の修正の有無にかかわらず、株価のトレンドに従い、上昇トレンドなら買い、下降トレンドなら買いを見送るだけです。
<お知らせ>
おかげさまで、拙著「株を買うなら最低限知っておきたい ファンダメンタル投資の教科書」および「株を買うなら最低限知っておきたい 株価チャートの教科書」(ともにダイヤモンド社刊)がそれぞれ7回目、4回目の増刷となりました。この場を借りて御礼申し上げます。「株を買うなら最低限知っておきたい株価チャートの教科書」では、今回のコラムで取り上げた「上昇トレンド」「下降トレンド」の見極め方を詳しく説明しております。ご覧いただければ本コラムのご理解もより深まることを確信しております。
<おしらせ>
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