THE S&P 500 MARKET: 2020年8月

 完璧な1カ月ではなかったものの、8月の上昇率は7.01%に達し、一部の市場関係者は完璧だったと考えているかもしれません。個人的にはそのように考えており、それは8月の騰落率としては1986年の7.12%に次ぐ上昇となったからです。とはいえ、最後の1週間は3.64%上昇し完璧な週と評価できるものでした。すなわち、S&P 500指数は5日連続で終値での最高値を更新し(これは2017年10月16-20日、さらに遡ると1998年3月16-20日に記録した5日連続の最高値更新以来の出来事です)、終値での最高値(3,508.01)と共に日中最高値(3,514.77、8月31日に記録)も更新しました。最高値を更新する過程では、3,400台と3,500台と相次いで初の大台を(終値でも)突破してきました。

 また、S&P 500指数は年初来で過去最高値を20回更新し、2016年11月の大統領選以降(注目の次回大統領選挙は64日後に迫っています)では、144回更新したことになります。2020年3月23日の底値からの目を見張るような上昇(56.45%、年率換算で176%)は、プロの運用担当者を驚愕させ、彼らは2021年の予想利益に基づくPERを21.3倍に押し上げている楽観論を正当化する理由を探しています。現時点での向こう12カ月の利益予想に基づけば確かに割高とも考えられますが、今後16カ月で見た場合は割高とは言えないでしょう。

 今回の現行版「根拠なき熱狂」を支えているのが、新型コロナウィルス感染症に対する市場の楽観的な見方です。つまり、治療法が確立されなくても、いずれは抑え込めるであろうと考えているのです(完全な治癒を得られなくても、対症療法や簡単で安価な検査によって、死に至る病とはならずに2週間程度の厳格な隔離措置によって対処できるというもの)。

 マエストロと呼ばれた米連邦準備制度理事会(FRB)の元議長であるグリーンスパン氏が1996年12月5日に前掲の「根拠なき熱狂」と発言した当時、S&P 500指数の年初来騰落率は21.0%の上昇、過去12カ月の利益に基づく実績PERは18倍でした(現在の同PERは18倍でした(現在の同PERは28倍)。そして、言うまでもないことですが、株式市場はその後2000年3月24日までにさらに105%上昇しました(745から1,527に上昇)。

 短期的には独自の動きを見せるものの、長期的にはS&P 500指数と連動した動きを示す傾向があるダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は、(蚊帳の外に置かれたくはなかったのでしょう)年初来の騰落率が一時的にプラスに転換しました(0.40%のプラス。ただし、最高値を更新した2020年2月12日を3.58%下回る水準)。

 しかしながら、8月31日に下落し、年初来騰落率は再びマイナスとなりました(年初来騰落率はマイナス0.38%。最高値を3.79%下回る水準ながら、月間騰落率はプラス7.57%)。また、Appleの1対4の株式分割を受けて、ダウ平均は構成銘柄の入れ替えを行い、Exxon Mobil(XOM)の代わりにSalesforce.com(CRM)、Pfizer(PFE)の代わりにAmgen(AMGN)、Raytheon Technologies(RTX)の代わりにHoneywell International(HON)を採用すると発表しました。

 今後を展望すると、少なくとも大統領選までの64日間に関しては、相場の運命を決定づけるであろう2つの明白な要因があります。

 第一の要因は選挙の勝敗の行方、また新政権の顔ぶれと同様に議会の勢力図も重要です。株式市場は両党の全国大会や政策綱領には反応してきませんでしたが、両陣営の動きやメディア報道の本格化を踏まえると、想定される選挙結果を考慮した資産配分の見直しが始まることによって、市場のボラティリティが高まる可能性もあります(コロナ禍の今年3月と比べると市場関係者は冷静さを取り戻しています)。大統領選に影響する材料としては、パンデミック対応のための財政政策と2020年10月1日からスタートする新年度予算関連の問題、選挙期間中の暫定的な支出措置の承認、または政府機関閉鎖の可能性が挙げられます(少なくとも話題には上るでしょう)。

 第二の要因は引き続きヘビー級の重石として市場にのしかかっている新型コロナウィルスの問題、そして経済(具体的には、消費者支出とそれに続く企業支出の回復・拡大)がいずれはコロナ危機の影響を乗り越え、実際に2021年第4四半期には過去最高益を実現すると信じる市場の力です。市場はこのような確信を織り込みつつあり、勝ち組と負け組を区別しています(依然として年初来では値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を上回っている状況です)。

 いかなる理由であれ、市場がこうした確信を変えなければならなくなった場合、それが単なるタイミングの見直しだとしても、リプライシングの動きは避けられないでしょう。さらに利益を上げている企業が集中している点を勘案すると、厳しいリプライシングにつながる可能性があります。

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