「農林中金<パートナーズ>長期厳選投資 おおぶね」を運用している農林中金バリューインベストメンツのCIO「奥野一成」が、『ビジネスエリートになるための教養としての投資』を執筆、投資の本ながらビジネス部門で話題となっている。
投資と本来の投資のあり方とその哲学、長期投資のコツ、優良企業の見極め方などを、歴史的な背景や実例を交えながらわかりやすく解説するこの著書は、投資を今から始める人、投資の運用に困っている人にぜひ読んでほしい。
トウシルでは、この本の中から、ぜひみなさんに読んでほしい内容を10編ピックアップ。今回は4回目を紹介する。
「有能の境界」を意識しよう
次に時間や能力の配分の方法について議論しましょう。ここで導入したいコンセプトは「Circle of Competence(有能の境界)」というものです。私たちの身の周りには自分ではどうにもならないものがたくさん存在します。例えば、雨が降っているからといって、晴れるように願ったところでどうしようもありません。エレベーターがなかなか来ないからといっても早く来るようにすることは不可能です。半面、半年後のテニスの試合までに出来ることはたくさんあるでしょう。また、来週の顧客向けプレゼンを作り込むためにした努力が嘘をつくことはありません。
このように自分ががんばってもなんともならないことと、自分が影響できることとの間には、「主体性」を切り口として線を引くことが出来ません。この境界線を意識することが、気持ちよく生きていくためにはとても重要です。自分ではどうしようもないことに気をもんでもなにも変わらないし、時間の無駄です。
横軸に「将来」「過去」を、縦軸に「自分」「自分以外」をとるとすべての事象は4象限に分けることができます。左下の象限は「他人/自分以外の過去の出来事」です。例えば、芸能人の不倫ネタなどがこれに当たります。はっきり言うと、完全にどうでも良いことです。
左上の象限は「自分の過去の出来事」です。彼女に振られたとかプレゼンで失敗した、という出来事がこれに該当します。ここで起きてしまった過去の事実そのものはどうしようもありません。これを将来に活かせるかどうかは自分次第ですが、起こってしまったことをクヨクヨしても後の祭りです。気持ちを切り替えましょう。
右下の象限は「他人/自分以外の将来の出来事」です。他人に影響を及ぼすことは可能かもしれませんが、他人の意思決定をコントロールすることは不可能です。たとえどんなに親しい友人であったとしても他人であって、その人の人生はあなたのものではありません。たとえ家族でも本当に突き詰めれば他人です。多くは語りませんが、この境界を明確に意識しないところに世の中で起こっている多くの悲劇の原因があるように感じます。
残るは右上の象限「自分の将来の出来事」です。これこそが自らの才能・時間・お金という自分の資源を集中投下するべきところで、ここに集中して投資することによって文字通り人生が大きく変わります。精神的な問題も含め、世の中の大半の問題は自分がコントロールできない分野にまで、自分の関心を拡げてしまうことから起こると考えています。
これは投資についても同じです。私たちは、投資企業がおかれた事業環境、競争優位性から導かれる事業の経済性について分析することは、私たちの「有能の境界」の範囲内にあると考えています。半面、他の投資家たちの売買によって左右される株式の需給などは境界の外にあって、知りようがありません。何が分かっていて、何が分からないのかを明確に切り分け、当たり前にやるべきことを当たり前にやる、というスタンスが市場に対峙する時でも重要だと考えています。