棋士から株主優待生活へと生活を大きく変えた桐谷さん。株主優待人生、約35年。そんな桐谷さんのお気に入り優待品を聞きました。
棋士から優待生活。その先は映画評論家!?
――桐谷さんにとって、一番役に立った株主優待とは何ですか。
「映画の優待券」ですね。映画評論を始めるきっかけをつくってくれました。
――どんなきっかけがあったのですか。
かつて映画の株主優待券は、ばらして1枚ずつ金券ショップに売ることができました。しかし、換金目的で株主になる人が増え、映画館の窓口の正規チケットが売れなくなりました。そのため2008年頃から、映画会社が「表紙付きの回数券や本人しか使えないカード方式」に変えたのです。私も自分で使うしかなくなり、年間百何十本もの映画を見るようになったのです。
数年前の話ですが「月曜から夜ふかし」(日本テレビ系)で、見て良かった映画を聞かれたときに、1位を「ジョン・カーター」にしたのです。映画の原作は「ターザン」を書いた小説家エドガー・ライス・バローズの「火星のプリンセス」。ディズニー生誕110周年を記念した大作だったのですが、酷評されて大コケしました。
それを私が「いい」と褒めたら、レンタルビデオの貸し出しが急に増えたというのです。それでジョニー・デップ主演の西部劇「ローンレンジャー」が公開されるとき、ディズニー社からジョニー・デップと対談して欲しいと頼まれました。
――すごいじゃないですか。
でも断りました。
――なんでですか?
私、英語ができないし、ジョニー・デップが特に好きというわけではなかったので。
――もったいないです!
断ったのに諦めてもらえず、妥協案として、映画の感想をデップに話すことになりました。
――映画は面白かったですか。
私はいつも寝不足気味なので、映画館のような暗い場所では眠くなる。だから映画を見るときは優待品の缶コーヒーを凍らせて持って行き、首筋に当てて眠気を覚ますのです。ところが試写室は持ち込み禁止。あわててトイレで缶に水をかけて溶かして飲んだのです。そんな苦労をして見た映画は「あれ」でした。
――「あれ」な映画の感想をジョニー・デップにどう伝えたのですか。
私は知らなかったのですが、ジョニー・デップはチェロキー族の血を引くインデアン(ネイティブアメリカン)の家系だったのですね。白人のローンレンジャーと相棒のインデアン・トントの物語は何度も映画化されていて、保安官のローンレンジャーは銃を使わない正義漢、トントは女好き酔っ払いに描かれることが多かった。でもこの作品では、デップは台本を修正させてトントを好青年に描かせたというのです。いいやつだと思いました。日本文化にも関心を持っているし。
試写会の翌日、レッドカーペットを歩くデップにレポーターや評論家の人たちがまず質問し、私の番になったとき、こう言いました。「パイレーツ・オブ・カリビアン」のように面白い映画だった。でも「パイレーツ」は面白いだけだけど、「ローンレンジャー」は銃に反対するという思想・精神が映画のベースになっている。この映画は子どもたちに正義とは何かを考えさせるいい映画だ、と言ったのです。
――ジョニー・デップは喜びました?
通訳が次の質問者に移ろうとしたときに、デップがちょっと待ってと止めて、「メッセージを感じてくれてうれしい」と言ってくれました。
――桐谷さんは、いろいろな映画イベントに登場していますよね。
トム・クルーズ主演「バリー・シール」では、戦闘機パイロットの映画「トップガン」のパロディCM出演を依頼されました。トップガンには戦闘機が登場しますが、私はサングラスをかけて自転車で疾走し、トム・クルーズのポーズを取った。マイケル・ダグラス主演の「ラストベガス」の宣伝では、フーターズでフーターズガールと一緒にイベントをやりました。
一番面白かったのは、スティーブン・スピルバーク監督の「レディ・プレイヤー1」のジャパンプレミアのイベントです。スピルバーグ監督が登場する前に、レッドカーペットの上をET人形を乗せた自転車で疾走したのです。そんな風に、映画の優待券のおかげでいろいろ楽しいことを体験することができました。