倒産して上場廃止となれば、当然保有していた株は紙くずになってしまうはず。でも最近は、上場廃止が決まった株が1円ではなく数十円の値がつくことも珍しくありません。いったいなぜなのでしょうか?
「倒産」といってもいくつかの種類がある
倒産による上場廃止にはいくつか種類がありますが、その多くは会社更生法の適用申請、民事再生法の適用申請、もしくは破産です。このうち、「会社更生法もしくは民事再生法の適用を申請」した場合と、「破産」した場合とでは考え方が異なります。
会社更生法や民事再生法は、会社を完全につぶしてしまうのではなく、スポンサーの出資金で、債権を大幅にカットすることで再スタートを切るための仕組みです。
一方の破産は、会社自体が清算されてなくなってしまうことを言います。
ですから、倒産や経営破たんで上場廃止、というケースでも、会社更生法の適用か、民事再生法の適用か、破産かにより、株価の反応も異なります。
破産の場合は、ほぼ間違いなく債務超過であり、株主への分配はありませんので、株の価値はゼロとなります。そのため、破産により上場廃止となるケースでは、株価は1円に限りなく近づいていきます。
一方で、会社更生法や民事再生法の場合、株が「紙くず」になるとは必ずしも言えません。「紙くずにはならないかもしれない」という期待感から、株価が1円にならず20円、30円程度の値がついた状態で上場廃止になるのです。
「100%減資」と「99%減資」とでは天と地ほどの差
その期待感を醸成するのは「100%減資」か「99%減資」か、ということです。
通常、会社更生法や民事再生法を適用する場合、スポンサーに新たに出資してもらい再スタートの資金にします。そのとき既存の株主が保有する株を100%減資して、完全に価値をゼロにするのが通常です。スポンサーの立場からみれば、既存の株主には、倒産したことによる株主としての責任を果たしてもらう必要があると考えて当然だからです。
しかし、ごくまれに、既存株主が保有する株を100%減資せず、少しだけ(たとえば1%だけ)価値を残すケースがあります。このことを「99%減資」といいます。
詳しい理由は難しくなるのでここでは割愛しますが、100%減資でなければ、既存株主が保有する株の価値はゼロにはなりません。別に、99%減資だろうが、90%減資だろうが、99.99%減資だろうが株の価値に大きな違いはありません。
100%減資でなければ「倒産」しても上場が維持されることがあるが・・・
実は、100%減資をしない場合は、会社更生法や民事再生法の適用を申請しても、上場廃止にはならない可能性が出てきます。
上場廃止にならず、既存株主の保有する株の価値が少しでも残っていれば、外部からスポンサーが入って会社を立て直し、まともな状態に戻れば株価も大きく上昇するはず。それなら株価は20円、30円程度あってもよいだろう、という考えを持つ投資家が少なくないので、株価は1円までは下がらないのです。
ところが、実際には会社更生法や民事再生法の適用を申請した会社が、既存株主の保有株に対し100%減資ではなく99%減資をしたケースというのは、ほとんどありません。
それなのに、ここ近年は、会社更生法や民事再生法の適用申請をした会社の多くが、99%減資への期待感からか、株価が1円まで下がらず2ケタ台をキープして上場廃止となります。
筆者は、この事実にはかなり違和感を覚えます。
倒産した会社でなくとも「99%減資」は可能。そのとき株価は?
実は、99%減資というのは、経営破たんしていない会社であっても行うことが可能です。減資については会計の知識をかなりしっかり持っていないと理解しにくいのですが、簡単に言えば、「100%減資は株の価値がゼロになるが、99%減資をはじめそれ以外の減資は株の価値は変わらない」のです。100%減資以外の減資は、単に純資産の内訳を帳簿上移動させるだけであり、株主の有する会社の価値(=純資産全体としての額)には何ら影響を及ぼさないからです。
しかし、経営破たんしていない上場企業が99%減資を発表すると、株価は大きく下落します。その理由として考えられるのは大きく2つです。
(1)投資家が勘違いして、99%減資をすると自らの保有株の価値が100分の1に下がると思ってしまう
(2)勘違いはしていないが、減資のあと大規模な増資が行われることで、保有株の1株当たりの価値が大きく下がってしまうことを懸念している
実際は、99%減資のあとに増資が実行されることがほとんどでしょうから、(1)の考え方は間違っているにせよ、(2)の考え方により株価が下落することは的を射ていると思います。
もし投資するなら多額の資金を投下するのは避けることが無難
倒産・経営破たんした会社の株は、完全にマネーゲームと化しています。突然ストップ高になったかと思えば、翌日は急落、ということも珍しくありません。仮に高値づかみしてしまい、その後売るに売れず上場廃止となり、100%減資となれば、株価回復の可能性は完全に絶たれます。
もちろん、会社更生法・民事再生法の適用を申請した会社のすべてが100%減資を実行すると決まったわけではないものの、株の価値がゼロになる可能性は極めて高いというのが、今までの実例により明らかです。
いちるの望みをかけて買ってみるのも1つの手ではありますが、かなり可能性の低い話ですので、多額の資金を投入して勝負してしまうのは避けたほうがよい、というのが筆者の結論です。