空前の半導体ブームはピークアウト近い?フラッシュメモリの需給緩む

 最近、世界的に半導体関連株の下落が大きくなっています。トランプ米政権が仕掛ける貿易戦争が激化し、世界景気が腰折れするリスクが警戒されている面もあります。実際、日本の株式市場では、今年に入ってから、景気敏感株(自動車・機械・半導体関連など)の下げが目立つ中、ディフェンシブ株(食品・医薬品・電鉄など)が相対的に堅調です。

 ただし、半導体関連株の下落が大きいのは、貿易戦争の影響だけではありません。これまで、供給不足が長期化し、価格上昇が続いてきた最先端のフラッシュメモリ(データセンターやスマホの記憶媒体に使われる半導体)の需給が緩和し、価格が下がってきた影響も出ています。

 当初、最先端のフラッシュメモリ(3次元NANDフラッシュ)は生産が難しく、なかなか歩留まり【注】が上がりませんでした。

【注】歩留まり(ぶどまり)
工場で生産される半導体から、「不良品」を取り除いた出荷可能な「良品」の比率を、「歩留まり」という。最先端の半導体は、生産が難しく、当初、歩留まりが低い。技術がこなれて生産が軌道に乗ると、歩留まりが上昇する。

 需要が増加する中、供給が増えないために、2016~17年は、フラッシュメモリの市況が上昇を続けました。生産が増えるにしたがって価格が下がるのが当たり前の半導体で、価格が上昇するのは異例のことです。これが、過去に例のない空前の半導体ブームを生じました。半導体メモリを生産するメーカー(韓国サムスン電子、東芝半導体など)が巨額の利益を上げる中で、他社より少しでも早くフラッシュメモリの生産を増やそうと、世界の半導体メーカーが、競って設備投資を増やしました。

 ところが、半導体メーカーの努力の甲斐があり、ようやく最先端のNANDフラッシュでも、歩留まりが向上してきました。それに伴い、需給が緩和し、価格が低下してきました。こうなると、半導体メーカーは、設備投資を急ぐ必要がなくなります。これから、半導体製造装置の受注減少が鮮明になる可能性もあります。

 

半導体スーパーサイクル説は、半分正しく、半分誤り

 4~5年周期で好不況を繰り返してきた半導体業界ですが、半導体の用途が、PC・スマホ・データセンターだけでなく、自動車・家電製品・ロボット・IoT機器(「モノのインターネット化」関連機器)に広がる中で、一時は、「半導体スーパーサイクルが始まった」との声もありました。これは、「通常の半導体サイクルは無くなり、半導体産業が継続的に成長する時代に入った」という意味です。

 それは、半分正しく、半分誤りであると考えています。市況変動が激しい、半導体メモリ(フラッシュメモリやDRAM)は、これからも供給不足と供給過剰を繰り返すと考えられます。つまり、半導体メモリだけについて言えば、スーパーサイクル説は誤りということになります。

 ただし、半導体メモリは、半導体市場全体の一部(約3分の1)に過ぎません。半導体には、メモリの他にも、マイクロ、ロジック、アナログ、ディスクリート、光半導体、センサーなど、さまざまな種類があります。メモリ以外の半導体は、ここから安定的に成長すると考えられます。例えば、個別オーダーメードとなる自動車用の半導体は、極端なブームにも不況にもなることなく、安定成長が続くと予想しています。メモリ以外に注目すれば、半導体市場全体ではスーパーサイクルが始まったと言っていいと、考えています。

 それでは、半導体関連株への投資は、どうしたらいいでしょうか?私は、今後、半導体関連株の値動きは、徐々に二極化すると見ています。絶好調の半導体メモリが供給過剰になるとき、メモリ関連株の業績は悪化すると考えています。

 ただし、メモリ以外の半導体ビジネスは、スーパーサイクルに入った可能性があります。半導体材料(シリコンウエハ)で最先端の技術力を持ち世界第1位の信越化学(4063)、同2位のSUMCO(3436)や、自動車用の半導体で世界第3位のルネサスエレクトロニクス(6723)は、スーパーサイクルの恩恵で安定的に収益を稼いでいけると予想しています。

 また、スマートフォンやデジカメなどに使われる「画像センサー(半導体)」で高い技術を持つソニー(6758)も投資価値は高いと考えています。スマホの伸びが想定以下で今期、半導体事業は減益となりますが、ゲーム・音楽・映画などで、安定的に高収益を稼いでいけると予想しています。

 一方、メモリへの依存度が高い日本の半導体製造装置株は、要注意です。高水準の受注残を抱えているので、すぐに業績が悪化することはありませんが、ブームが去った後は、業績が急速に悪化する可能性もあります。

 まとめると、半導体関連株の投資判断については、以下の通り、考えています。

【1】半導体製造装置は、要警戒

 半導体メモリへの依存が高い、日本の半導体製造装置メーカー、東京エレクトロン(8035)SCREEN HD(7735)への投資は、ここからはリスクが高いと考えます。

【2】半導体材料・車載半導体の成長に期待

 半導体材料(シリコンウエハ)で世界シェアの高い、信越化学(4063)SUMCO(3436)は、半導体市場全体のスーパーサイクルの恩恵を受けられ、投資価値が高いと判断しています。また、車載半導体(自動社に使われる半導体)で世界第3位のルネサスエレクトロニクス(6723)や、画像センサーで高い技術を持つソニー(6758)も、長期的な投資価値が高いと判断しています。