ここ数年一気に注目度を高めているROE。基本的にはROEが高いほど株価が上昇しやすいのが事実。でも、ROEが高い銘柄の中にはいくつかの「落とし穴」もあるのです。
倒産の危険性が高い銘柄が「優良株」に見えてしまう!
先日「なぜ高ROE株の株価は上昇しやすいのか?」では、ROE(自己資本利益率)が高い銘柄ほど株価が上昇しやすいことをお話ししました。
ただし、ROEを投資判断に用いるには、いくつか注意点もあります。これを知らずに「高ROEランキング」を参考に投資するすると、逆に間違った銘柄選びになりかねません。
そこで今回は、ROEの注意点をいくつかお伝えしたいと思います。
まず1つ目は、「倒産の危険性が高い銘柄が、ROEでは優良株のように見えてしまう」という現象です。
具体的な数字でみてみましょう。
もともと純資産が1億円あったある会社が、ここ数年の赤字続きで純資産が100万円まで減ってしまいました。債務超過スレスレの状況です。
この会社が100万円の当期純利益をあげると、ROEはどうなるでしょうか?
なんと、100万円÷100万円=100%と、非常に高いROEとなるのです。
では、この会社が投資対象として適切かというと、筆者はそうは思いません。まず、純資産が債務超過スレスレということは、いつ破たんしてもおかしくないような危機的な財務状況です。すぐに破たんすることはないとしても、債務超過の状態が続けば上場廃止になってしまいます。
また、利益の額自体もわずか100万円ですから、稼ぐ力があるとも思えません。単に純資産の額が小さすぎるので、ROEも高くなってしまっているだけです。
このように、純資産の額が小さい会社のROEは、計算上非常に高くなってしまうという傾向にあります。もしROEランキングなどで銘柄を選ぶときは、純資産が小さくないかを必ず確認するようにしましょう。
高レバレッジ経営をしている銘柄はROE以外にこれもチェック
2つめが、「高レバレッジ経営」をしている会社です。高レバレッジ経営とは一言でいえば、多額の借金をすることでより多くの利益を上げようとする戦略のことです。
この戦略は、事業が順調に利益を上げているうちはよいですが、利益が想定通りあがらなくなると、借入金の利息や元本返済により財務状況が急速に悪化してしまうというリスクがあります。
高レバレッジ経営をしている会社かどうかは、ROEとROA (総資産利益率)の2つの指標を比べるとわかります。
たとえば、ROEが40%、ROAが8%、というように、ROEがROAの何倍にも達しているのであれば、高レバレッジ経営の可能性が高いです。あとは、自己資本比率が低く、かつ有利子負債の額が多いという特徴があります。
高レバレッジ経営の会社は、事業が順調に行く限り、非常に高いROEを維持できますから、株価の大きな上昇も期待できます。
その一方、事業が立ち行かなくなると、財務状況が悪化し、最悪の場合借入金が返済できず破たんとなってしまう可能性もあります。そうしたリスクが他の銘柄より高いという認識を持ったうえで、高レバレッジ銘柄に投資するようにしてください。
業績が不安定な銘柄の高ROE、信頼度は?
3つ目は、業績が不安定な銘柄のROEについてです。業績が不安定とは、たとえば景気や商品市況、為替相場などにより業績が大きく変動してしまうことです。
こうした銘柄は、成長株のように業績が毎年順調に推移することはなかなかありません。その結果、たまたま好業績であった年のROEが高かったとしても、翌年には利益が大きく減少して一気にROEが急低下してしまう、ということも珍しくありません。
利益の変動が大きいので、ROEも毎年のように大きく動いてしまうのです。これでは仮にROEが高くても、それを鵜呑みにすることはできません。
ROEにより銘柄を選ぶ際は、業績が不安定な銘柄より、毎年増収増益が続いている銘柄や、成長性が低くても業績が安定している銘柄の中から選ぶとよいでしょう。
多額の特別利益・特別損失がROEにどう影響するのか?
4つ目は、多額の特別利益や特別損失の存在です。
ROEの計算式は「当期純利益÷純資産」です。当期純利益は、経常利益から特別利益や特別損失を増減させて計算されたものです。
特別利益や特別損失とは、会社の本業とは関係のない、臨時的、特殊的な利益や損失です。たとえばリストラや工場閉鎖による損失、土地を売却したことによる利益や損失などが該当します。
この特別利益や特別損失は、企業の実力を図るうえでは除外して考えるべきものです。しかしROEは、特別利益や特別損失が含まれた当期純利益をもとに算定されてしまいます。
高ROEランキング上位の銘柄をみると、特別利益が膨らんだことにより表面上ROEがかなり高くなっているケースが多々あります。
会社の実情に即した、事実上のROEを計算するには、税率を35%として、「経常利益×65%」をあるべき当期純利益と仮定し、再計算してください。
上記のとおり、ROEを使用するにはいくつか注意すべき点もあります。それでも、ROEが高い銘柄の株価が上昇しやすいことは確かです。「落とし穴」に気を付けつつ、将来株価がより大きく上昇しそうな銘柄を探し出しましょう。