1.「金」関連のETFには異なる種類のETFがある
電気料金が上昇し、食品価格も上昇するなど、わが国では長年経験してこなかった「インフレ」がついに到来してきました。今春闘では大幅な賃上げも実現し、労働者の賃金も上昇し始めましたが、資産運用でも「インフレ」対策をした方が良いことは確かです。
「インフレヘッジ」の投資としてよく取り上げられるのが「商品」への投資です。ということで、今回は商品関連ETF(上場投資信託)について検証してみます。
まずは「金」関連のETFですが、JPX(日本取引所グループ)のホームページには三つの「金」関連ETFが掲載されています。図表1はその三つのETFと金価格を反映するLBMA金価格の円換算値のリターンの推移です。
ご覧のように、三つのETF全てがLBMA金価格のリターンにおおむね沿って動いていることから、「金」関連のETFでインフレヘッジをすることは可能と考えます。
ただし、1326:SPDRゴールドと1540:純金信託のリターンに比べると1328:NF金価格のリターンが見劣りすることが分かります。これは運用の巧拙の問題ではなく、同じ「金」関連ETFでも運用手法が異なる影響です。次の項目で説明します。
[図表1]「金」関連のETFと金指数の推移
2.「原油」関連ETFでは長期のインフレヘッジには不向き
次に、もう一つの商品関連ETFである「原油」関連ETFを見てみましょう。JPXホームページには二つの関連ETFが掲載されています。図表2はその二つの「原油」関連ETFと原油相場を表す「WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物の直近限月を単純につないだ指数(以下、「WTI原油先物・直近限月」)」のリターンの推移です。
一目で分かるとおり、二つのETFと「WTI原油先物・直近限月」の値動きは全く異なります。「原油」関連ETFは長期では原油価格に連動しておらず、長期のインフレヘッジには不向きと考えます。
こうした現象が起こる最大の理由は、この二つのETFが原油先物で運用しているためです。先物取引は裏付けとなる参照物が存在します。株価指数先物は電子空間に存在する株式が参照物であり、大きな保有コストはかかりません(主なコストは金利負担)。一方、商品先物は商品現物が参照物であり、一定の保有コストがかかります。
特に原油のような「かさが大きい商品」は保管コストが莫大(ばくだい)となり、原油先物で運用し続けるとその莫大な保管コストを負担し続けることになり、原油価格のリターンが削られるのです。
前述の1328:NF金価格のリターンが他二つの「金」関連ETFよりもリターンが見劣りしているのも、商品先物を使っているか否かの差が大きく影響しています(他二つは現物で運用)。ただし、原油に比べれば金の保管コストは軽微なために、金価格にある程度は追随できています。
[図表2]「原油」関連のETFとWTI原油先物の推移
3.JPXも「長期投資向け」という表現方法で注意喚起している
以上のことはJPXも注意喚起しています。図表3は、JPXホームページの商品関連ETFの銘柄一覧です。赤枠で囲ったところの「長期投資向け」に「●」を付けて区別しています。上述した三つのETFには「●」が付いておらず、JPXは「長期投資向きではない」という注意喚起を出しています。
同ホームページでは「商品(外国投資法人債券)」という項目も掲載しており、そこにリストアップしているETFは全て「長期投資向きではない」としています(2024年9月10日時点)。このように商品関連ETFを長期のインフレヘッジ目的で利用するときは、その特性を見極める必要があり、注意が必要です。
では、これらのETFの用途は何かというと、短期的なトレーディングには向いていると考えています。期間の長さに比例する保管コスト負担が小さいので、原資産価格におおむね連動したパフォーマンスが得られ、問題なく利用できると思います。
以上、インフレヘッジに際しての商品関連ETFに関する注意情報でした。
[図表3]商品関連ETFの銘柄一覧(JPX)
記載されている個別の銘柄については、参考情報を提供することを目的としており、特定銘柄の売買などの推奨、また価格などの上昇や下落を示唆するものではありません。上記は過去のデータであり、将来の投資成果を示唆あるいは保証するものではありません。
<関連銘柄>
NEXT FUNDS 金価格連動型上場投信(証券コード:1328)
NEXT FUNDS NOMURA原油インデックス連動型上場投信(証券コード:1699)