為替DI:8月のドル/円、個人投資家の予想は?
楽天証券FXディーリング部 荒地 潤
楽天DIとは、ドル/円、ユーロ/円、豪ドル/円それぞれの、今後1カ月の相場見通しを指数化したものです。DIがプラスの時は「円安」見通し、マイナスの時は「円高」見通しで、プラス幅(マイナス幅)が大きいほど、円安(円高)見通しが強いことを示します。
DIは「強さ」ではなく、「多さ」を測ります。DIは、円安や円高の「強さ」がどの程度なのかを示しているわけではありませんが、個人投資家の相場観が正確に反映されていると考えるならば、DIの「多さ」は同時に「強さ」を示すことになります。
「8月のドル/円は、円安、円高のどちらへ動くと予想しますか?」
楽天証券がドル/円相場の先行きについてアンケート調査を実施したところ、個人投資家1,745人のうち67%の1,168人が、8月のドル/円は「円高/ドル安」に動くと予想していることが分かりました。前月は22%でした。
円安見通しを持つ個人投資家の割合から円高見通しの割合を引いて求めたDIは、マイナス34になりました。円高予想が円安予想を上回ったのは昨年12月以来で、前月は+56でした。
DIは、マイナス100から+100までの値をとり、DIのプラス値が大きくなるほど、円安見通しの個人投資家の人数が多いことを示し、逆にマイナス値になるほど円高見通しの個人投資家の人数が多いことを示します。ただしDIは「多さ」の指標であって、円高・円安の「強さ」を表すものではありません。
7月のドル/円は、大幅な円高相場となりました。7月11日と12日の「為替実弾介入」で4円下落したあと、月末にかけては日本銀行の利上げを受けて、さらに8.50円に下落しました。8月に入っても円高は止まらず、米雇用統計が発表された2日には1ドル=146円台まで下落しました。7月の高値1ドル=161.99円から、わずか1カ月間で15.50円も円高に動いたことになります。
個人投資家のほとんどは、秋までは円安相場が続くと予想していたので、値動きの激しさはもちろんのこと、円高にも十分な準備ができていなかったようです。
円安は、中央銀行の政策相違を反映したファンダメンタルズ的な動きであることは明らかです。もし本当に「円安は好ましくない」と思っていたなら、日銀はもっと早く利上げすればよかったのかもしれません。そうすれば、20円以上も一気に円高になるような動きは回避できました。
世界の主要中央銀行はデータに基づいた金融政策を行っているのに比べて、日銀はデータに基づかない金利引き締めを行っているために、マーケットに不要な乱高下を引き起こすと考えられます。
日銀は、2013年4月に「量的・質的金融緩和」政策を導入して以来、10年以上も異次元緩和を続けてきました。
しかし、その効果のほぼ全ては金融部門が吸収し、実体経済の支援にはなっていません。マイナス金利のおかげでゾンビ企業(経営が破綻しているにもかかわらず、金融機関や政府機関の支援によって存続している会社)が生き延び、日本経済の活性化を妨げているとの批判も多いです。それでも、日銀が金融緩和に固執したのはなぜでしょうか。
それは「金融抑圧」をするためです。金融抑圧とは、インフレと低金利を組み合わせることによって、政府の債務を非常に低い金利でファイナンスし、究極的には膨張した政府の借金の棒引きを図ることを目的とする政策です。
インフレとはモノの値段が上がることですが、相対的に円の価値が下がるということでもあります。借金をしている人(政府)は、インフレになれば返済するお金が少なくなります。
お金の貸し手側(投資家や預金者)から見ると、受け取るお金の価値が減りますが、その分金利上昇による運用益(利息)が増えるため、市場原理が正常に機能している市場においては、プラスマイナス・ゼロになります。
ところが日銀が人為的に国債利回りを低く抑えつつインフレを発生させることによって、借金をしている政府は、低利息で利払いを軽減させながら、お金の価値を減少させることで債務残高を縮小することが可能になります。
インフレ率を2%以上にして、国債金利を0.25%に固定する状況を安定的に達成できたなら、日本政府の借金は30年後に実質的には半分近くまで減少するとの計算があります。これが緩和政策の究極の目的だといわれています。
金融抑圧は、増税や歳出削減など痛みを伴う改革を行わずに済ませることができるので、借金を抱える政府にとっては良いことずくめでしょう。しかし、そのしわ寄せは貸し手である国民に来ます。
緩和政策の副作用が円安となって現れているのははっきりしているのに、為替は管轄外だと日銀は見て見ぬふりをしてきました。政府も、問題なのは円安の「速度」だと強弁して、円安の悪影響を認めることは最後の最後まで拒んでいます。本音では「もっと円安になれ」と願っているからでしょう。
しかし「円安」というのは、観光業など一部のセクターを除くと、多くの日本企業にとってかつてのような利益をもたらしていないのが事実です。製造業のほぼ4分の1はすでに海外に移転し、かつてのような為替レートとの関係も今は薄れています。
アベノミクスは、日本を観光立国に変えてしまいました。2人に1人が大卒という超高教育国家の我が国において、国内の主要産業が「観光業」になってしまったのです。
2023年訪日客の旅行消費額は計5兆2,923億円で過去最高となり、政府の目標である通年5兆円も突破しています。日本政府観光局(JNTO)によると、2024年5月の訪日外客数は304万100人(2019年比9.6%増)で、3カ月連続で300万人を超えており、円安が効果を上げているようです。
このまま円高トレンドが始まってしまえば、インバウンド需要拡大で日本の景気を盛り上げるという政府のもくろみが崩れてしまうでしょう。政府は円高だけは絶対に阻止しようと考えているようです。
ユーロ/円
楽天証券がユーロ/円相場の先行きについてアンケート調査を実施したところ、個人投資家1,311人のうち66%の861人が、8月は「円高/ユーロ安」に動くと予想していることが分かりました。前月は25%でした。
円安見通しから円高見通しを引いたDIは、マイナス32になりました。前月は+50でした。対ユーロで円高予想が円安予想を上回ったのは昨年12月以来です。
豪ドル/円
楽天証券が豪ドル/円相場の先行きについてアンケート調査を実施したところ、個人投資家1,184人のうち65%の768人が、8月は「円高/豪ドル安」に動くと予想していることが分かりました。前月は25%でした。
円安見通しから円高見通しを引いたDIは、マイナス30になりました。前月は+50でした。対豪ドルで円高予想が円安予想を上回ったのは昨年12月以来です。
今後、投資してみたい金融商品・国(地域)
楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト 吉田 哲
今回は、毎月実施している質問「今後、投資してみたい金融商品」と「今後、投資してみたい国(地域)」で「特になし」を選択した人の割合に注目します。各質問の選択肢は、ページ下部の表のとおり13個です(複数選択可)。
図:「特になし」を選択した人の割合の推移
2024年7月の調査で、「今後、投資してみたい金融商品」で「特になし」を選択した人の割合は6.85%、「今後、投資してみたい国(地域)」で「特になし」を選択した人の割合は5.85%でした。上図のとおり、今年3月以降、反発傾向が鮮明になっています。
「特になし」は、それぞれ13個ある選択肢のうちの一つです。「特になし」のほか、「今後、投資してみたい金融商品」には「国内株式」など、「今後、投資してみたい国(地域)」には「日本」などがあります。
「今後投資してみたい」具体的な事柄を選択する質問で「特になし」を選択することは、現時点で多くの事柄に投資意欲が湧いていないことを意味します。「特になし」を選択した人の割合が上昇する時は、投資家の皆さまの間で投資意欲が湧きにくくなっている時で、逆に割合が低下する時は、投資意欲が湧きやすくなっている時期であると言えます。
上図のとおり、2020年の前半と2022年に「山」があります。前者は新型コロナショックの影響で投資してみたい金融商品や国(地域)が見つけにくく、投資意欲が湧きにくかった時期、後者は世界的な高インフレが進行したり、主要国の中央銀行が利上げを急いだりしたことにより、投資意欲が湧きにくかった時期に当たります。
今年3月以降、新たな山ができつつありますが、その要因には、中東情勢が悪化したことや、それを一因として世界的なインフレが再燃しつつあること、米国の大統領選挙をめぐる動きに不透明感が出ていること、主要国の利下げへの思惑が後退していることなどが、挙げられます。
実は今回のアンケートは、7月31日正午までの3日間にわたり行われました。つまり、今回のアンケートの結果には、日本銀行が追加利上げを決定したり、米国の雇用統計が極端に悪化したりしたことで発生した、世界的な同時株安はほとんど織り込まれていません。
次回のアンケート調査は8月26~28日を予定しています。世界的な株安が終息していなければ、当該選択肢の回答割合はさらに上昇する可能性があります。まずは株価が反発するかどうかに、注目していきたいと思います。