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「2024年アメリカ大統領選挙、今後の見どころは?(東洋大学教授 横江公美教授インタビュー)」
注目が集まる2024年、アメリカ大統領選挙。3月5日のスーパーチューズデーで、トランプ氏が圧勝し、現在、共和党・トランプ氏と、民主党・バイデン氏の一騎打ち状態になっています。この後、11月の本選挙、12月の代理人投票と選挙が進む中、我々は何を注視していればよいのか。今後の展開を、アメリカ大統領選挙に詳しい、東洋大学・横江公美教授に伺いました。
▼プロフィール
愛知県名古屋市生まれ。明治大学卒業後に松下政経塾に入塾(15期生)。1995年にプリンストン大学で、1996年にはジョージ・ワシントン大学で客員研究員を務めた後、2004年に太平洋評議会(Pacific21)代表として政策アナリストの活動を開始。2011~2014年までは米国の大手保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」でアジア人初の上級研究員として活躍。2016年から東洋大学グローバル・イノベーション学科研究センターで客員研究員を務め、2017年からはグローバル・イノベーション学科教授を務める。著書に『ポスト・トランプのアメリカ』『判断力はどうすれば身につくのか アメリカの有権者教育レポート』などがある。
共和党はもはやトランプ帝国
トウシル:2024年3月5日のスーパーチューズデーで、ニッキー・ヘイリー氏が大敗し、共和党はトランプ氏、民主党はバイデン氏のほぼ一騎打ちとなりそうです。横江教授はこの状況をどうご覧になりますか?
横江教授:共和党に関しては、資金力とマネジメント力のあるトランプ氏が勝利するのは、ほぼ想定内だったと思います。また、トランプ氏はこのスーパーチューズデー後、完全に共和党を手中に収めた感があります。というのも、共和党のトップである委員長に、自分の息子の奥さんと側近を任命しました。もはや共和党はトランプ帝国です。
一方で民主党は、バイデン氏という現職大統領の出馬なので、そもそも敵はいない状態。現職の大統領が継続して出馬するということは、今の政策自体が問われるわけです。
大統領としての仕事そのものが、国民の是非を問う「選挙活動」です。現在、医療、教育、生活保障などのソーシャルセキュリティ面を充実させる施策を強化して、彼の票田として手薄な中産階級の票を取るために全力でアピールしている状態ですね。
トウシル:バイデン氏にとっては、今の政治自体が選挙活動なのですね。
横江教授:アメリカ大統領選挙は、実際のところ、立候補宣言から選挙活動が始まっているといえます。最長で2年間、選挙活動が続くのですが、その間、アメリカ国民は、大統領候補者の資質と、候補者を支えるチームの能力と、いかに資金を集められる経営能力があるか、をしっかりと見極めようとしています。長い選挙戦を勝ち抜ける候補者=アメリカという国家を力強く運営していける人物、という判断ですね。
現役の大統領の場合は、選挙に入ってくると、どうしても選挙の票を考えた政策になると見られています。
トウシル:資金を集められるかどうかが重視されるという点が、日本の選挙とは大きな違いです。
横江教授:アメリカ大統領選挙は、企業経営に例えると非常に分かりやすいと思います。立候補者は商品、政策は仕様書、それをいかに魅力的に見せて販売する(票を得る)か、が勝負になります。
トウシル:2016年に、不動産王だったトランプ氏が突然登場し、あっという間に大統領になりましたが、そう考えると、実業家であるトランプ氏が強かった理由が分かります。
横江教授:はい。当時の共和党は、かなり弱かったと言えます。共和党の候補者は、共和党員として活動をしてこなかった、不動産王として知名度の高いトランプ氏に敗北しました。トランプ氏は巧みな選挙戦略で見事に勝利しました。
党の候補者が予備選挙で確定してから、夏の全国党大会までは、選挙運動は凪の時期になります。本格的な選挙が始まるまで、派手な選挙運等というよりはひたすら資金集めに奔走することになります。手持ち資金があればあるほど選挙は有利になるからです。勝利するためには、相手より多くの資金が必要になります。
トウシル:米大統領選挙では、テレビコマーシャルやSNSを使ってもいい、という点が驚きです。日本では考えられない…。
横江教授:法に触れること以外は、さまざまな手段が許されているのがアメリカ大統領選挙です。
トランプ氏ほど資金と票に貪欲な人はいません。先日、大事な票田であるフィラデルフィア在住の富豪と面談したというニュースが報道されました。その人物はTiktokの大株主です。Tiktok否定派だったトランプ氏が、面談後には姿勢を一変させ「Tiktok規制に反対する」と表明しました。
トランプ氏は、今までの路線は曲げて、資金と若者票を手に入れようとしているわけです。トランプ氏は、「キングオブTV」であり「キングオブSNS」ですから、新しいSNSの使い方を見せてくるかもしれません。
勝敗は拮抗、「ほぼトラ」とは限らない
トウシル:現在の得票マップを見ていると、トランプ氏圧勝のように見えて、「ほぼトラ」状態なのですが、もう勝敗はほぼ確定ですか?
横江教授:そうとは言い切れません。この地図を見ると、共和党圧勝のように見えてはいますが、赤い色の共和党地域は人口が少ないのです。
一方の民主党は、カリフォルニア州やニューヨーク州など、人口が多い州を押さえています。州がそれぞれ持つ選挙人の数と接戦州を見ると拮抗しています。
今、ベージュで示している浮動州の結果いかんで、どちらが勝つかは今のところ、本当に分かりません。
トウシル:この、どの州がどの党を支持しているか、というのがほぼ確定で動かない、という状態も驚きでした。これは、覆ることはないのでしょうか?
横江教授:ありますよ。2000年台は赤色のオハイオ州、フロリダ州が接戦州でした。今、接戦州となっているペンシルバニア州、ミシガン州、ウィスコンシン州は民主党の牙城でしたし、アリゾナ州、ジョージア州は共和党の牙城でした。
2016年の選挙戦でトランプ氏が登場した際、それまで完全に民主党寄りだったミシガン州やウィスコンシン州をひっくり返して勝利しました。そのときトランプ氏がひっくり返した州は、今の「接戦州」になっています。
これらの州は、それまではバリバリの民主党州だったのですが、トランプ氏が労働組合の強い州を取るための選挙戦を、これらの州を中心に展開し、見事、民意を動かしたんです。
逆に、アリゾナ州やジョージア州は、2020年にバイデン氏がひっくり返し、低収入層の選挙登録を増やすことに成功。共和党の州から接戦州になっています。
政策、そして人口動態の変化で、勢力図は変わっていくわけです。バイデン氏は民主党が強いペンシルバニア、ミシガン、ウィスコンシンを勝利すれば勝てますが、トランプ氏は共和党のアリゾナ州とジョージア州を手にしても勝てません。ネバダ州を手に入れても勝つことはできません。トランプ氏は、共和党の牙城に加えて民主党寄りと言われる州で、最低でも一つ、勝つ必要があります。
トウシル:無所属で出馬しているケネディ氏に勝ち目はないのでしょうか?
横江教授:正直、勝ち目はないのですが、彼の動向はトランプ氏VSバイデン氏の勝敗を握る大きなカギとなります。接戦州で、トランプ氏とバイデン氏のどちらの票を取るかによって勝利は変わってきます。ケネディ氏が、もともと所属していた民主党のバイデン氏の票を取るのか、それとも施策が似ているトランプ氏の票を取るのか? 最近の調査では、トランプ氏の票に食い込んでいると言われています。
今後のカギは夏の党大会と郵便投票!
トウシル:今後の展開で要注目なのは何でしょうか?
横江教授:もちろん夏の党大会です。民主党、共和党ともに、正式に大統領候補と副大統領候補が確定します。これはもうアメリカにとってお祭りで、お互いの威信をかけて盛り上げてきます。
トウシル:お互いの勢力を見せつけあい、競い合う会合ですね。
横江教授:はい。党大会以降は、トランプ氏がとにかく強いメッセージを出してくることが予想されます。ただ、それもあまりに強く押し出しすぎると反トランプ派を刺激しすぎて反発を買うことになってしまい、逆効果になる可能性もあります。普通でしたら、アンチは投票しませんが、反トランプ派ほどの強いアンチは投票するからです。
また、郵便投票の広がりにも要チェックです。バイデン氏側は郵便投票、つまり期日前投票の拡大を推奨しています。
アメリカ大統領選挙の投票内容は、実はとても複雑で、大統領だけでなく教育委員長などの州の重要ポジションの投票を一気に行うため、非常に多くの記入箇所があり、知識のある人でも混乱しやすい。そこで、民主党、共和党、それぞれが、各党の「模範解答集」のような用紙を配布する必要があります。民主党はそのプロセスを積極的に構築しているわけです。
トウシル:ではその紙が何枚、配られたかで、ほぼ勝敗が見えるわけですか?
横江教授:そのとおりです。郵便投票ではサポートのプロセスを、よりうまく作る党が勝利します。2020年の大統領選挙は、まさにバイデン氏は郵便投票で勝利を手にしました。郵便投票のサポートシステムの構築は、重要な選挙運動になっています。
トウシル:郵便投票は重要なんですね。
横江教授:はい。実際、2020年の大統領選では、当日の開票分はトランプ氏が勝利しましたが、郵便投票を加算するとバイデン氏が勝利しました。よって、2024年度の選挙戦も、郵便投票の普及具合やその結果にも要注目です。
9~10月のテレビ討論会も要チェック
横江教授:そして、9~10月に実施されるテレビ討論会もアメリカ国中が注目する一大イベントです。テレビ局はディベート番組一色になるほどで、アメリカ人は半強制的にこの討論を耳にすることになります。翌日の職場の話題もディベートです。
★ATTENTION★ |
トウシル:2024年は、トランプ氏とバイデン氏の舌戦になりますね。
横江教授:はい。自分の施策がいかに優れているかを主張し、相手の施策の手薄な部分を徹底的に反論します。容赦ない舌戦が展開され、自分のほうがいかに「大統領に適任か」を全力でアピールします。
通例、3回のテレビディベートが予定されており、2024年度の予定もすでに発表されています。これを見て、アメリカ国民は11月の本選挙で、どちらに投票するかを決めることになります。
ただ、トランプ氏は、ディベートに参加しない、と言い出しかねないところもあります。全米が注目し、選挙の目玉ですが、参加は必須ではなくNPOが主催しているものだからです。トランプ氏は共和党の予備選挙の時のテレビ討論会の出席を拒否した経験もあります
2024年の予定 ▼副大統領候補テレビディベート |
大統領選、日本に与える影響は?
トウシル:日本にとっては、対岸の火事ではないアメリカ大統領選挙です。バイデン氏とトランプ氏の戦いは、日本経済にどう影響があるのでしょうか?
横江教授:それを知るためには、まずはバイデン氏とトランプ氏の発言を丁寧に拾っていくことが重要です。バイデン氏はどちらかというと、環境問題や医療、教育、社会保障などの強化に関する発言が多く、実際にそういう政治を行っています。
対してトランプ氏は、昔ながらの重工業寄りの姿勢で、移民問題に厳しく、「とにかく強いアメリカを復活させる」という発言が多くみられます。彼らの発言で、実際に株価が動いたり、特定のセクターに注目が集まります。大統領選の結果を待たずとも、彼ら二人の発言を注視することで、株価や経済動向が読めてくると思います。
また、アメリカ大統領選挙は、とにかく何億円ものお金をかけた、4年に一度の一大ビジネスです。世界のトップレベルのマーケティング戦略が駆使されます。
新しいコマーシャルの打ち方、世論調査の取り方など、斬新で最先端のマーケティングが見られる、マーケティング戦略の宝庫です。株価にももちろん影響が出ますが、日本のビジネスモデルへのヒントも満載なので、各陣営がどんな選挙戦を展開しているのか、情報を拾っていくと、おもしろいし、自分の仕事にも役立つと思いますよ。
トウシル:本選挙の11月までの数カ月間は、日本人投資家にとっても、有益な情報がどんどん出てくるタイミングというわけですね。
横江教授:はい。夏の党大会までは派手な動きはあまりない「凪」の状態なのですが、それでも発信される彼らの発言や情報をまめに拾って、影響範囲を予測することはできます。
特に注目したいのは対中国への姿勢ですね。トランプ氏の「反中国」発言のほうが、言葉が強くメッセージ性が大きかったのですがが、実はバイデン政権になってからのほうが、対中国に対する規制が厳しくなっています。今後、二人が対中国に対する姿勢をどう見せるかも注目しておいたほうがいいと思います。
トウシル:本日はありがとうございました!