資産形成の正解は人それぞれですが、一方で、多くの人が失敗してしまう考え方や、やり方があるようです。このシリーズでは、資産形成を始める人が陥りがちな失敗事例を取り上げ、やってはいけない行動を分かりやすく解説します。
お悩み
新NISAを始めるにあたって、まずはどうしたらいいのか?
村田蓮さん(仮名)会社員・33歳(独身)
これまで投資経験はほとんどない村田さんは、新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)の盛り上がりを見て自分もやってみようと証券会社に口座を開いて準備をしていました。これまでは仕事をしながらある程度貯金を貯めようとしつつもあまり意識して資産形成をしようという気持ちはありませんでした。
日々の生活に困っているわけでもないし、多少は余裕のある家計で仕事も収入が大きく増えることはありませんが減ることもなく、安定した収支で特に不安を感じてはいませんでした。まだ独身ということもあって、付き合い程度の保険に加入はしているもののライフプランなども考えてはきませんでした。
ただそろそろ結婚も意識し出しており、自分だけではなく相手や子どものことも考えて、少しは将来のお金のことも計画的に考えようかと思っている時にメディアで新NISAを知り、まずはこれを利用しようと思い立ちました。
やろうと思い立ったら行動力のある村田さんは証券口座の開設を完了させ、さっそく積立投資を始めることにしました。シミュレーションなども駆使して計画的な資産運用へ取り組み出したのですが、いざ投資をする直前になると本当にこれでいいのか不安になってきました。
村田さんのような投資初心者が新NISAを始めるにあたって、何に気をつけたらいいのでしょうか?
【2024年からの新NISA制度について、詳しい説明はこちら】
新NISAを始めるときに必ず気をつけておきたいこととは?
新NISAの制度については否定的な意見はほとんどなく、いかにうまく活用するべきかという話題ばかりです。これを利用すれば将来のお金の心配は解決するかのように思えるほどです。
たしかに新NISAの制度はこれまでのNISAや個人の投資傾向、対象となる商品まで非常によく考えられていて、投資経験が少ない人であっても大きな失敗をする可能性を下げてくれているように思います。
投資において小さくてもいいので成功体験を積むことはとても重要です。やはり実績があることによって自信にもつながり、投資の良さを理解することも進みます。そして、成功体験以上に重要なことは大きな失敗をしないことです。
特に投資を始めたころに投資した資産が最初から大きく目減りしてしまうと、その後の投資も躊躇(ちゅうちょ)してしまいます。投資は習うより慣れよ、といわれるように知識だけあってもうまくいきません。少しずつ自分で投資知識や経験を身につけていくことでうまくいくものです。
ただ最初から失敗したい人などいないわけで、今回は新NISAを始めるにあたって、必ず気をつけてほしいことをお伝えしていきます。
新NISAを始める時に気をつけたいこと1:慌てて始める必要はない
まず最初にお伝えしたいことは、新しい制度が始まるからといって慌てる必要はないということです。資産形成を目的としたNISAは長期投資が前提にありますので、1カ月、2カ月スタートが遅れたところで大して気にする必要はありません。
これから5年、10年、20年と投資することを考えれば、慌ててスタートするよりもしっかりと準備をしてから投資を始めるべきです。資産状況や今後のライフプラン、そのために行う投資の中でNISAの役割やどんな商品へ、どのくらいの金額を投資していくのかなど事前に考えておいた方がいいことはいくつもあります。
新NISAについては制度として非常によくできているという評価が大多数だと思いますが、そのせいもあってか少しでも早く使って資産形成を始めるべきという情報が多く発信されているようです。
資産運用を始めるにあたって「まずはやってみる」という行動は、私は好ましいと思います。もちろんその際には少額で始めることや、なんとなくではなくしっかりと理由を考えた上で投資をすることが前提です。ただ本格的にスタートするには自分のペースで準備をした上で始めたらよいでしょう。
新NISAを始める時に気をつけたいこと2:他人の投資をまねする必要はない
投資をするとさまざまな場面で判断を求められます。商品の選択や売買だけでなく、金額や注文を出すタイミングなど多岐にわたります。そうした中で他人の投資を参考にまねをするというのは楽な方法です。
まねして投資をするというのは実はとても有効な方法です。自分で一つひとつの情報を精査してわざわざ時間や労力をかけるよりも、誰かの投資のやり方を見知って自分のニーズに合致するものを選択する方法は手間暇がかからなくていいはずです。
いま新NISAでどんな投資を目指すべきなのか、どんな商品が投資対象として魅力的なのか、そういった情報があふれています。つみたて投資枠や成長投資枠の使い方やおすすめの投資商品、注意点など各社が競って情報発信をしています。
ただし、その時に自分に合った投資だと思っても年数がたつにつれて、同じ投資を続けるべきなのか、変えるべきなのかも考える必要が出てきます。結局は他の人の投資をまねしたとしてもライフプランや情勢の変化に対応できるように「自分で考える」という習慣は必要となります。
新NISAを始める時に気をつけたいこと3:最初から出口を考える必要はない
資産形成をするときに、ゴールベースアプローチという考え方が広まっています。これは将来の目標から逆算して資産運用を行う方法です。日本人が子どもの学費を用意するために学資保険に入るイメージに近いとは思いますが、資産運用の場合は運用成果がライフプランに合わせてくれるわけではないので、絶対に必要な資金があれば別に用意しておいた方がよいでしょう。
とはいえこの目標設定をして運用をするという考え方は重要です。この目標設定によって、「自分が運用で求めるリターンがどの程度か、そのためにとるべきリスクはどの程度か」を知ることができます。もちろんリスクリターンが自分の許容できる範囲を逸脱しているようなら、そもそも運用だけでは解決できない問題なので他の解決方法をさがすことになります。
また長期運用といっても適度な目標がないと継続することも難しくなります。老後や20年後のこと、運用を整理して現金化することまで考えて運用を始める方もいますが、最初はもっと近い将来のことを考えつつ運用を始めることをおすすめしています。
老後や20年後のことなど長期的な目線はとても大切ですが、できれば目標はそこからもっと小刻みに考えるべきです。ライフプランの変化も考えられますので、長期目標や出口だけでなく3年、5年と身近な目標を基準にするべきです。遠い出口を目指して行動できる人もいますが、あまり現実的ではありません。
投資は周りに流されずにマイペースに行うべし
投資では常に自分を中心に考えることが大切
新NISAは各専門家からの評判も良く、個人的にもよくできた制度だと思います。期限が恒久化し、枠が増えたことで、これまでのNISAで物足りなかった点が埋められました。ただ、できることが増えたために制度をどうやって使うべきか、これまでより自分で考える必要が出てきました。
その中で忘れてはいけないことは、投資は常に自分を中心に考えることです。他人にとってよい運用が自分にとって最適な運用とは限りません。ライフプランも人それぞれであると同様に、資産運用もどうするべきかは人それぞれです。常日頃から「自分にとってはどうか?」という視点を持っておくとよいでしょう。
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