AIでよみがえるジョン・レノンの歌声

 英国の人気ロックバンドであるビートルズの「最後の曲」とされる「Now And Then」が、日本時間11月2日23時にデジタル配信で発売されました。1970年に解散したビートルズ名義の新曲は27年ぶりのことです。ジョン・レノン氏が生前に残したデモ音源から、レノン氏の声をクリアに処理し、演奏を加えて「新曲」は完成しました。

 作成過程において重要な役割のデモ音源からのレノン氏の声の抽出は、楽器の音や歌声を別の音源から学ばせた人工知能(AI)が行いました。このニュースは「AIにはこのような使い方もあるのか」ということを改めてアピールできたと思います。

 2023年は、新語・流行語大賞の候補に「生成AI」「Chat(チャット)GPT」の2語が入りました。AI技術は急激に進化し、人々の生活の一部になりつつあるといえます。株式市場でも「AI関連銘柄」は人気のテーマです。

 ただ、AIは、人の生活やビジネスのサポートなどプラスの要素だけではなく、本物そっくりの偽物を大量に生成できるなどマイナスの要素も併せ持っています。本稿では「生成AI」と「チャットGPT」とは一体何か?を整理し、関連銘柄を紹介します。

「生成AI」「チャットGPT」とは?

 生成AIとは、AIを使って新しいデータを生成する技術のことです。入力された数字や画像などのデータに基づいて、パターンを学習し、新しいデータを生成することができます。生成できるデータは、主に文章、音声、画像などです。

 チャットGPTは、米新興企業OpenAI社が開発した生成AIです。会話を繰り返すことで文章や画像をつくることができます。昨年11月に発表されると瞬く間に世界中に広がり、生成AIの一大ブームを巻き起こしました。

 では、生成AIと従来のAIとの違いはなんでしょう。従来のAIは、あらかじめ学習させた大量のデータから適切な回答を探し出したり、将来の予測を示したりするのが主な役割でした。一方、生成AIは、画像や文章といった新たなコンテンツ作成を目的に活用するものです。限られた条件からでも、全く新しいコンテンツを生み出すことができるのです。

法整備が進めば、AIの利用価値はより高まる

 このように、新しいコンテンツを創造する力で「チャットGPT」は利用者の支持を集めました。同時に、論文の不正作成や著作権侵害にあたる画像生成といった不正利用に使われることも増えました。

 SNS(交流サイト)の世界では、「偽画像」と称される画像や動画、メッセージなどが氾濫しており、米国では大統領選挙に関連した偽情報に国民が翻弄(ほんろう)されています。

 このような利用者のモラルに委ねられる状況に対して、欧州はいち早く動き、AI全般の活用を対象とした世界初の法律である「欧州連合AI規制法案」を2024年にも全面施行する予定です。

 今後、日本でもAIに対する規制は強化されていくでしょう。この規制強化は決してネガティブなことではなく、正しくAIを人々の生活に役立たせるために無くてはならないものといえます。法整備が進むことによって、AIの利用価値はより高まるでしょう。

 こうした背景から、AIは瞬間的な話題ではなく、長期投資にふさわしい息の長いテーマだと考えます。今後利用者の拡大が見込まれる生成AIはぜひとも注目しておきたいテーマです。今回は生成AI関連の日本株5銘柄をご紹介します。

「生成AI」関連の日本株5選

銘柄名 証券コード 業種 株価(円)
(11月8日終値)
ポイント
サイネックス 2376 サービス業 828 地方特化ビジネスで商機をつかむ
東京エレクトロンデバイス 2760 卸売業 4,060 本業の半導体が堅調。生成AI関連サービスは長い目で楽しむ
さくらインターネット 3778 情報・通信 1,055 2024年1月開始予定の生成AI向け新サービスが引き合い増
PKSHA Technology 3993 情報・通信 2,673 AIといえばパークシャ。独自サービスで巻き返し図る
エクサウィザーズ 4259 情報・通信 427 AIで企業のDXを支援

サイネックス(2376)

 ふるさと納税の代行業務など、地方創生を支援するサービスを展開しています。地方の自治体向けに、地域住民からの質問にAIが自動応答する総合案内サービス「わが街AIチャットボット」の導入を進めています。

 今年10月24日時点では、約90の自治体が同サービスを利用しています。総務省HPによると、日本の市町村数は1,718ありますので、まだ同サービスの拡大余地はあると考えます。人口減少が著しい地方では地域振興が切実な問題となっていますので、好調な引き合いが続くと見ています。

 また、2008年に開始したふるさと納税は既に15年が経過し、全国で定着しつつあります。制度自体が無くならない限り、このふるさと納税の代行業務も安定収益源として期待できるでしょう。地方に特化したサービスを展開している同社に注目です。

東京エレクトロン デバイス(2760)

 半導体を主力とした電子部品商社で、半導体製造装置の最大手の東京エレクトロンが筆頭株主です。今年7月、生成AIと社内情報を安全に連携する方法を学べる企業向けトレーニングサービス「Try it! Azure OpenAI Service」を開始しました。

 ターゲットは、社内の知見や製品情報などを安全に利用し、業務を効率化したい企業。今後、年間100社に同サービスの導入を目指しています。

 10月31日には、2024年3月期業績予想の上方修正を発表しました。当初減益予想だった純利益が、一転して過去最高益を更新する見通し。主力の半導体や電子デバイス事業が堅調に推移したほか、為替の円安が利益を押し上げたためです。生成AI関連サービスの収益貢献はまだ先と考えますが、本業でしっかり稼いでいることから、長期投資でも安心感は十分あります。

さくらインターネット(3778)

 独立系データセンター事業会社で、クラウドサービス事業が好調に推移しています。今年6月には、経済産業省による「クラウドプログラム」供給確保計画に民間企業として初めて認定されました。

 3年間で130億円規模の投資を計画しており、国から事業費の助成を受ける予定です。また、米半導体メーカー大手・エヌビディアの画像処理半導体(GPU)を2,000基以上採用し、大規模なクラウドインフラ整備を計画しています。

 そして、2024年1月提供開始予定の生成AI向けGPUクラウドサービスについては、当初予定を大きく上回る引き合いに対応し、来期に78億5千万円の追加投資を決定しました。このサービスが今後の同社の新たな収益源になると考えています。

PKSHA Technology(3993)

 社名はパークシャテクノロジーと呼びます。AI分野に特化しており、2017年に新規上場を果たした時から注目されていました。チャットGPTなどの対話型AIを活用し、さまざまな企業向けにAI技術支援を手掛けているほか、生成AIの基盤である大規模言語モデルを効果的に実装するための独自サービス「PKSHA LLMS」を拡販しています。

 積極的な企業買収に伴うのれん代(買収金額と買収した企業の純資産の差額)の償却費が重荷となり収益力は低下しています。ただ、拡大が期待できる生成AI市場での「PKSHA LLMS」サービスによる巻き返しに期待し、長い目で見ていきましょう。

エクサウィザーズ(4259)

 チャットGPTを活用するための企業向けAIサービス「exaBase」を手掛け、企業の業務効率化やデジタル・トランスフォーメーション(DX)をサポートしています。今年10月には、介護事業における経理や人事などのバックオフィス業務を生成AIで効率化するバックオフィス業務集約化サービスへの参入を発表しました。

 近年は、人件費高騰を背景に合理的な労務管理や組織づくりを進める企業が増加。同社にとって追い風の環境といえます。業績は先行投資で赤字となっていますが、拡大が期待できる生成AI市場でビジネスを行っていることから、長い目で見ていきたい企業です。