資産形成の正解は人それぞれですが、一方で、多くの人が失敗してしまう考え方や、やり方があるようです。このシリーズでは、資産形成を始める人が陥りがちな失敗事例を取り上げ、やってはいけない行動をわかりやすく解説します。

お悩み

株主優待を利用して優待を楽しみながら株式投資をしたい

小野和彦さん(仮名)会社員・40歳(既婚、共働き、子どもは3人)

 小野さんの奥さまは株主優待が大好きです。長期保有を前提に株式投資をしていて、一度購入したらずっと保有していたいと考えていて、値上がりや配当だけでなく定期的に優待をもらえることに楽しみを覚えています。

 ときおり銘柄の売買はしつつも、基本的には株価を気にせず優待を目的に投資をして、優待をうまく利用することで資産形成や日ごろの家計に役立てていました。

 小野さんはそうして優待が届くと楽しそうにしている奥さまをみていて、自分も優待投資をしてみようかなという気分になってきました。ただこれまで優待をもらうよりも値上がりする株式を買った方がいいと主張してきたので、なかなか奥さまには素直に優待投資のコツを聞くことができません。

 株式投資の経験はあるので、まずは自分で優待投資を調べてみることにしました。小野さんが優待投資をうまくやっていくためにはどうしたらいいのでしょうか?

優待投資を実践した人が陥りがちな失敗に要注意

 投資先企業からの優待を狙って株式投資をする優待投資は、とても人気のある投資の一つです。日本では主に3月と9月決算の上場企業が多いですが、毎月決算を迎える企業は多数あり、優待の種類や数もさまざまです。

 資産形成ではインデックス投信を利用した積立投資が主流になってきていますが、やはり従来からの株式投資も人気があります。機械的に毎月決まった商品に投資をする積立投資に比べて、株式投資は銘柄ごとに特色があり、千差万別であることが魅力でもあります。

 優待投資は株式投資の一種ですから基本的にハイリスクな投資といえますが、それだけにうまくいけばハイリターンも期待ができます。以前に優待投資をする際に損をしないために「事前に知っておきたい」ポイントをお伝えしました。

「やってはいけない優待投資!損をしないための鉄則3選」

  1. 鉄則1:優待内容を最優先で投資をしないこと
  2. 鉄則2:優待クロスorつなぎ売りの活用も検討すること
  3. 鉄則3:優待が廃止・不要になる可能性も考えておくこと

 今回は、優待投資を実践する人に陥りがちな失敗をお伝えします。

やってはいけない優待投資の注意点1:投資する銘柄を増やし過ぎないこと 

 優待狙いで株式へ投資する場合は国内株式が対象となりますが、売買は100株単位が基本で、最低購入株数を保有していれば優待をもらえる銘柄もあれば、優待によっては1,000株〜など株数によって優待の有無が決まったり、優待内容が変わったりします。

 元々優待は企業にとって株主数を増やすことが目的とされていましたが、短期的に優待だけを目的に投資されては意味がありませんので、優待がもらえる権利や優待内容を、保有期間によって差をつけることでより長期間保有する投資家を増やす株主対策も見られます。

 優待銘柄は、おおよそですが数万〜数十万円で優待がもらえるケースが多いので、人によっては10銘柄20銘柄とどんどん優待がもらえる最低株数だけ購入して銘柄を増やしていく人もいます。そうなると投資金額も比例して増えていくことになりますので、あくまで株式投資をしてもいい資金の中で投資することも重要です。

 さらに注意しておきたいことは、銘柄が増えれば増えるほど管理する手間が増えるということ。優待投資も株式投資の一種なので企業業績などによっては売却も検討する必要がありますが銘柄が多くなれば一つ一つの銘柄を管理する時間も減ることになります。自分が把握できる範囲内の銘柄数におさえておきましょう。

やってはいけない優待投資の注意点2:優待銘柄がもらえる条件を確認すること

 優待銘柄を検討する場合にまず確認することは、「優待の権利確定日」「優待が貰える株数」「優待取得条件となる保有期間」を確認することです。

 それよりも銘柄によっては「権利確定日」が月末ではなく、10日や15日に設定されている銘柄もありますので、しっかり調べてから購入する必要があります。優待目的で株式を購入したと思ったのに、権利確定日を間違えて優待をもらえないのでは意味がありません。

 そして、優待がもらえる条件には「株数」や「保有期間」に条件が設定されている銘柄もあります。株数については確認しない人は少ないと思いますが、保有期間については普段意識することは少ないでしょう。保有すればするほど条件がよくなる銘柄もありますが、継続保有しているとつい忘れがちになる条件です。

 そして優待投資も優待目的とはいえ株式への投資です。優待内容の価値や良しあしは人によっても変化しますが、株価の変動による資産価格の変動は、優待でもらえる商品やサービスから得る利益よりも大きくなるでしょう。優待銘柄を検討する際には配当もどの程度出るのかを考え、優待を得る条件と比較した上で投資判断をしましょう。

やってはいけない優待投資の注意点3: 購入するタイミングを焦らないこと

 優待銘柄を検討する場合は、高配当銘柄と同様に権利月になり権利確定日が近づくほど、優待目的に購入する人が増えるといわれています。ただし、どの程度売買量が増えるのか不明瞭ですし、銘柄ごとに違いもあるでしょうからそれほど重視する話ではないと思います。

 ただし、優待投資も株式投資である以上、取得株価がいくらかという点は重要です。できるだけ安く買いたいという心理が働くのは当然ですが、いつが買い時かなど簡単にわかるわけもありません。とはいえ優待を優先して株価を高値づかみしてしまっては本末転倒です。

 もし優待が最低購入株数の100株からもらえる銘柄なら、焦らずに良さそうなタイミングがあれば購入するという判断でも遅くはないでしょう。100株ではなく、500株や1,000株からが対象であるなら一度に購入するのではなく、優待の権利確定日までに何度かにわけて購入するというのも手です。

 優待投資では積立投資よりも投資する資産である株式をしっかり分析することが必要です。将来性がある、安定した業績が期待できるなど株式投資として魅力のある銘柄だという前提があってこそ魅力的な優待投資先だと言えます。

優待を楽しみながら資産を増やそう

優待投資は個人投資家ならではの株式投資の楽しみ方

 株式優待は日本独自の制度で、海外ではほとんど見られません。実際に優待をもらうよりも、その分配当でもらった方が企業としてのコストも低いでしょうし、合理的です。もともとは企業が株主を増やして株価を安定させたり、応援してくれる株主を増やすことを目的に始まったといわれていますが、日本人にはとても受けのいい制度です。

 ただ単純に株価の値上がりや配当で資産を増やすことを目的とするのではなく、優待という楽しみを持ちつつ企業の成長を期待していくことが株価変動に踊らされずに株式投資をするコツの一つではないでしょうか。

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