資産形成の正解は人それぞれですが、一方で、多くの人が失敗してしまう考え方や、やり方があるようです。このシリーズでは、資産形成を始める人が陥りがちな失敗事例を取り上げ、やってはいけない行動をわかりやすく解説します。

お悩み

新しいNISA制度がすごいと聞くけど、どうしたらいいの?

町田弘基さん(仮名)会社員・45歳(既婚、共働き、子ども1人)

 町田さんは昨年からNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)を利用して株式投資を始めました。つみたて投資にも興味がありましたが、コツコツ増やすよりも数年後に大きく資産を増やしたいというニーズの方が強かったので年間120万円を最長5年間投資ができる一般NISA枠を選びました。

 そうして来年はどうしようかなと考えていた時に「令和5年度税制改正大綱」が発表されました。参考記事を見てみるとNISAが改正されて現行の制度に比べてかなり良い方向にかわると記載されており、うれしい気持ちになった半面、これまでの投資予定とかわってくるので面倒だなという気持ちも芽生えました。

 とはいえせっかく制度が拡充されるなら利用しない手はありません。町田さんも新しい制度をどのように利用するべきか検討し始めました。すると資産を大きく増やす目的の成長投資枠にあわせてつみたて投資枠も使えると気づき、非課税枠だけでもかなりの投資金額を利用できることを知りました。

 ただすでに現行のNISAを利用していることもあり、どうやって新しいNISAに移行していくかを悩んでいます。新しいNISA制度へどのように対応するべきなのでしょうか?

新NISAも現NISAも、どちらもうまく利用していこう!

 現行のNISAは2023年末で終わり、2024年からは新しいNISA制度がスタートします。新NISAは非常に使い勝手が良く、投資枠の拡大や投資期間が無期限、制度も恒久化となるなど、非常に魅力的な制度に改められました。

 【2024年からの新NISA制度について、詳しい説明はこちら

 多くの人から高い評価を得ている新NISAですが、すでに現行NISAを利用して投資をしている人も多数います。そして、現行のNISAも決して悪いものではありません。

 大切なことは、両制度の違いを理解して自分にとって最適な投資行動を選ぶことです。それは、これまで一般NISAとつみたてNISAのどちらを利用しているのか、投資家の年齢・今後の収支・投資目的などによってかわってきます。

 新NISAの特徴として、「投資金額の大幅な拡大」「期限付きの投資が無期限かつ恒久化」「つみたて&成長投資枠(元一般枠)の両輪」が挙げられます。つまりこれまでNISAの課題といえると指摘されていた点がほとんど解消されています。どんな投資家にとっても恩恵がある制度と言っても良さそうですが、制度は使えば良いというものではありません。

 そこで、2024年からの新しいNISA制度をうまく利用するためにも、2023年以降のNISA投資で「やってはいけない」ことをお伝えします。

今年と来年のNISA枠トリセツ1:新NISAのために現行NISAをやめる

 新NISAは投資期間の制限がなくなったことで、現行NISAで投資していた資金を新NISAに移そうと考える人がいるようです。たしかに、現行 の一般NISAでは年間120万円の投資枠がありますが投資期間が5年間以内と期間がそれほど長くなく、つみたてNISAでは投資期間は20年と十分余裕がありますが、投資枠は年間40万円とそれほど多くありません。

 それに比べて新NISAでは年間360万円の非課税枠利用が可能です。一般NISAに該当する成長投資枠では年間240万円(買付残高1,200万円まで)を無制限、つみたて投資枠では年間120万円(買付残高1,800万円、うち成長投資枠1,200万円)を無制限でどちらも制度は恒久化されています。上位互換といえるほどの制度となる新NISAに移行しようとする気持ちはわかります。

 しかし、現行NISAも2023年分までに投資した分はそのまま投資可能期間が過ぎるまでは利用が可能なので、無理に現行NISAをやめる必要はありません。投資可能期間が過ぎれば順次課税口座に移管されることになり、これまでのようなロールオーバー(非課税枠への移管)はできなくなります。

 もともとNISAは年単位の期間を考えて投資することを前提とした制度です。新しい制度ができるからといってもすぐに切り替えをするのではなく、少しずつ移行していけば良いでしょう。新NISAも枠が広がるといっても、限度はありますので現行NISAもうまく利用しつつ、できるだけ非課税枠を生かしましょう。

今年と来年のNISA枠トリセツ2:NISA枠を使い切ることを前提にする

 NISAの非課税枠に上限があることから、できるだけギリギリまで購入しなければもったいないと感じるかもしれません。実際に毎年12月ごろになると非課税枠の残りを確認して追加投資したいという連絡がよくあります。もちろん投資する余裕資金があるなら問題ないのですが、NISA枠は使わなければいけないものではありません。

 特に新NISAは投資できる金額も大幅に増えています。もし非課税枠を基準に投資を考えていると、自分の適切な投資金額を超えてしまうかもしれません。NISAの非課税メリットを享受しようとすると、値上がり目的の投資になることが自然です。

 そうなった時に投資金額が自分の許容量を超えていると、いざ相場が調整局面になって資産が目減りした際に、評価損に耐えられずに投資をやめてしまう可能性が高まります。どんな投資も「自分」を基準に考えるべきです。

 現行NISAでは年間の枠と期間が決まっていましたが、新NISAではその縛りがなくなっているので無理に年度内に利用枠分を使い切る必要はありません。その代わりに「非課税保有限度額(生涯投資枠)」が設定されています。

 その金額が1,800万円となっており、そのうち成長投資枠が1,200万円上限なので、時間をかけて自分のタイミングで枠を使っていけば良いでしょう。

 非課税保有限度額は、簿価ベース(取得金額)で計算されます。つまり、新NISA枠で購入した商品を売却した場合は、「簿価」が減少するので枠が何度でも再利用できるという点にあります。残念ながら年間投資上限額には制限がありますが、これまでより非常に使い勝手がよくなり、突発的な支出に対応するなど柔軟な資産管理が可能になります。

今年と来年のNISA枠トリセツ3:新NISAが始まるまで何もしない

 新NISAは2024年からスタートしますので、それから対応しようと考えているのであればもっと早めに行動することをおすすめします。なぜならNISA口座が1金融機関にしか作れないのは今後もかわりませんし、現行のNISA口座を保有していれば自動的に新NISAの口座も作成されます。

 なおかつ、2023年度にNISA口座を保有していれば現行のNISA制度も利用できるため、今年から運用を開始することで一般NISAなら120万円、つみたてNISAなら40万円のどちらかを非課税で運用することができます。ただ2024年を待つよりも、現行NISAの枠を利用してウォーミングアップする方が有意義な時間の使い方でしょう。

 新NISAでは現行NISAと同じような商品が買付できる予定です。ただし、つみたて部分は現行のつみたてNISA対象商品が引き継がれる予定ですが、成長投資枠では上場株式・投資信託などのうち「整理・監理銘柄、信託期間20年未満・高レバレッジ型・毎月分配型の投資信託等」は除かれる予定です。

 もちろんだからといって無理にNISAを使って投資をしなければいけない話ではありません。しかし、投資は準備がとても重要です。特にNISA口座などはいざ投資をしようとしても口座開設手続きの完了にも時間がかかります。まずは準備をしっかりしておいて、いつでも投資できる状況にしておくようにしましょう。

他の誰でもない「自分」にとっての最適を探す

慌てず制度を理解し、2023年中にするべきことを手掛けよう

 情報が溢れる現代では、新しい制度ができるとあっという間に多くの人やメディアが多種多様な意見を発信してくれます。その中にきっと欲しい情報が見つかるはずです。ただし、情報を探すときには必ずメリットとデメリット、ポジティブな意見とネガティブな意見を比較することが大切です。

 何よりも、必ず自分で一次情報(新NISAなら金融庁が発信する情報)を探して調べることを忘れてはいけません。もちろんその情報が理解しづらく小難しい場合は、要約してくれている解説記事などを利用しても良いでしょうが、他の人の意見に流されないためにも自分で調べる癖をつけていきましょう。

 情報を調べて比較検討した後は、慌てることはありません。そのときに自分にとって最適だと思うことを一歩ずつで良いので行動にうつしていきましょう!

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