米国株式が上昇トレンドをたどってきた理由と投資戦略

 過去30年において米国株が(小幅もしくは大幅な調整を経て)長期にわたり上昇してきた実績、要因、投資戦略を改めて確認したいと思います。図表3は、1994年以降のS&P500を左軸で示し、S&P500ベースの加重平均予想EPS(1株当たり利益:Bloomberg集計による市場予想平均)を右軸に示したものです。

 過去30年で市場が3度直面した景気後退(ITバブル崩壊、金融危機、コロナショック)時には予想EPSが大きく落ち込み、業績の減益を先読みして株価は大幅に下落しました。

 しかし、大局的に振り返ると「30年前に500ポイントだったS&P500が5,000ポイントの約10倍」となってきた主因として、「30年前と比較して予想EPSが約10倍に成長してきた」という事実も分かります。

 景気後退、金利上昇、需給悪化で株価が一時的に下落した局面を乗り越え、予想EPSが示す業績見通しの最高益更新がS&P500の最高値更新(長期的な米国株高傾向)を支えてきた主要因と言えるでしょう。

<図表3>米国株価が上昇してきた理由は予想利益が拡大してきたから

*S&P500ベースの予想EPSはBloombergによる集計平均
(出所)Bloombergより楽天証券経済研究所作成

 IMF(国際通貨基金)が16日に発表した最新の世界経済見通しは、2024年の世界の実質GDP(国内総生産)成長率を+3.1%と(1月時点予想より)0.1ポイント上方修正しました。そのエンジンは、世界のGDP総額の約4分の1を占める米国の実質成長率を(1月時点予想の+2.1%から)+2.7%に大幅上方修正したことが主因です。

 米国景気の拡大と生成AI(人工知能)を軸とする技術革新の幅広い産業への導入で生産性や収益性が改善し2024年も2025年も米国市場は最高益更新が見込まれています。

 上記した「利益予想が成長してきたから株価が上昇してきた」との市場実績は、株式が「成長証券」(Growth Securities)と呼ばれる証(あかし)です。もちろん、リスク要因として米国市場が「景気後退」や突然の「〇〇危機」に直面する事態となれば予想利益が減少(減益)に追い込まれ株価が大幅下落する可能性を否定することはできません。

 そうした場合では、図表2で示した「ドローダウン」を振り返り、株価が大きく下落したときこそが「ピンチはチャンス(好機)だった」との市場実績を再認識したいと思います。

 筆者が検証しているシミュレーションでは、1994年1月から毎月末に5万円ずつを「円建てS&P500総収益指数(配当込みトータルリターン指数:為替ヘッジなし)に定時定額投資(積立投資)を続けてきたと仮定すると、2024年3月末時点の時価資産総額は「1億5,587万円」に膨らんできました。

 これは、累積投資元本(1,815万円=5万円×363回)の約8.6倍に相当します。こうした投資成果は、株価が下落した際に効果を発揮する「ドルコスト平均法」と「複利効果」(雪だるま効果)のたまものです。

 米国で長期投資に関する教訓として「Stay Invested!」(投資し続けること!)という言葉があります。特に定時定額投資を実践する上では、株式相場が下落しても過度に動揺せず、「下落したから安く積み増し買いができる!」くらいに冷静に受け止めて前向きな投資を続けていくことが長期的な資産形成に寄与すると考えています。

▼著者おすすめのバックナンバー

2024年4月19日:これが波乱相場?米国株、恐怖指数の上昇を先回り売りか(香川睦)
2024年4月12日:S&P500に暗雲が迫る?株価下落にどう対応するか(香川睦)
2024年4月5日:外貨に対し円は全面安?内外株式の長期リターンを検証(香川睦)