買収価値と比べて割安と考えられる銘柄をピックアップ

 今、日本の株式市場には、保有不動産に巨額の含み益があるにもかかわらず、株価が、純資産価値と比べて極めて割安な水準にとどまっている銘柄がたくさんあります。保有不動産の含み益を考慮した上で、純資産価値に比べて株式時価総額が低い株を、「買収価値の高い株」と呼びます。

 かつては、そういう銘柄に敵対的買収が仕掛けられることがよくありました。特に、外資のハゲタカファンドや、旧村上ファンドなどが活発に動いた2005年は敵対的買収が社会現象となりました。

 2005年に大活躍したハゲタカファンド(買収ファンド)がいれば、真っ先に狙われそうな銘柄群が、今は多数あります。

 ところが、2006年以降、ハゲタカファンドは日本からほとんど撤退しました。資産を狙う買収に対して、日本で社会的非難が集中し、2006年には日本の上場企業が次々と買収防衛策を導入しました。これでハゲタカファンドは撤退し、買収ブームは終焉しました。

 ハゲタカは去り、割安な「含み資産株」に、敵対的買収を仕掛ける買い手がなくなりました。純資産価値と比較して割安と分かっていても、注目する投資家がいなくなりました。敵対的買収は昨年8月に経済産業省が公表した企業買収の新指針に基づき「同意なき買収」に名前を変えて、近年、少しずつ復活していますが、資産を狙う買収はあまりありません。

 今日のリポートでは、そういう「含み資産株」に改めてスポットライトを当てます。まず、先に挙げた1,200億円以上の含み益がある銘柄のうち、含み益上位10社のPBR(株価純資産倍率)と、含み益を考慮した実質PBR【注】をご覧ください。

【注】実質PBR
 保有不動産の含み益(税効果を考慮した金額)を、自己資本に加えて計算したPBR。法人税率を3割と仮定して、含み益の7割を自己資本に加えて、計算している。

賃貸不動産の含み益上位10社のPBRと実質PBR

  コード 銘柄名 含み益
:億円
連結PBR
:倍
実質PBR
:倍
1 8802 三菱地所 4兆6,339 1.54 0.67
2 8830 住友不動産 3兆7,367 1.33 0.59
3 8801 三井不動産 3兆2,626 1.50 0.88
4 9020 JR東日本 1兆5,867 1.31 0.96
5 9432 NTT(日本電信電話) 1兆3,707 1.66 1.75
6 9042 阪急阪神HD 5,324 1.12 0.89
7 8804 東京建物 5,264 1.06 0.61
8 9005 東急 5,259 1.51 1.07
9 8267 イオン 4,638 2.95 2.39
10 9531 東京ガス 4,492 0.83 0.75
出所:各社有価証券報告書、QUICKより楽天証券経済研究所が作成

  このリポートでは、実質PBRが0.7倍を割れている銘柄を、「買収価値が高い株」と呼ぶことにします。賃貸不動産の含み益が1,000億円以上で、実質PBRが0.7倍以下の7社をピックアップしたのが、以下です。

賃貸不動産の含み益1,000億円以上、かつ実質PBR0.7倍以下の7社

  コード 銘柄名 含み益
:億円
実質PBR
:倍
1 8841 テーオーシー 1,102 0.37
2 8830 住友不動産 3兆7,367 0.59
3 8804 東京建物 5,264 0.61
4 8905 イオンモール 3,255 0.61
5 5901 東洋製缶GHD 1,158 0.62
6 8802 三菱地所 4兆6,339 0.67
7 9302 三井倉庫HD 1,104 0.70
出所:各社有価証券報告書およびQUICKより楽天証券経済研究所が作成

  この中で、一番投資価値が高いと私が考えるのは、三菱地所(8802)です。ついで、住友不動産(8830)テーオーシー(8841)イオンモール(8905)の投資価値が高いと考えています。

▼著者おすすめのバックナンバー

2024年3月25日:平均利回り4.4%、日経平均が急騰する中、値下がりが続いてきたJリートを見直す。(窪田真之)
2024年3月5日:いいタイミングで株を売るには。初心者でもまねできるルール(窪田真之)