日経平均は今年3万6,000円くらいか、来年は3万8,000円?

──日経平均株価(225種)は年初の2万5,000円台から7月3日に3万3,753円を付けバブル経済崩壊後の最高値を更新し、上昇が続きました。足元では調整が続いています。先行きをどう見ますか?

 日経平均が3万円くらいまで調整することはあるかもしれませんが、大崩れして2万7,000円が見えてくることは、日本銀行が急にマイナス金利を解除したり、台湾有事が起きたりしない限りはないかもしれません。

 8月は夏枯れ相場といわれ調整のためいったん売られるかもしれませんが、大枠は米国がこの先、再び金融緩和に転換する局面を迎えます。

 日本は、日銀がマイナス金利を解除するところが大勝負ですが、まだ答えが出ていません。日本経済が消費意欲や賃金、物価も強くて、金利を上げないと過熱しすぎて困る、そんな状況になって初めて手を付けるんじゃないでしょうか。

──日経平均はバブル期に記録した最高値3万8,915円(終値ベース)を超えられますか?

 EPS(1株当たり純利益)、PER(株価収益率)から計算すると、今年は3万5,000円、3万6,000円くらいまでだと思います。企業の純利益の何倍になるか計算するだけなんです。日経平均株価がEPSの何倍になるか、高くて16倍、低くて11倍です。16倍を掛けても3万6,000円くらいです。今年は上がるといってもそれくらいかなと思っています。

 日本経済は基本的に成長しているので、日経平均は来年、企業の利益が上がれば、16倍を掛けて3万8,000円が見えてくるかもしれません。今の日経平均は実体経済からかけ離れた数字にはなっていません。

米経済軟着陸の見通し強まる、日銀マイナス金利解除は来年春闘後が焦点

──日本を除いて、世界的な金利高になっています。金利が高いと株価にはマイナスの影響があるといわれますが、心配しなくても問題ないでしょうか?

 まず、米国の金利は既に高水準でいくところまでいきました。この先、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)は利上げを停止し、利下げに転じる金融緩和の方向が見えてきています。金利の上げ下げを判断する物価指標のCPI(消費者物価指数)でも前年同月と比べた上昇率が下がってきています。

 米国は来年以降、緩和方向に入るとみられますが、この1年ほどでCPI上昇率を目標の2%まで落としていけるか、景気を腰折れさせずうまく着陸できるかが勝負です。

 ただ米景気が波乱なくソフトランディング(軟着陸)するシナリオが見えてきたのも確かです。新築住宅販売件数は住宅ローンが7%ほどの高金利でも伸びています。2023年4-6月期の実質GDP(国内総生産)成長率も年率換算で前期比2.4%伸びました。

 企業決算も4-6月期がボトム(底)といわれていますが、業績見通しを上方修正する企業もありました。ここから今年後半に業績を回復させ、来年、本格的に上がるとの見方も出ています。

 米経済は軟着陸の可能性が高まってきたというのが今の市場の見立てで、株価も堅調です。これが世界経済を見る上で大前提になります。

 日本は、2023年度の企業業績は増収増益の見通しです。設備投資もDX(デジタルトランスフォーメーション)や脱炭素系の分野で旺盛な企業が目立っています。

 日銀短観のアンケートでは、2023年度の設備投資計画が全産業全規模で前年度比11.8%増えるとの結果があり、民間調査では名目設備投資額が100兆円を超えるとの予測もあります。これは景気の良さを表しています。ただ、日銀が政策変更にかじを切っているので、少し心配ということが論点になります。

──日銀が7月の金融政策決定会合でYCC(イールドカーブ・コントロール、長短金利操作)の修正を決め、長期金利の上限を0.5%から1.0%に事実上引き上げました。

 今回の長期金利の上限を引き上げたことはうまくやったという認識です。日銀が昨年12月に長期金利の変動幅の上限を上げた後、為替相場は今年1月に1ドル=127円台まで円高になりました。物価には良かったかもしれませんが、日本株は円高で少し軟調になりました。

 7月の日銀の決定では長期金利の上限を実質的に引き上げて、直後に10年債の金利は上がりましたが、市況は上がりました。市場が、日銀があくまで金融緩和を続けるというメッセージを受け取ったためです。

 日銀は、金融緩和を維持したい。金利のコントロールも緩和の一つの手段だけど、物価が上がる中で長期金利を0.5%に止めておくと、日銀のコントロールが利かなくなってしまいます。

 YCCと似た政策をコロナ禍の2020年に導入したオーストラリアでは、実際にインフレ率が急上昇し、物価がこんなに上がっているのに金利が上がらないはずがないと市場が中央銀行の言うことを聞かなくなり暴走してしまったことがありました。オーストラリア準備銀行は市場の混乱で金利操作をやめざるを得なくなりました。

 日銀の植田和男総裁はそれを知っているので、金利のコントロールを自分たちの手の内に置くため、運用に柔軟性を持たせる今回の決定をしました。オーストラリアのようなことにならないために優れた判断でした。

 長期金利が0.5%から1.0%の幅で動くなら景気にも株価にもダメージはないと思います。問題は短期金利で、日銀がマイナス金利をいつ解除するか、当面は触りませんと伝えています。ここは賃金上昇が十分ではない中で、政策金利を触ったら、景気が完全に腰折れしてしまいます。

 物価は上がっていますが、物価変動の影響を反映した実質賃金は下がっています。実質賃金が前年と比べてプラスに浮上するタイミングが来年の春闘の後に来ると思いますが、その時マイナス金利を解除するかどうか。いずれにしても1年くらい余裕があります。そのため相場はしばらく持つのではないでしょうか。

 最後に、足元で日本の「名目CDP」が「実質GDP」をしっかりと上回る動きが見られます。物価上昇を加味した【名目GDP>実質GDP】の構図は米国では当たり前です。しかし、長らくデフレだった日本は名目GDPの方が小さい時期がありました。ショックなデータです。

 しかし、最新の4~6月期の実質GDPは年率換算で「6%」に対して、名目GDPは「12%」です。これから名目が実質を引き上げていく、そんな、デフレから脱却できる小さな兆しを感じています。

(取材はトウシル編集チーム 田嶋啓人)

馬渕磨理子(まぶち・まりこ)氏
 日本金融経済研究所代表理事。経済アナリスト。ハリウッド大学院大客員准教授。イー・ギャランティ社外取締役。企業価値向上について研究に取り組む。京大公共政策大学院修士課程修了。法人の資産運用や金融メディアのシニアアナリストを務め、ベンチャー企業への株式投資型クラウドファンディングのFUNDINNO(ファンディーノ)で日本初のECFアナリストとして政策提言に関わる。フジテレビのニュース番組「LiveNewsα」に出演中。近著に『日本一忙しい経済アナリストが開発! 収入10倍アップ超速仕事術』。YouTube「馬渕磨理子の株式クラブ」

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