本来のガソリン価格は156円!?原油価格との連動性が低下している

 原油相場の急上昇が、ガソリンや軽油、灯油といった石油製品の価格上昇の、直接的な要因と言われています。石油製品の原材料である原油の価格が上昇すれば、原油から作られる製品の価格も上昇する、という話です。

 ここからは、こうした「連動」の話を一歩先に進めて、「連動の程度」に注目します。以下のグラフは、ガソリン価格(ガソリン税と消費税を除いた額)と、価格の単位が円の日本で主に使われている中東産原油の価格(ここでは先物価格を参照)の推移を示しています。

図:全国のレギュラーガソリン小売価格(諸税抜)と 中東産原油先物価格(中心限月)

出所:資源エネルギー庁およびブルームバーグのデータより筆者作成

 過去20年間の、これら2つの価格推移に注目すると、改めて、連動していること(ガソリンが原油から作られていること)がわかります。

 リーマンショック(2008年9月)前の史上最高値と、翌2009年初旬の安値を重ねると、同ショック前までの上昇時、同ショック後の急落時、世界的な金融緩和や「アラブの春(中東・北アフリカ地域の民主化の波)」などによって起きた上昇時、「逆オイルショック」の下落時、その後の反発時など、記録的な値動きの際、ほとんど2つは連動していました。

 ただ、2020年4月ごろからは、やや、連動性が低下したように見えます。2020年4月といえば、「珍事」とも言われた、原油価格の国際指標の一つであるWTI原油先物価格がマイナス圏に至ったタイミングです。この時、ガソリン小売価格は、原油価格ほど、下落しませんでした。

 このタイミングを機に、ガソリン小売価格の水準が、原油よりも高くなりました。その後、2つは大きく反発し、現在に至るのですが、まだ、差は埋まっていません。

 仮に2020年4月に、ガソリン小売価格が原油価格と高い連動性を保ったまま下落し、その後、反発したとすると、諸税を除いたガソリン価格は、今時点で1リットルあたり88円程度とみられます。これに諸税を含めた推定小売価格は156円です。つまり、167.3円という足元の小売は、推定価格よりも11円以上、高いのです。

 2020年4月に、ガソリン価格と原油価格の連動性が低下したのは、原油が一方的に下がり過ぎたためなのか、ガソリンが原油に追随しきれなかったためか、それともその両方なのか、議論の余地はありますが、原材料が原油である点(けん引役は原油である点)を考慮すれば、ガソリンが原油の下落に追随しきれなかったことが、大きいと言えそうです。

 なぜ、ガソリン価格が原油価格の下落に追随しきれなかったのでしょうか。精製コスト(原油を石油製品にする時のコスト)、輸送代、販管費、人件費のほか、脱炭素に対応するための新たな費用などの、さまざまなコストが膨らんでいたことが原因とみられます(「便乗値上げ」も否定はできないでしょう)。

 以下のグラフは、米国におけるレギュラーガソリン小売価格と原油価格の推移を示しています。日本と同様、リーマンショック前後の高値と安値を固定すると、現在、ガソリンが上振れしていることがわかります。

図:米国のレギュラーガソリン小売価格(税抜)と WTI原油先物価格(期近限月)

出所:EIA(米エネルギー省)およびブルームバーグのデータより筆者作成

 日米のレギュラーガソリン小売価格と原油価格の関係より、特に今年の春以降、ガソリン小売価格は、原油価格の動向だけでなく、消費国側の都合も反映していることがわかります。こうした、消費国側の都合は、原油生産国に、どのように映っているのでしょうか。