ささやかれる「もしトラ」リスク

 最近「もしトラ」リスクが、急速に注目を浴びています。11月の米大統領選で、「もしトランプ元大統領が再選したら」起こるであろう混乱への不安が、「もしトラ」リスクとしてささやかれるようになりました。

 共和党の大統領候補の指名争いで、目下トランプ氏が圧倒的優勢を保っています。このままの勢いで共和党候補となり、11月の大統領選で、支持率低下が著しいバイデン民主党政権の候補者を破ることも、考えられる情勢となってきました。

 トランプ氏は、大統領時代に「米国第一主義」を打ち出して米中関係を悪化させ、パリ協定を離脱し、保護主義を強化して、世界経済や金融に混乱を与えたイメージがあります。今も、「米国第一主義」を旗印に、米国で熱烈な支持者を集めています。そのトランプ氏が再選となれば、米国第一主義への不安から、株が売られるのではないかという不安がささやかれています。

 現時点で、「トランプ氏が再選するかどうか」「再選した時にどういう政策をとるか」予想するのは困難ですが、私は、トランプ氏が大統領に再選しても、株式市場に対するリスクはそんなに大きくないと考えています。それには、二つの理由があります。

【1】トランプ氏が株式市場に与えたイメージは選挙戦の前後で大きな隔たりがあった

 トランプ氏は2016年11月の大統領選で当選しました。選挙期間中には、「もしトランプ氏が大統領になったら」株式が暴落するリスクが大いに語られていました。そしてトランプ氏優勢が伝わると不安から株が下げました。

 トランプ氏当選が伝わった後、最初に開いた東京市場では日経平均が大きく下がりました。ところが、トランプ氏の勝利宣言を聞いた後の米国市場では株が急騰しました。株式市場に期待を与える内容がふんだんに盛り込まれていたからです。以後、トランプ氏への期待から世界の株が急騰する「トランプラリー」が起こりました。

<トランプ氏の2016年11月の勝利宣言抜粋>
(1)全ての共和党、民主党の党員に対して、米国の国民として団結することを訴えたい。
(2)全ての国と共通のグラウンドを持ち、良好な関係を築いていきたい。
(3)高速道路・橋・トンネル・空港・学校・病院といった社会インフラを再建する。インフラ再建で何百万人の雇用を生み出したい。

【2】トランプ氏は、株式市場に対して友好的だった

 トランプ氏は、株式市場の動きに敏感な大統領でした。米中関係を悪化させる政策が多かったものの、米中関係悪化が原因で株が大きく下がると融和的になる傾向がありました。

 トランプ氏は、2016年の選挙戦では、労働者・低所得者の味方で、大企業・富裕層に厳しいイメージを持たれていました。伝統的な資本主義政策と異なる、社会主義的な政策を実行するイメージを持たれていました。

 ところが、大統領になってから実施した政策は、そのイメージと異なる伝統的な資本主義政策が多かったと言えます。その代表が、大企業・富裕層に有利な大型減税の実施です。トランプ政権の大型減税は、株価上昇に大いに寄与しました。

 トランプ氏が打ち出した「米国第一主義」が不安を生じましたが、孤立主義ではありませんでした。中国に敵対的姿勢を見せる一方、日本との協力関係は強化しました。

 また、ロシアのプーチン大統領に対して友好的姿勢をとっていました(それが原因でロシアゲート事件の追及を受けることになる)。また、イラン原油の禁輸を強化する一方、北朝鮮の金正恩書記長と史上初の米朝首脳会談を実現するなど、外交面で特色を出しました。

日本株押し目買い方針は変わらず

 日本株の投資判断は変わりません。日本株は割安で、長期的に上昇余地が大きいと判断しています。ただし、一本調子の上昇は見込めません。

 今年に入ってからの上昇ピッチはやや速すぎると考えています。今後、短期的に、円高などを嫌気して下落する局面もあると思います。時間分散しながら割安な日本株を買い増ししていくことが、長期的な資産形成に寄与すると考えています。

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