2014年、確定拠出年金利用者が500万人に達する

1月23日の日本経済新聞1面はなかなか刺激的なタイトルが踊りました。「確定拠出年金 普及期に」というものです。

パナソニックや全日空など、今までは確定拠出年金を部分的に導入していた企業が全面的な切り替えを図ったり、NTTや富士通など、今まで導入していなかった企業が確定拠出年金の採用に踏み切ったりしたことで、確定拠出年金の利用者は2014年には500万人に達する、としています。また、残高の積み上がりも加速することでビジネスマーケットとしても成長し、普及期に入ろうとする観測記事です。ちなみに日経新聞も確定拠出年金を採用している企業のひとつです(厚生労働省ウェブサイトで情報開示されています)。

過去の記事も検索すれば、ソニーが2012年春から確定拠出年金を新規にスタートし制度を徐々に切り替えていったり、富士電機が現行の確定給付企業年金を2014年以降、確定拠出年金に一元化していくことなどが報じられており、確定拠出年金のウエートが高まっていることが確かに見えてきます。

企業が確定拠出年金採用(あるいはウエートの上昇)に動く理由のひとつは国際会計基準(退職給付会計)への対応です。同記事でも、2014年3月期決算以降は確定給付型の企業年金に積立不足が生じたとき、平準化して償却するのではなく、単年度の計上を求められていることが、確定拠出年金へのシフトの一因と指摘しています。

今回はこの、確定拠出年金と個人投資の関係について「なんとなく投資」の観点から考えてみます。

個人投資家にとって確定拠出年金はつまらない投資か?

すでに証券投資に慣れている個人投資家にとって、確定拠出年金の投資教育はあまりおもしろくないものに感じられるかもしれません。また、金額も小さく選択肢もパッシブ運用の投資信託中心に15~20本くらいしかなく、効率的な資産運用に取り組むにも選択肢不足と思われるでしょう。

確定拠出年金導入時の投資教育を受けてみれば、すでにネット証券で売買をしている人からすれば、ほとんど知らないことはない内容になっています。おそらく、証券口座開設をした頃、何冊か読んだ基礎的な投資テキストを読み返しているような懐かしい気分になることでしょう。

しかし、受講者のほとんどからすれば、かなり難しいプログラムとなっており、ほとんどの社員は当惑したりします。ゼロから復習するチャンスはそうありませんし、初心に返って一度読み返してみることをオススメします。意外な発見があるかもしれません。ちなみに、個別商品のセールス抜きに金融機関の職員が教育の講師をする機会は貴重ですから、そうした視点で受講してみると、セールストークのあり方なども見えてきたりします。

リスク商品の選択肢として投資信託しかないのはシステム上の制限です。毎月の数万円程度の掛金の積み上げにおいて、現物株式の売買が困難なのはやむを得ませんし、1円単位で決済しなければならない確定拠出年金の管理システムに、ETFの売買が対応しきれていないため、投資信託を利用するしかないのが現状だからです。とはいえ、確定拠出年金向け投資信託は、そう悪いものばかりではありません。

商品ラインナップをじっくりチェックしてみると「○○投資信託(確定拠出年金専用ファンド)」のような表記に気がつきます。こうした投資信託は、ノーロード(販売時手数料無料)、かつ解約時手数料(信託財産留保額等)なしの商品がほとんどです。また、信託報酬についても同名の商品より割安設定されていることが多く、運用商品として有利な条件が設定されていることが分かります。

ちなみに定期預金等も、300万円以上預けた場合のスーパー定期の金利を付与することが多く(仮に1000円の積み立てでも!)、確定拠出年金の専用商品の魅力的であることがよく分かります。

「確定拠出年金専用ファンド」の多くはベビーファンド形式をとっています。つまり、ひとつのマザーファンドから、銀行窓販や証券会社での購入向けに提供している投信と確定拠出年金用に提供する投信を分け、手数料設定を異なる提供としているわけです。確定拠出年金の場合、広告コストや販売時説明のコストが軽減されるため、その分を手数料引き下げという形で顧客に還元している構図になります。

これはつまり、同じファンドを買うなら確定拠出年金内で買う方が魅力が高いことになります(コストの差分、私たちが儲かることになるから)。特にパッシブ運用のインデックスファンドの信託報酬の低さはETFなみになっていることもあり、もしこうした魅力的な投資信託が数本でもラインナップされていれば、これは魅力的な投資の選択肢ということになります。投資経験者も「投資信託なんて…」と決めつけず、商品リストを再チェックしてみてください。

しかも、確定拠出年金における資産運用最大のメリットは「譲渡益非課税」であり「何度売買しても非課税措置が継続する」という点です。譲渡益非課税だけならNISAにもあるメリットですが、確定拠出年金は原則60歳まで受け取り不可としたトレードオフとして、売買回数の制限なく何度売り買いを重ねても非課税措置が継続します。いったん利益確定後、再エントリーして値上がりをねらうようなこともできます。実は投資経験者にもおもしろい投資選択肢であることが多いのです。

なんとなく投資教育を受けていないで戦略を練ろう

確定拠出年金の投資戦略については山崎元さんのコラムもありますが、私のほうでもシンプルにポイントをまとめてみます。

山崎元「ホンネの投資教室」 確定拠出年金の最適な運用法は?

  • 1.個人投資の資産と一元化して運用管理する
    確定拠出年金の資産と個人の資産は一元化して把握し、資産の適正配分を心がけます。会社が説明する責任を負うのは確定拠出年金内の運用の話かもしれないが、個人にとっては自分の全財産を自己責任で運用するのだ、という意識を持つことが重要です。
  • 2.目標の利回りやポートフォリオは自分で決める
    会社が「想定利回り」のように確定拠出年金のみの目標利回りを提示することもありますが、こうした利回りは気にせず、自分の資産全体でのポートフォリオを考えるべきです(会社は会社としての説明をするが、個人は個人の資産管理として考えればいい)。
  • 3.期待リターンが大きい投資対象、手数料が割安な投資商品は確定拠出年金で優先的に投資する
    一元的に資産管理をするなら、確定拠出年金内の有利な投資方法は優先的に利用すればいいでしょう。具体的には手数料が割安な投資信託は確定拠出年金外では購入できないので優先的に組み入れます。譲渡益非課税のメリットが最大限利用できるため期待リターンの高い投資対象も確定拠出年金内で優先的に投資したいところです。
  • 4.パッシブコアな運用戦略をとるなら、インデックス投資の部分は確定拠出年金におく
    投資信託で売買するということは一日一価格しか設定されず機動的な売買は難しくなります。また長期投資を前提とするためコストが低い投資を考えたいので、確定拠出年金の運用はインデックスを中心におくほうがいいでしょう(アクティブな投資をしたいのなら、それは手元資金で自由にやればいい。もちろんやらなくてもいい)。
  • 5.自分の老後資産形成として「崩さない」枠を意識する
    老後資産形成のための枠は、住宅購入資金や子どもの学費等に食われることが多いものです。ところが確定拠出年金口座は中途解約の誘惑を絶つことができます(法律上の制限により不可能のため)。老後資産形成の中核に確定拠出年金を意識し、これに追加し手元資産の上積みをはかっていきたいところです。
  • 6.マッチング拠出はなるべく利用する
    もし、会社の確定拠出年金においてマッチング拠出が可能であれば、自分の手元資金を確定拠出年金口座に入金することができます。自分の老後のための資産形成をすると現在の所得税・住民税が軽減されるメリットは他にありません。利用可能枠が数千円程度でも手元で貯めるより効果は大。可能な限り利用するとよいでしょう(ただし中途解約できないことに注意)。

「会社の投資教育はつまらない」と昼寝をしてしまうのはもったいない話です。確定拠出年金のポートフォリオと手元資金のポートフォリオをどう統合するか、また掛金の追加拠出において確定拠出年金と手元資金でどう組み合わせるか考えるのは熟慮を要するテーマです。

他の社員が必死に投資初体験の勉強をしている間に、投資経験者として自分の投資戦略を練ってみてはどうでしょうか。「なんとなく投資教育」を受けるのではなく、その90~120分を有意義に使ってみてください。