2021年夏、「脱炭素」「インフレ」の意味が変わった

 2021年夏、米国、中国、欧州など、そしてOPECプラスで、さまざまな大きな変化があったと述べました。こうした主要な国・地域における大きな変化は、市場を取り巻く環境を大きく変えるきっかけとなったと、考えられます。

 足元、NYダウが史上最高値を更新しているからといって、市場を取り巻く環境が、夏以前に戻った訳ではないことに、留意が必要です。「2021年夏の上げ止まり」は、大きな変化が発生したために起きた値動きだったと考えられます。

 こうした主要な国・地域における大きな変化は、それまでの「インフレ」と「脱炭素」の意味を変化させたと、筆者は考えています。

図:2021年夏に起きたさまざまな変化 [2]

出所:筆者作成

 夏前は、「インフレ」は、景気回復(期待を含む)時の物価高という、いわゆるデマンド・プル型でした。金融緩和が強く推し進められた時期だったため、景気回復期待が大きい状況の中で、さまざまなコモディティ(商品)市場に余剰資金が流入し、物価が押し上げられました。

 しかし、夏以降は様相が変わりました。主要国・地域で、金融緩和縮小(テーパリング)の議論が進んだり、各種規制が強化されたり、新型コロナの感染状況が悪化したりしたため、(株価は急落しなかったものの)景気停滞懸念が浮上しました。

 こうした中でも、エネルギー、一部の金属や農産物の価格が上昇しました。いわゆる原材料価格が上昇することで生じるコスト・プッシュ型のインフレ(物価高)です。

「脱炭素」の意味も変わりました。人類の経済活動起因で排出される温室効果ガスの排出量を削減し、地球温暖化の進行を鈍化させるための人類共通の、超長期的な取り組み、という本質的な意味に変わりはありませんが、夏以降、「インフレやリスク拡大の温床」、「覇権争いの具」、などの意味が認識されるようになったと、筆者はみています。

 往々にして、市場は景気が良い時(あるいは良くなる期待がある時)は、さまざまな事象を良いように解釈する(良いところ取りをする)傾向があります。しかし、悪くなる兆候が見られると、負のスパイラルに陥ったかのように、(同じ事象でも)悪いように解釈し始めることがあります。

 市場が、これまで表に出ることがなかった「脱炭素」の負の意味を認識するようになったのは、「2021年夏」に起きた、世界経済のけん引役が定まらなくなったことや、OPECプラスが態度を硬化させたことなどの、大きな負の変化が、きっかけだったと考えられます。

図:「脱炭素」の意味の変化

出所:筆者作成

「2021年夏の変化」によって、負の要素が認識されるようになった「脱炭素」は、「原油価格高」「金属価格高」、それらによる「インフレ(コスト・プッシュ型)」、さらには「覇権争い激化」「生き残れない企業増加」などのきっかけであり、「各種リスクの拡大」の要因とみられます。長期的には負の要素は解消する可能性はあるものの、少なくとも足元は、このような環境にあると考えられます。

「脱炭素」は、地球温暖化を食い止めるための、人類全員の共通テーマです。不可逆的(後戻りできない)テーマであるがゆえに、そのテーマが醸し出すさまざまな材料もまた(良しあし関係なく)、不可逆的といえます。

 このため、しばらくは、何らかの強い事象が発生して負の面が認識されなくなるまで、「脱炭素」の「負の面」が、各種市場を動かす一因であり続ける可能性があります。「脱炭素」の「負の面」が認識され続けた場合、金(ゴールド)、銅、原油相場はどのように推移すると考えられるでしょうか。