「あわよくば年内2,000ドル達成」シナリオを描く上での4つの留意事項

 ここまで、足元の金相場の反発とその背景について述べました。ここからは、1,900ドル、あるいは2,000ドルといった大台に、再び達する可能性があるのかどうかについて、考えます。

 足元、金相場を反発させている材料が継続すれば、筆者は1,900ドルも2,000ドルもあり得ると、現状では考えています。足元の材料は、以下の4つです。

1.各種不安が大きくなる
2.ドル金利の低下傾向が続く
3.暗号資産への懸念が大きくなる
4.金融緩和時は、株高が続いても問題ない

1.各種不安が大きくなる

 世の中に存在するさまざまな不安(有事のムード)が膨れ上がることで資金の逃避先需要がさらに拡大し、金(ゴールド)が資金の逃避先として買われる動機が強まり、今にも増して、金相場に上昇圧力がかかる可能性があります。

 今後、「有事のムード」が拡大するかどうかを考えるためには、目下、世界各国で猛威をふるい続けている新型コロナの状況がどう変化するのかに注目しなければならないでしょう。

「ワクチン接種率の上昇」と「新規感染者数の減少」が、同時進行することで安心感が増幅する(有事のムードが後退する)とみられますが、目先すぐには、そのような傾向は見られない可能性があります。

図:英国の新型コロナ新規感染者数とワクチン接種率

出所:Our World in Dataのデータより筆者作成

 上図は、英国の新型コロナの新規感染者数とワクチン接種率の推移です。Our World in Dataによれば、同国のワクチン接種率(1回以上接種)は、6月20日(日)にワクチン先進国として名高いイスラエルを追い抜き、7月9日(金)時点で67%と、カナダ(69%)に次ぐ世界2位です。

 その英国の新規感染者数ですが、6月半ばから、増加が目立ち始めています。数千人規模だった日々の新規感染者数は、7月に入り3万人を超える日も出始めています。変異株の一つで、感染力が強いとされるデルタ株の感染拡大がみられています。

 このような動きを受け、当初6月21日(月)とされていたロックダウンの緩和が、7月19日(月)に4週間延期されました。

 ワクチン接種率の上昇と新規感染者数の減少が同時進行して初めて、不安が後退すると考えられます。その意味では、世界全体でも、まだまだコロナ起因の不安は払しょくできない可能性があります。

 このため、今後も、「有事のムード」起因の上昇圧力が、金(ゴールド)市場にかかり続ける可能性があります。

2.ドル金利の低下傾向が続く

 以下の図の通り、6月16日(水)のパウエル議長の会見直後に急上昇した米2年債と米5年債の利回りが、今月に入り、大きく低下している点に注目します。

図:米国債利回りの推移 (2021年6月15日を100として指数化)

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 7月9日(金)時点で、米2年債利回りは急上昇分の半分が低下、米5年債利回りは急上昇分のほとんどが低下、米10年と30年債に至っては会見直前をも下回る、今年の2月中旬ごろの水準まで低下しています。

 このような動きを考えれば、あのパウエル議長の会見は、広範囲に強い思惑を振りまいたことは確かですが、今のところ、市場の値動きに大きな影響を与える要因にはなっていないと言えそうです。

 今後、FOMC(米連邦公開市場委員会)(年内は7月、9月、11月、12月)やジャクソンホールシンポジウム(8月26日~28日)などで、再びテーパリングの議論が噴出し、テーパータントラムが強まる可能性はあるものの、これらの会合が6月のあの会見を踏襲するサプライズ感のない会合となった場合は、米国債利回りの低下傾向は続くとみられます。

 同時に、ECB(欧州中央銀行)が引締め的な措置を開始することを示唆するなどして、ユーロに上昇圧力がかかれば、対ユーロの側面からドルに下落圧力がかかる可能性もあります。

 これらの点から今後も、ドル金利の低下傾向およびドル下落観測による「代替通貨」起因の上昇圧力が、金(ゴールド)市場にかかり続ける可能性があります。

3.暗号資産への懸念が大きくなる

 主要な暗号資産である「ビットコイン」「イーサリアム」「リップル」の値動きに注目します。暗号資産は、「無国籍通貨(いずれの国の信用の裏付けなしで存在できる通貨)」という、金(ゴールド)との共通点があります。

 ドルに先安観や金利低下観測が浮上し、ドルの代わりの通貨、つまり「代替通貨」を求める動きが強まった時、国の信用の裏付けなしで存在できる「無国籍通貨」の金(ゴールド)やビットコインが物色されることがあります。

 金(ゴールド)と暗号資産は「代替通貨」という分野で競合すると考えられるため、「代替通貨」の需要増加時、暗号資産が何らかの要因で資金流入が起きにくい事態が発生した場合、金への資金流入が加速することが想定されます。

 金(ゴールド)相場の反発が目立っている今、以下のグラフのとおり、ビットコインを含む主要な暗号資産の価格は、以前の急騰・急落が噓のように、穏やかな横ばいで推移しています。

図:主要暗号資産価格の推移 (2021年7月9日を100として指数化)

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 一部の財政難に陥っている国を除き、主要国では程度の差はあれ、暗号資産を規制する方向で一致していることが主な要因とみられます。

 また、かつて「マスク相場」とやゆされた、米電気自動車大手テスラ社のCEOであるイーロン・マスク氏の影響力が低下しているとみられることも一因とみられます。

 暗号資産が小動きであることは、「代替通貨」で競合する金(ゴールド)の立ち位置を、相対的に向上させる要因になると考えられます。

 目先、引き続き、暗号資産が小動きで、かつ「代替通貨」の需要が継続して存在すれば、金相場に上昇圧力がかかる可能性があると、筆者はみています。

4.金融緩和時は、株高が続いても問題ない

 以前の本欄で申し上げてきたとおり、金融緩和実施時は、以下の仕組みで「株高・金高」が発生することがあります。

 本レポートの図「足元の主要銘柄の騰落率」と「金(ゴールド)および、金と関わりが深い市場価格の推移」で、NY金とNYダウが同時に上昇している様子を確認できます。

 金融緩和が続いていることが条件ですが、株が高く、金も高いことは、今後も起こり得ると、筆者は考えています。株高が金相場を強く押し下げる要因にならない状態が続く可能性があります。