足元の金価格反発は、「代替通貨」「有事のムード」の側面からの上昇圧力で起きている

 足元、「FRBが方針を変えたため、ドルが上がり、金が下がる」というイメージが先行していますが、なぜ、金相場はそのイメージに反し、反発しているのでしょうか。その答えは、「代替通貨」と「有事のムード」の側面から注目することで見えてきます。

図:金(ゴールド)および、金と関わりが深い品目の価格推移

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 上図は、金相場の値動きに、「米10年債利回り」(左上)、「ドル指数」(右上)、「ビットコイン」(右下)、「NYダウ」(左下)の値動きを重ねたものです。

 金相場と「米10年債利回り」および「ドル指数」からは、「代替通貨(ドルの代わり)」として金が買われているか(売られているか)を、「ビットコイン」は、「代替通貨」として、金とビットコインのどちらが買われているか(売られているか)が読み取れます。

 金相場と「NYダウ」からは、「代替資産(株の代わり)」として金が買われているか(売られているか)が読み取れます。足元、「株高・金高」が起きているため、金は「代替資産」の側面から、価格が下落するくらいの下落圧力を受けていないことがわかります。

「米10年債利回り」は低下、「ドル指数」は頭打ち、「ビットコイン」は低迷、という点から、足元、金は「代替通貨」として買われていると言え、このことが一因となり、価格が反発していると、言えます。

 また、「代替通貨」以外に、「有事のムード」起因の上昇圧力も存在すると考えられます。あのパウエル会見がもたらした「記録的な価格上昇を支えてきた金融緩和が終了するかもしれない」という観測は、株式、コモディティ(商品)、通貨、など、幅広い市場の下落要因となった2013年5月の「バーナンキ・ショック」を想起させ、市場関係者の間で、目下、大きな懸念点となっていると、考えられます。

「あのパウエル会見」や「バーナンキ・ショック」のような金融緩和縮小観測による混乱は、「テーパータントラム」と呼ばれます。テーパー(taper)は先細り(この場合は金融緩和の縮小)の意で、タントラム(tantrum)は「子供じみた怒りの爆発」なのだそうです。金融緩和が終わることが、お気に入りのおもちゃを取り上げられることに例えられているのでしょう。

 金融緩和はこれまで、金だけでなく、原油や銅、穀物市場、そして株式市場などに、緩和マネーが流入するきっかけとなり、幅広い市場の価格を底上げしてきました。この点は、以前のレポート「「ゲタ」?か「足かせ」か?米国の金融政策とコモディティ相場」 で「ゲタ」と表現しました。

 コロナ禍にあり、多くの市場関係者は、明るいニュースはできるだけ多い方がよい、と感じているとみられますが、こうした中にあって、幅広い市場の価格を底上げしてくれる(ゲタを履かせてくれる)金融緩和がなくなってしまったら、どうなるのか…。市場に不安が増幅するのも無理はありません。

 また、世界的に新型コロナの変異株が拡大している中、市民に「今、不安は存在しますか?」と問うた時、ないと答える人は少ないでしょう。

 つまり今、市民の間でも、市場関係者の間でも、さまざまな不安は存在するのです。社会には不安(有事のムード)が確かに存在し、資金を逃避させる需要があり、逃避先の一つとして金(ゴールド)が選好されていると考えられます。

 上記の通り、足元の金価格の反発は、「代替通貨」「有事のムード」の両面からの上昇圧力によって起きていると、考えられます。テーパリングに関する目立つニュースに目を奪われていては、足元で起きている金(ゴールド)価格の反発を説明することはできないでしょう。