前回はNISAでの運用は投資信託を活用するときのメリット・デメリットについてお話ししました。今回はETF(上場投信)や株式投資について考えていきましょう。

 

コアでも、サテライトでも使える

 まずは「ETF(上場投信)」です。

 ETFのメリットは日本株や外国株(グローバル、北米、欧州、アジアなど)、債券、コモディティなど、幅広い資産クラスへのアクセスが簡単にできることです(これは投信と共通ですね)。

 資産形成・運用を考えるときには、「金融資産全体を把握する」→「おおまかなポートフォリオ(資産配分)を考える」→「自分が利用できる税制上の優遇制度を調べる」→「NISAに何を割り振るか決める」という順番になります。

 ポートフォリオは、株式や債券に幅広く分散投資を行って安定的な運用をめざす「コア(中核)部分」と、積極的にリスクをとってプラスαのリターンをめざす「サテライト(衛星)部分」という具合に役割を2つに分けて考えます。ETFはポートフォリオのコアとして活用できる銘柄もありますし、サテライトとして利用できる銘柄もあります。

 たとえば、長期保有のコアとして活用するなら、日本株、先進国株、新興国株のそれぞれに幅広く分散投資を行うETFを組み合わせる、あるいはVT(バンガード・トータル・ワールド・ストックETF)のように世界株式に幅広く分散投資できるETFなどが候補になります。

 一方、企業型DCや個人型DCに加入していて、「ポートフォリオのコアのDCで行っている(国内外の株式や債券のインデックスファンドを組み合わせて運用している)」とか、「NISA口座ではもっとアクティブに運用したい」など、サテライト的に利用したい場合には、特定の国に投資するETFや小型株など規模別のETF、高配当や増配といったテーマ型のETFを組み合わせることも考えられます。また、値動きの異なる資産クラス、たとえば、REIT(上場不動産)やコモディティのETFを組み合わせて分散効果をはかるといった方法も考えられるでしょう。

 ただし、特定の国に投資するETFなどは複数の地域・国に幅広く分散投資されたETFに比べて値動きも大きくなりますし、非課税期間5年だと相場つきによっては一方通行に動く可能性もあります。出口をどうするかはしっかり考えておきたいところです。

 

指値で買える・売れる

 通常の投資信託は当日もしくは翌日の基準価額で取引をすることになります。そのため、1日で価格が大きく動くようなボラティリティの大きいときには、予想以上に高い価格で購入してしまった、あるいは予想よりも安い価格で解約してしまったということも起こりえます。

 その点、ETFは値段を指定して購入・売却することができます。NISAは利益がでてこそ得する制度なので、指値で値下がりを待つ、あるいは売る時の値段を指定して利益を確定できるといった点はメリットといえます。

 

金額指定はできないが少額から投資可能!

 ETFは、原則、投信のように金額を指定して購入することができません。価格と口数(取引単位)を掛けたものが最低購入金額となるため、使いにくいという指摘もあります。ただ、ETFに限っていえば、年間投資額の上限である100万円をぴったり使い切りたいという人を別にすれば、それほど大きな問題でない気がします。

 というのも、ETFはかなり少額から投資できるからです。2013年10月29日時点で、東京証券取引所に上場するETFは143本あります。そのうちNISAの対象にならない一部の商品ETF(投資法人債券)を除いた124本のETFの最低購入金額を調べたところ、約87%の銘柄は5万円以下で購入することができるためです。さらに、4本に1本は1万円以下で購入することが可能です。

 

 

積み立て・分配金の再投資はできない

 一部の金融機関を除いて、ETFの積み立てはできません。また、分配金を自動的に再投資することもできません。ただし、NISA口座で投信の分配金再投資コースを選択しても、分配金の再投資は新たな投資とみなされて、100万円の枠を使用することになります。そのため、NISA口座に関しては、投信と比較してさほどデメリットにはならないと考えます。

 

サテライト的に利用するなら「日本株」という手も

 次に日本株です。ETFでも触れましたが、サテライト的に利用するなら、NISAで日本株という選択肢もあります(確定拠出年金では個別株への投資はできないので、DCではファンド、NISAでは個別株という使い分けも可能です)。

 

中長期で保有できる株を買う

 NISA口座で株を購入するなら、中長期で保有できる企業を選びたいものです。たとえば、長期で値上がりが狙えそうな会社を割安のときに買う、あるいは「安定して高い配当金が見込める企業に投資する」などが候補になるでしょう。

 基本は中長期でホールドですが、当然株価は大きく動くこともあるので、出口は考えておきましょう。具体的には、5年後に株価が値下がりしていたら、新たなNISA口座にロールオーバーして株価の回復を待つかどうか、大きく値上がりしたときには利益を確定するかどうか--といったことです。

 利益を確定するという場合、必ずしも保有する商品を解約・売却しなくてもよく、大きく上昇したときに課税口座に移管して取得価額を上げるという選択肢もあります。リタイアに向けて長期でETFや株式などを保有したい場合、株価が高いときに移管すると、その分取得価格を上げられるので、将来的に売却するときの税金を抑えることができます。つまり、移管するタイミングがその後のリターンに影響するわけです(制度上は非課税期間5年終了時よりも前に課税口座に移管することは可能ですが、対応は金融機関により異なる。必ず確認を)。

 

短期のトレードには向いていない

 NISA口座では一度売却したら、「その枠は再利用できない」というルールがあり、短期のトレードには向きません。短期のトレードを楽しみたいという方や、以前から株式投資をしていて「まだ含み損を抱えているので、利益が出たら損益通算したい」という方は、ムリにNISA口座を利用せずに、従来の課税口座(特定口座や一般口座)で取引してもいいでしょう。

 また、最低購入金額が100万円を超える銘柄は、そもそもNISA口座で購入することができません(一部金額指定ができる金融機関もある)。そして、非課税期間終了時に投資対象が値上がりして100万円を超えていた場合は、100万円を超えた分は新たなNISA口座にロールオーバーすることはできませんが、個別株だと取引単位が決まっているため、少し計算が面倒な面はあります。

 

目的・運用スタイルに応じて選択を

 最後に。NISAはあくまでも、資産形成・運用の手段のひとつであって、目的ではありません。すでに投資をしている方、とくにベテラン投資家の方は自分なりの運用スタイルを確立しているかたも多いのではないでしょうか。

 何がなんでもNISAを使うというよりは、金融資産全体でどう運用するのか、ポートフォリオをどう構築するのか、そして、自分の運用スタイルはどうあるべきか――を改めて見直しきっかけにしていただきたいと思います。NISAと課税口座をうまく使い分けてもいいですし、運用スタイルによっては結果的にNISA口座を利用しないという選択肢もあっていいと思います。