先週の日経平均株価(225種)の13日(金)終値は前週末比1,321円(4.3%)高の3万2,315円と大幅に反発上昇しました。

 その一因となったのは「有事の買い」です。

 7日(土)、パレスチナのイスラム軍事組織ハマスがイスラエルに突如ロケット弾攻撃を仕掛け、ハマスとイスラエルの武力衝突が激化。

 この「有事」によって世界的な安全資産といわれる米国債に資金が逃避し、米国の金利が低下。

 中東情勢緊迫化による原油価格の上昇で潤う石油株や武器を製造する軍需関連株などをけん引役に全体相場も大きく上昇しました。

 12日(木)時点の報道では、パレスチナ・イラスエル双方で3,000名近い死者が出ている状況の中、株価が上がるのは不謹慎に思えます。

 しかし、有事の際にはお金の流れも変化します。

 今回は、武力衝突によって、米国の長期金利の指標となる10年国債の金利が10月6日(金)につけた高値4.88%台から12日(木)には4.53%台まで急低下したことが、株価反発の原動力になりました。

 ただ、米国では機関投資家が運用指針にするS&P500種指数が13日、前週末比0.45%上昇したものの、巨大IT産業が集まるナスダック総合指数は週後半の米国長期金利の再上昇を受けて0.18%の小幅下落に終わりました。

 大きく反発した日本株に比べて、米国株の上昇力に陰りがある点が今後の不安材料になりそうです。

 今週は、イスラエル軍による本格的な地上侵攻が開始されれば、パレスチナ情勢がさらに緊迫化し、引き続き警戒要因になるでしょう。

「有事は買い」とはいうものの、ロシア・ウクライナ戦争に続いて、中東のイスラエルとハマスの衝突がイランやシリアなど近隣イスラム諸国を巻き込む泥沼の紛争に拡大する可能性もあります。

 その場合は、世界の覇権国家である米国の威信低下につながるため、明らかに日米の株価にとってネガティブです。

 13日(金)の米国株が下落したため、16日(月)の東京株式市場の日経平均は続落して始まり、下げ幅は前週末終値比一時700円を超えました。終値は656円安の3万1,659円でした。

 今週は、13日(金)に4.6%台まで鈍化した米国の長期金利がどう動くかが一番の焦点でしょう。

 また、18日(水)には景気低迷が続く中国の2023年7-9月期のGDP(国内総生産)も発表予定で、中国経済の低迷がどこまで深刻化するかに市場の関心が集まりそうです。

先週:パレスチナ情勢緊迫で株高の皮肉!FOMC議事録で利上げサイクル終了見通し高まる!

 先週の日経平均株価は前週比1,321円高と息を吹き返しましたが、これはそれまで3週連続で下落した9月15日~10月6日までの下げ幅2,538円の約2分の1戻しに成功したことを意味します。

「半値戻しは全値戻し(株価が下落後、下げ幅の半分程度戻すと、いずれ元の水準まで全部戻すケースが多いこと)」という投資格言もあるように、今週10月16日(月)~20日(金)の日本株の続伸に期待したいところです。

 日本株復調の原因になったのは、米国の長期金利の低下でした。

 イスラエルとハマスの軍事衝突で、有事の際に安全資産と見なされる米国債に資金が逃避。

 米国10年国債の価格上昇とは反対に、長期金利が4.5~4.6%台まで急低下したことで、外国人投資家を中心に日本株を買い戻す動きが広がったようです。

 さらに決め手となったのは、11日(水)に公開された9月開催のFOMC(連邦公開市場委員会)の議事録でした。

 議事録では、追加利上げは慎重に進めるべき、追加利上げより高金利を続ける期間に焦点を当てるべきといった、利上げサイクル終了につながる議論があったことが好感されました。

 米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)の多くの要人から、国債市場で金利が急上昇したことで追加利上げの必要性がなくなったという発言が相次いだことも株価にとってポジティブでした。

 CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)が金利の先物価格の動向からFOMCの政策金利を予想する「Fedウオッチ」(10月14日[土]時点)では、11月1日(水)終了の次回FOMCで0.25%の利上げが行われる確率は6.2%、12月13日(水)のFOMCでの追加利上げの確率は約30%まで低下しています。

 FRBの利上げサイクルが本当に停止するようなら、株式市場にとって非常に大きな追い風です。

 12日(木)には米国のCPI(消費者物価指数)も発表されました。

 9月CPIは前年同月比3.7%の伸びと予想をわずかに上回ったものの、変動の激しい食品とエネルギーを除くコアCPIが4.1%上昇と、前月8月の4.3%増から伸び率が鈍化しました。

 先週の後半からは2023年7-9月期の米国企業の決算発表もスタート。

 13日(金)に先陣を切って発表があった米国主要金融機関の決算では、主力のJPモルガン・チェース(JPM)が過去最高の金利収入をたたき出し、通期業績見通しを上方修正するなど好決算が続出しました。

 ただ同日に発表された速報性の高いミシガン大学の10月消費者信頼感指数の速報値が大幅に低下し、1年先のインフレ期待率は前月の3.2%から3.8%まで上昇。

 この発表もあって、米国株は12日(木)~13日(金)に反落しました。

 一方、先週の日本株では、半導体製造装置メーカー最大手の東京エレトクロン(8035)が前週比9.1%も上昇するなど、米国の金利上昇で軟調な値動きが続いていたハイテク株が反発。

 トヨタ自動車(7203)も4.5%高と息を吹き返し、原油価格高騰を受けて世界中に原油権益を持つINPEX(1605)が8.3%高、防衛関連の三菱重工業(7011)が9.9%高など、重厚長大産業の株価上昇が目立ちました。

 12日(木)には、「ユニクロ」のファーストリテイリング(9983)が今期2024年8月期の連結売上高が3兆円を突破する業績予想を発表し、13.1%も上昇しました。

 ただ、緊迫する中東情勢を嫌気して、日本航空(9201)が3.5%安、海外旅行が主力のエイチ・アイ・エス(9603)が3.7%安。

 世界で軍事衝突など有事が起こると、資源株や軍事関連株が上昇し、空運株や旅行関連株が下落するという流れは覚えておいたほうがいいでしょう。

今週: 米国の9月小売売上高や19日のパウエルFRB議長講演に注目!米地銀決算で悪材料出るか? 

 今週の株式市場はイスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への本格的な地上攻撃が始まれば、乱高下する展開になりそうです。

 ただ、先週のFOMC議事録やFRB要人発言が示唆した米国の利上げサイクル終了を反映して米国の長期金利の下落が続くようなら、先週小幅高にとどまった米国株が大きく上昇する可能性もあります。

 その場合、日本株が「半値戻しは全値戻し」の投資格言通り、さらに大きく上昇してもおかしくないでしょう。

 今週は16日(月)にニューヨーク連邦準備銀行の10月製造業景気指数、17日(火)に9月小売売上高など、米国の景気指標が数多く発表されます。

 19日(木)(日本時間20日(金)未明)にはニューヨーク経済クラブでパウエルFRB議長が講演を行います。

 パウエル議長が2023年内のFOMCでの利上げ見送りを匂わすような発言をすれば、利上げサイクル終了に対する市場の期待がヒートアップして株価が急上昇する可能性もあります。

 今週は米国企業の2023年4-6月期決算も本格化します。

 17日(火)にはバンク・オブ・アメリカ(BAC)ゴールドマン・サックス・グループ(GS)など多くの金融機関のほか、米国軍事企業のロッキード・マーチン(LMT)も決算発表。

 18日(水)にはハイテク企業の先陣を切って映画ウェブ配信のネットフリックス(NFLX)や電気自動車のテスラ(TSLA)も決算発表します。

 1週間を通じて非常に多くの米国地方銀行が決算発表を行うため、米国の金利急上昇が米国地銀の経営に悪影響を与えていることが判明した場合、相場が急変するかもしれません。

 今週の株式市場の一番の関心事はやはり、イスラエルとパレスチナ・ハマスの軍事衝突ですが、イランやシリアなど他のアラブ諸国を巻き込むような大規模な戦争に発展しない限り、次第にその影響力は薄れる可能性もあるでしょう。

 ただ、パレスチナ情勢に対する株式市場の関心が薄れた場合、有事における資金逃避の恩恵で急低下した米国の長期金利が再び上昇に転じ、株価に悪影響を与える恐れもあります。

 株価の値動きは、ある面で一般の常識や感情とは逆の方向性で動くことが多いもの。

 特に有事や金融不安、景気後退など先行きが不透明なときは注意が必要であり、逆にチャンスも生まれやすいのです。