今週の株式市場は10月1日(日)からの米国政府機関の閉鎖危機が寸前のところで回避されたことを受け、反発して始まりそうです。

 9月30日(土)午後、米連邦議会下院の共和党穏健派と民主党による超党派の合意で45日間の暫定予算案が可決。

 10月1日のタイムリミット目前で上院も無事通過。

 バイデン大統領が署名し、法案が成立したことで、少なくとも11月17日(金)までは連邦政府の支出に対する予算執行が継続されることになりました。

 先週の日経平均株価(225種)の29日(金)終値は前週末比544円(1.7%)安の3万1,857円と、先々週(9月19~22日)の1,130円安に続き、2週連続の大幅下落でした。

 9月中旬までバブル経済崩壊後の最高値更新が続いた絶好調のTOPIX(東証株価指数)は2.2%安と、日経平均株価以上の下落率になりました。

 米国株も、世界中の機関投資家が運用指針にするS&P500種指数が0.7%の下落となり、9月はマイナス4.9%と昨年2022年12月以来の下落率でした。

 日米の株価が総崩れした一番の要因は、米国の金利上昇です。

 米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)が政策金利をより長期間、より高い水準に据え置く方針であることを悲観して、米国の債券市場では先週も金利が上昇。

 長期金利の指標となる米国10年国債の金利は28日(木)、一時4.688%と、16年ぶりの高水準を更新しました。

 これが、金利が上昇すると魅力が乏しくなる株式の強い下落要因になっています。

 29日(金)、米国の下院で、10月末までの政府支出を認める「つなぎ予算案」が共和党の保守強硬派の反対で否決されたことも株価急落の引き金になりました。

 週末30日(土)、民主・共和超党派による暫定予算案の可決で危機は回避されたものの、議会の紛糾を受けて、世界の三大格付け会社の中で唯一、米国債の格付けを最上級に維持しているムーディーズ・インベスターズ・サービスが米国債の格下げを行うのではないかという懸念も広がっています。

 また通過した法案にはウクライナに対する新たな援助資金の支出は含まれておらず、地政学的リスクの台頭につながる恐れもあります。

 29日(金)には全米自動車労働組合のUAWがゼネラル・モーターズ(GM)とフォード(F)の各工場での追加ストライキ実施を決定しており、これも米国経済の足を引っ張り、株価下落につながりかねない要因です。

 ひとまず米国政府機関の閉鎖を回避した10月相場は順調な滑り出しに期待が持てそうですが、一本調子の上昇が続くかどうかは不透明です。

 週明け2日(月)の東京株式市場の日経平均は午前中は米つなぎ予算案成立を受けて、上げ幅は前週末終値比で一時500円を超えました。日本銀行が2日の取引時間開始前に発表した9月の短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業・非製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)がともに市場予想より改善したことも追い風となりました。

 しかし、午後に入り急失速し、97円安の3万1,759円で引けました。目立った悪材料が見当たらないものの、米金利の先高観や米議会の混乱が根本的に解決されていないことなどを背景に売りが勝りました。

先週:絶好調TOPIXも急落!米国長期金利は5%台に向かう?

 先週の日本株は、21(木)、22日(金)の日銀の金融政策決定会合後に、粘り強い金融緩和の継続が表明されたことを受けて、週明け25日(月)は半導体株などを中心に上昇しました。

 しかし、それ以降は米国の金利急上昇を受けて軟調な展開になりました。

 これまで相場をけん引してきた重厚長大産業の大型株が軒並み下落に転じ、トヨタ自動車(7203)の29日(金)終値は前週末比4.0%安。

 高配当で人気が高かった主力海運株の日本郵船(9101)は7.4%安、中国経済など世界的な景気後退が逆風となる日本製鉄(5401)が5.7%安、米国著名投資家ウォーレン・バフェット氏が大株主の三菱商事(8058)が3.9%安となるなど、幅広い銘柄が大きく売られる展開になりました。

 10月2日(月)からは日経平均株価の採用銘柄が入れ替えになります。レーザーテック(6920)メルカリ(4385)ニトリホールディングス(9843)の新規採用3銘柄を購入するための資産配分調整の売りといった需給悪化要因も下げ材料になりました。

 29日(金)には日本の10年国債の金利も約10年ぶりに一時0.77%まで上昇するなど、米国の金利上昇に連動した金利の上昇も下げ要因として働きました。

 本来、金利上昇が収益環境の向上につながる銀行株も売られ、主力の三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)は4.7%安と下落しました。

 一方、米国では28日(木)発表の週間新規失業保険申請件数が予想より少なく、物価の高止まりにつながりかねない旺盛な雇用状況が続いていることを受け、長期金利の指標となる10年国債の金利が一時4.7%台寸前まで上昇。

 29日(金)発表の8月個人消費支出の価格指数(PCEデフレーター)は、変動の大きい食品とエネルギーを除くコアPCEデフレーターが前年同月比3.9%の伸び、前月比では0.1%の上昇と伸び率が低下。

 それを好感して長期金利もやや低下しましたが、米国議会の紛糾で週明けからの政府機関閉鎖が目前に迫ったこともあり、S&P500種指数は29日も0.27%の下落に転じるなど軟調な展開でした。

 世界の三大格付け会社の中で唯一、米国債を最上級格付けのトリプルAに据え置いているムーディーズ・インベスターズ・サービスが「政府閉鎖は米国の信用格付けにネガティブ」と表明。

 政府閉鎖は回避されたものの、もしムーディーズが米国債を格下げした場合、米国の長期金利が5%の大台を超えるほど急上昇し、金利上昇が大敵となる株価が急落するリスクも高まっています。

今週:株価反発に期待。ムーディーズの米国債格下げ、日本政府の為替介入が心配!

 週末、ぎりぎりの段階で45日間の短期歳出法案が成立して米国政府閉鎖の危機が先送りされたこともあり、月が替わる週明け10月2日(月)の日本株や米国株はいったん大きく反発して始まりそうです。

 しかし、日本株の売買代金の7割は外国人投資家によるもので、米国市場に暗雲が垂れ込めると、日本株が真っ先に売られることになりがちなのが、これまでの経験則です。

 実際、9月28日(木)に東京証券取引所が発表した9月第3週(9月19~22日)の投資部門別売買動向によると、外国人投資家は日本の現物株を9,131億円も売り越し、先物も含めると1兆2,500億円以上の巨額売り越しとなっています。

 日本株を売買している「主役」が外国人である以上、日本株にとって米国の政治や経済状況の悪化は、決して対岸の火事ではなく、逆に米国株以上に大きな脅威になることは意識しておいたほうがいいでしょう。

 米国ではトランプ前政権下の2018年12月から2019年1月、メキシコからの移民流入を阻止する国境沿いの壁の建設費をめぐる議会の対立で、約5週間にわたり一部政府機関の閉鎖が続きました。

 閉鎖が始まった2018年12月には、米中の貿易摩擦の深刻化やFRBの金融引き締め策の継続懸念もあって、S&P500種指数は約9.2%も下落。

 日経平均株価は同じ2018年12月に10.5%安と、S&P500種指数以上に下落しています。

 今週10月2日(月)にはISM(全米供給管理協会)の9月製造業景況指数、4日(水)には9月のISM非製造業景況指数や民間給与計算代行会社ADP(オートマティック・データ・プロセッシング社)による9月雇用統計など、米国の景気・雇用指数も発表になります。

 6日(金)には政府機関の閉鎖で危ぶまれていた米国の9月雇用統計の発表も予定通り行われそうです。

 9月の非農業部門の新規雇用者数は前月比16.8万人の増加が予想されていますが、予想以上の雇用者増加となると労働市場逼迫(ひっぱく)による金利の高止まり懸念で株価急落につながる恐れもあるでしょう。

 物価高は鈍化しつつあるものの、長期金利が約16年ぶりの高水準まで上昇し、自動車メーカーの労働組合のストライキが拡大しても、米国経済がいまだ堅調なのは驚きです。

 FRBのシカゴ地区連邦準備銀行のグールズビー総裁は先週、高金利下でも米国が景気後退を回避できる「黄金の道」は可能だと改めて強調し、それが先週の株価の下支え役になりました。

 米国経済が今後も黄金の道を突き進むことができるようなら、年末に向けて日米の株価が再び上昇モードに入る可能性も高いでしょう。

 ロシアがウクライナへの侵攻で泥沼の状況に陥り、中国経済が不動産バブルの崩壊で低迷する中、米国が独り勝ちに近い状況であることが、政府機関を閉鎖しても大丈夫という「余裕」につながっているのかもしれません。

 しかし、その余裕が「慢心」につながり、先週発生した共和党内の保守強硬派と穏健派の対立のような政治的混乱が深刻化すると、さすがに現状の高金利や物価高の中で米国経済がソフトランディング(軟着陸)できるかどうか不透明といわざるをえないでしょう。

 為替市場では日米金利差拡大にともない、1ドル=150円台が目前の円安が進行しています。

 先週、鈴木俊一財務相は「過度な変動があれば、あらゆる手段を排除しない」と口先介入を行っており、今週も政府・日銀による円買いの為替介入に対する警戒が必要な1週間になりそうです。