9月相場入りとなった先週末1日(金)の日経平均株価は3万2,710円で取引を終えました。

 前週末終値(3万1,624円)からの上げ幅(1,086円高)が大きかったほか、週足ベースでも2週連続の上昇となり、6月23日週から続いていた、週末の終値が上昇と下落を繰り返すパターンがストップした格好です。

 今週は、国内外で経済指標などのイベントがあまり多くない中、日本株市場では週末8日(金)にメジャーSQという需給の材料が控えているほか、米国株市場でも5日(火)のレイバー・デー明けから投資家が本格的に戻って来るタイミングでもあるため、ちょっとした市場のムードの変化で株価が振れやすい相場地合いが想定されます。

 まずはいつものように、先週の株式市場の動きから確認していきます。

先週の日経平均は5連騰で節目を上抜け

図1 日経平均(日足)とMACDの動き(2023年9月1日時点)

出所:MARKETSPEEDⅡを元に筆者作成

 先週の日経平均は週を通じて上昇基調が続き、5連騰となりました。

 株価の上昇に伴い、前回のレポートで「節目」として注目していた、3本(75日・25日・50日)の移動平均線の上抜けも達成しています。さらに、5日移動平均線が25日と75日を上抜けるゴールデン・クロスが出現するなど、短期的には上昇の勢いが感じられます。

 今週も、こうした勢いが続き、株価の「上値ライン」超えを目指せるか、そして、下段のMACDが「0円」ラインを超えることができるかが目先の焦点になります。

 その一方で、移動平均線については、25日と75日線のデッド・クロスが出現しています。

 確かに、先週の25日移動平均線については、週末1日(金)の終値が26日前の株価(3万2,891円)に届かずに下向きを続けています。

 5日移動平均線に続き、25日移動平均線も上向きに転じていくには、今週末8日(金)の終値が、25日前の8月3日終値(3万2,159円)より上に位置する必要がありますが、先週の株価水準を維持できれば十分に実現可能なため、現時点で過度に警戒する必要はなさそうです。

 さらに、先週の日本株市場で日経平均よりも強い動きを見せたのがTOPIXです。

TOPIXは年初来高値を更新

図2 TOPIX(日足)とMACDの動き(2023年9月1日時点)

出所:MARKETSPEEDⅡを元に筆者作成

 先週のTOPIX(東証株価指数)も5連騰だったほか、週末1日(金)の取引では年初来高値も更新しました。株価上昇の形状も25日移動平均線から上放れする格好となっています。

 また、日経平均と同様に、TOPIXも上値ライン超えを目指す動きが注目されます。

 ただし、日経平均の上値ラインは右肩下がりとなっていて、「抵抗を突破して上昇に弾みをつけられるか?」という意味であるのに対し、TOPIXの上値ラインは右肩上がりとなっているため、「高値を更新してさらなる上昇の勢い」が試される意味合いが強く、こちらは上値の目標として意識されてしまう可能性があります。

 となると、気になるのは、「足元の日本株は本当に強いのか?」になります。

日本株はさらに上昇するか?

 そこで、先週の日本株の上昇を「トレンドの強弱」に注目し、別のチャートでも確認していきます。

図3 日経平均(日足)と多重移動平均線(2023年9月1日時点)

出所:MARKETSPEEDⅡを元に筆者作成

 上の図3は日経平均の日足チャートに多重移動平均線を重ねて表示したものです。

 多重移動平均線とは、期間の短いものから長いものまで、複数の移動平均線を同時に表示させることで、トレンドの強さや転換点などを探るのに使います。上の図3の多重移動平均線は、2日移動平均線から、4日、6日といった具合に2日間刻みで期間を長くし、最大の28日までの14本の移動平均線で描かれています。

 強いトレンドが出ている時は、図3の真ん中あたりのように、多くの線が同じ方向を向き、移動平均線の束の幅も大きくなります。反対にトレンドに勢いがなくなってくると、束の幅が縮小し、短期から長期の移動平均線の交差や入れ替わる場面が増えてきます。

 あらためて図3を見ると、7月の半ばあたりから、期間の長い22日、24日、26日、28日移動平均線が密集して下向き基調を続ける中、株価の反発にともなって短期線の何本かが上抜けクロスするも、株価が下落して下抜けしてしまうというパターンが2回出現していました。

 足元の状況はその当時と似ています。移動平均線の束が拡大し、再び上昇基調に戻すには、期間の長い移動平均線が上向きになる必要があります。先ほどの図1で触れた、25日移動平均線の向きと同じ考え方です。

 具体的には、多重移動平均線の最大期間である28日移動平均線が上向きになるには、週末8日(金)の終値が、7月25日の終値(3万2,682円)を上回れるかどうかになります。

 続いて、TOPIXについても多重移動平均線で確認して行きます。

図4 TOPIX(日足)と多重移動平均線(2023年9月1日時点)

出所:MARKETSPEEDⅡを元に筆者作成

 TOPIXでは、多重移動平均線の多くが上向きを強めているほか、図3の日経平均でカギとなっている28日移動平均線も上向きとなっており、上昇基調を強めつつあるように見えます。とはいえ、7月あたりから、期間の長い移動平均線を挟んで、短期の移動平均線による上振れと下振れが繰り返されていることには注意が必要です。

 確かに、足元のTOPIXは強そうですが、再び下落に転じてしまうサインも出現しています。

図5 TOPIX(日足)とMACDその2(2023年9月1日時点)

出所:MARKETSPEEDⅡを元に筆者作成

 上の図5は、先ほどの図2のTOPIX(日足)とMACDのチャートを、「逆行現象」に注目したものです。

 7月以降のTOPIXは、高値を更新しながら上値を切り上げてきましたが、高値更新のタイミングでのMACDは上値を切り下げる、逆行現象が出現し、株価がいったん調整する場面が見られます。

 足元の状況も株価が年初来高値を更新する中で、MACDとの逆行現象となっているため、上値追いの期待と同時に、いったん株価が調整するシナリオも想定しておいた方が良いかもしれません。

 続いて、先週の株価上昇を相場環境の視点からも確認してきます。

先週の株価上昇の主因は「警戒感の後退」によるところが大きい

 先週の株式市場を押し上げた材料として、主に以下の点が挙げられます。

1)米国の利上げサイクル終了観測
2)中国不安の落ち着き
3)日本株の買い意欲継続

 まず、1)については、先週発表された米国の労働関連の経済指標(7月JOLTS求人件数、8月ADP民間部門雇用者数、8月雇用統計)が弱めの結果となったことで、労働市場の逼迫が緩和されて、米国の利上げサイクル終了の観測を高めました。

 また、2)については、引き続き中国の不動産セクターを中心とする不安がくすぶっていますが、中国の金融監督当局が、株式取引の規制緩和や印紙税の引き下げをはじめ、住宅購入者に対して頭金や既存住宅ローン金利の引き下げなどの対策を相次いで打ち出したことや、先週発表された8月PMIの結果が予想ほど悪くなかったことで、中国株市場の下落がいったん落ち着いたことが市場のムードの改善に寄与しました。

 さらに、3)についても、日本企業の4-6月期決算が海外と比べて堅調さを見せたことや、海外投資家の中国株離れなどによって、中長期的な資金が日本株に向かった可能性が考えられます。

 日本株については、4月から6月半ばにかけて海外投資家の買いによって株価が大きく上昇しましたが、当時は日経225などの株価指数先物取引が主導する格好で、どちらかと言えば短期の資金が中心だったと言えます。

 そのため、足元で見られる中長期の買いが継続するには、今後の7-9月期決算で日本企業の業績の良さを確認できるかが、年末に向けた日本株上昇のカギになりそうです。

 ただし、1)と2)においては、「警戒感の後退」によって反発を見せた段階で、さらに上値を追える材料となり続けるかは微妙です。

 先週の米国で見せた労働関連の経済指標の結果は冴えないものとなり、「賃金インフレ懸念の後退で、利上げサイクルは終了へ」と受け止められて、株価上昇につながったわけですが、別の見方をすれば、労働市場の逼迫緩和は、雇用市場の主導権が「売り手(労働者)」から「買い手(雇用者)」へと移り始めたことを意味します。

 その結果として、今後は賃金の上昇ペースが鈍り、インフレの鈍化ペースとの組み合わせ次第では消費に悪影響を及ぼすことも考えられます。

 さらに、米国では、コロナ禍で支給された給付金(コロナ貯金)の効果がまもなく枯渇するとの見通しがあることや、同じくコロナ禍で猶予されていた学生ローンの支払いが今秋から再開されること、そして、2025年にかけて商業用不動産の借り換え需要がピークを迎えます。

 さらに、クレジットカードの延滞率も上昇し始めているなど、今後の米国の消費動向については気掛かりな材料が増えてきます。

 ちなみに、来週の米国では、13日(水)に8月消費者物価指数、14日(木)に8月小売売上高といった、注目のインフレ・消費関連の経済指標の発表が予定されています。

 また、中国当局が打ち出した対応策についても、対症療法的なものが多く、中国が抱える問題が改善に向かうような動きにはまだ至っていません。

 これまで見てきたように、チャートの形状からは、今週の株式市場が強含んで推移していくというのが基本シナリオになります。

 相場の環境面からは、先週からの株価上昇の流れと、週末のメジャーSQをにらんだ需給の思惑に乗って、「行けるところまで上値を試す」のか、それとも、来週の米国イベントをにらんで、「次第に様子見や売りに押されるのか」といった具合に、両にらみの展開が想定されます。

 そのため、今週は株価の振れ幅が大きくなりやすくなり、相場の立ち回りが難しい週になるかもしれません。