8月雇用統計の予想

 BLS(米労働省労働統計局)が9月1日に発表する8月の雇用統計では、NFP(非農業部門雇用者数)が+16.8万人の予想となっています。増加数が20.0万人より少ないのは3カ月連続となり、直近3カ月の平均+22.6万人を6万人近く下回る見通しです。

 失業率は前月比横ばいの3.5%。平均労働賃金は、前月よりも上昇率が鈍化して前月比+0.3%、前年比+4.3%の予想です。

7月雇用統計のレビュー

 前回7月の雇用統計は、ひとことで言うと「This is 最高にちょうどいい」結果でした。一段のインフレ上昇を心配するほど強くもなく、雇用市場の悪化を心配するほど弱くもなかったからです。

 NFPは、事前予想の+20.0万人に対して +18.7万人にとどまりました。また前々回(6月)は、+20.9万人から+18.5万人に下方修正。

 就業者が2カ月連続で18万人台の状況というのは、雇用市場の減速を反映したものですが、10万人から20万人というのは、おそらくFRB(米連邦準備制度理事会)が求めているレンジであり、NFPがこの水準で安定してくれることをFRBは望んでいるでしょう。

 NFPは、予想より結果が多い「アップサイド・サプライズ」が、これまで1年以上も続いていました。ところが、2カ月前から予想より結果が少ない「ダウンサイド・サプライズ」へと逆転しています。

 雇用市場減速がそろそろ始まったと考えることもできます。今回の雇用統計は、予想と結果のギャップの大きさよりも、その方向(増えたか減ったか)が重要となります。

 7月の失業率は3.5%で、前月より0.1ポイント改善して7カ月ぶりの低水準でした。この水準は過去50年間で最も低く、働きたい人がほぼ全員仕事に就くことができる「完全雇用」状態です。

 しかし、インフレ率をFRBの目標値である2.0%以下に抑えるためには、4.3%かそれ以上の失業率を、最低でも2年間続ける必要があるといわれています。現在の水準から4.3%に上昇するのに相当する雇用喪失は100万人を超えるとの試算があります。

 パウエル議長の理想は、労働者(供給)の増加による失業率の上昇です。しかし金融引き締めが行き過ぎれば雇用(需要)の減少による失業率の上昇を招く可能性があります。インフレ率が下がらないまま、失業率が上昇すれば、スタグフレーション(景気後退の中での物価上昇)という最悪の事態になります。

 また、平均労働賃金の伸びは、前月比+0.4%、前年比+4.4%で前月比横ばいでした。平均労働賃金は2022年3月の5.6%をピークとして緩やかな下降傾向にありましたが、2023年に入ってからは4%台半ばで下げ止まっています。