CASE05:名門電機メーカーの凋落、悲しい日本の現実

技術オタクでは生き残れない!
『あけぼの』の転落と重なるシャープの失策

 第5話では、経営危機に瀕している名門電機メーカー『あけぼの』のレーダー技術を狙って激しい買収合戦が繰り広げられます。ドラマ中の『あけぼの』は、日本のエレクトロニクス産業を象徴する企業。高い技術を持ちながら経営が悪化した、東芝・シャープなどが思い起こされます。

 外部への部門売却とリストラが確定したことを知ったレーダー開発部の技術者たちの落胆の表情が、見ていてとても辛いところです。ドラマ中の彼らを見ていると、私が、ファンドマネージャー時代に実際に見聞きした、シャープの液晶技術者たちにぴったりイメージが重なります。

「シャープには、24時間、液晶のことばかり考えている液晶オタクがたくさんいます」。それは、2006年、シャープの経営説明会で聞いたことです。寝ても覚めても、高品質・高性能の液晶を作ることだけ考え続けている優秀な技術者が大勢いるということです。
 同じく、パイオニアの説明会でも「プラズマ・ディスプレイの開発に生涯をかけた技術者がたくさんいる」という話を聞きました。当時は、大型テレビのスクリーンが、液晶になるかプラズマになるかという過渡期。シャープとパイオニアの間で、熾烈な技術開発競争が続けられていました。ファンドマネージャーとして、私もこの戦いの行方に重大な関心を持っていました。

 結局、この戦いに勝利したのは液晶陣営(シャープ)。敗れたパイオニアは、プラズマ事業から撤退することになります。

 ところが、本当の驚きはその後に待っていました。パイオニアとの戦いに勝ったシャープがほとんど利益を稼ぐことができず、アジア企業に液晶ビジネスを奪われていったことです。シャープの何が問題だったのでしょうか?

 シャープは、「お人好し」日本企業の典型です。1990年代から、技術開発にはまい進しても、技術漏えいを防ぐための手立てを講じる意識は欠如していました。当時の経営者や技術者は、「液晶技術の革新に邁進すること」「少しでも早く液晶を世界へ広めること」に使命感を持っていました。技術を完全に囲い込むと、世界への普及が遅れるので良くないと思っていた節すらありました。

 アジア企業は、シャープの技術を使って開発した液晶製造装置を購入するだけで、これまでの開発の成果を手に入れることができる状態が続きました。

 シャープが技術防衛の必要を痛感し、対策を強化したのは、2000年代半ばからでした。時すでに遅く、シャープの転落を止めることはできなくなっていました。

 シャープは最後、外資に身売りしました。ドラマの中の『あけぼの』はどうなるでしょう? 今後の展開が気がかりです。

 

解説:窪田 真之(くぼた まさゆき)
楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト

 

「ハゲタカ」5話おさらい

 総合電機メーカー『あけぼの』の買収を狙う『ファインTD』社長・滝本誠一郎(高嶋政伸)の策略と、腹心の部下だったアラン(池内博之)の裏切りにより、ホライズンを解雇された鷲津(綾野剛)。しかし、佐伯(杉本哲太)や中延(光石研)ら鷲津を慕って付いてきた仲間たちと新たに『サムライファンド』を立ち上げ、『あけぼの』を守るためにふたたび滝本と対峙する準備を始める。

 一方、『あけぼの』の再生担当執行役員・芝野(渡部篤郎)は、『ファインTD』の買収から会社を守るため、レーダー開発部の売却を検討。その動きを知った鷲津と滝本は、それぞれ方針を水面下での「あけぼの」株の争奪戦に切り替える。

 そんな中、『あけぼの』製のコンピュータに不具合が生じ、株が大暴落。『ファインTD』の後ろ盾となっている米国大手の軍産ファンド『プラザ・グループ』による先制攻撃と見た鷲津たちは、資金を調達し徹底的に『あけぼの』株を買い集める。こうして『サムライファンド』と『ファインTD』の壮絶な株争奪戦の幕が切って落とされた!

~トウシル編集部員の視聴後レビュー~ ハゲタカ「ココに注目」!

 1話の段階から「この人、なんかありそう」と思って注目していたアラン(池内博之)がついに始動! さりげない感じなのにどこかギトっとしていて目が離せなかったのですが、ここへきて「ボスを裏切る」という大勝負に出ました。鷲津に心酔しているからこそ、自分との方向性の違いに苛立ちが隠せず、ついに爆発した模様。ほんとにボスのこと好きなんですね。どうでもいい上司ならこんなに腹立たないでしょ。地位を乗っ取ったアランのほうが、なぜか傷ついた顔してるのが気になります。アランの「片思い」はどうなるのか? 次話に期待!

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