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著者の愛宕 伸康が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
見えてきた!植田日銀総裁の目指す利上げの姿

4月金融政策決定会合のハイライトは為替に対する総裁発言ではない

 2006年3月に量的緩和を解除した福井俊彦・元日本銀行総裁。当時福井氏が思い描いていた政策金利の到達点が1%だったことが、日銀金融研究所にある口述回顧録に記されています。それから20年後の2026年、植田和男総裁は政策金利を福井元総裁のなし得なかった1%にしようと、着々と準備を進めているように見えます。

 現状維持となった4月のMPM(金融政策決定会合)、無風と思いきや、同時に公表された「経済・物価情勢の展望(2024年4月)」や総裁記者会見から、極めて重要な情報発信が行われました。今回のハイライトは決して円安に対する総裁発言などではありません。

 追加利上げに向けた「経済・物価情勢の展望(2024年4月)」の明確な書きぶりの変化と、「物価安定の目標」実現を視野に入れた政策金利の考え方が示されたこと、この2点が今回の重要なポイントです。

日銀が為替だけ見て政策変更することはない

 4月25~26日に行われた4月MPM、大方の予想通り現状維持が決定され、声明文も植田総裁のいう「普通の金融政策」を象徴するかのようなシンプルなものとなり、特にサプライズはありませんでした。

 異様だったのはその後の総裁記者会見です。このレポートでも何度か述べましたが、日銀が為替だけで金融政策を変更することはありません。国内の景気や物価への影響を通じて政策変更の要否を判断するのが筋であり、そうすることが適切だからです。

 従って、景気が急変したり、輸入物価に明確な影響が出ているといったエビデンスのない現状では、日銀が何らかのアクションを起こすことは考えられません。にもかかわらず、執拗に円安へのコメントを求める記者の多かったこと。改めて先週のレポートで紹介した輸入物価(円ベース)を見ておきましょう(図表1)。

<図表1 輸入物価(円ベース)と消費者物価>

(注)輸入物価の推計値(赤い点線)は、ドル円相場と6カ月のタイムラグがあることを利用して推計したもの。
(出所)総務省、日本銀行、楽天証券経済研究所作成

 これを見れば、「輸入物価の動向を見ますと、21年から22年にかけてものすごく上昇したわけですが、足もとの上昇はそうでもない。そう言うと怒られるかもしれませんが」と述べた植田総裁の記者会見におけるコメントが正しいことが分かります。

 現在の日米金利差の流れからすると、しばらく円安圧力が続くのは必然です。だからといって、日銀の拙速な利上げも、FRB(米連邦準備制度理事会)の拙速な利下げも正しい選択とはいえません。重要なのは、そうした相場にどう準備し、どう対処するかだと考えます。