悪いファンドをつかまないためには専門的な勉強が必要なのか。危険な香りがするファンドの見分け方と、専門の勉強をしなくても初心者がすぐ実践できる必勝法を語り合った。
インタビュアー:楽天証券 篠田尚子

みんなが投資の専門家になるべき?

「投資の中身」を見て「なんちゃって」を避ける

篠田: 日本株に投資するのであれば、アクティブファンドがいいという理由は、投資初心者の方も理解できたと思います。では良いファンド、悪いファンドをどう見分ければいいのでしょうか。

武田: 最近問題になっているのは、「クローゼット・インデックス・ファンド」です。アクティブ投信を掲げていながら、ふたを開けてみると投資先がベンチマークに酷似していて、運用成績もほとんどベンチマークに連動している。 

そこで私自身が注意を払っているのは、「アクティブ・シェア」と呼ばれるポートフォリオがアクティブ運用されている度合いを表す指標(数値はベンチマークと完全一致すれば0%、全く異なると100%。目安は80%以上といわれる)です。もちろんアクティブ・シェアは万能ではなく、アクティブ・シェアの高さは、ファンドが市場平均からかい離するための必要条件ではあるけれど、十分条件ではない。でもアクティブシェアが60%、50%になってしまったらファンドの存在意義がない。

藤野: だからアクティブ・シェア70%以下のアクティブファンドは「なんちゃってアクティブ」の可能性がありますね。実態としてインデックス型に近いのに手数料が高いだけ、という。アクティブ・シェアの計算式は公表されているので、その気になれば投信の運用報告書のデータから算出可能ですが、個人投資家でもできる簡単な見分け方としては、投信が保有している上位10銘柄が、インデックスの構成銘柄と似ていないかどうかを調べる方法もあります。

実際、今の日本では個人投資家の資産形成に真に役立つといえるアクティブファンドはやはり少数です。目先の流行を追い求めるテーマ型ファンドも気をつけないといけません。昨年から中小型株ファンドに多く資金が集まっています。中にはマザーズ指数やJASDAQ指数などのベンチマークに忠実なファンドもある。ですが、市場規模が小さいマザーズの上位銘柄をみんなで買えば株価は当然つり上がっていきますよ。中小型株ファンドが人気になることで、指数上位の銘柄が実態以上に買われすぎてしまうわけです。だからこそ「中身が大事」です。中小型株ファンドの中には、指数とは関係なくちゃんと会社の中身を見ているものもある。中小型株ファンドに限らず、直近のリターンだけでファンドを選ぶのは危険だからやめていただきたい。

篠田: いいファンド悪いファンドの見分け方は中身を見ること。つまり組み入れ銘柄に哲学があるのかということですね。でも見分けられないかも知れません。

酒井: そこで自分の資産の何割を使って投資をするのかを決めることが重要になります。例えばもし価格が10%下落しても、投資額を資産の10%にとどめていたら、資産は1%しか減りません。投信は分散投資を徹底している商品ですが、その一方で特定のリスクを背負っているエッジの効いたファンドもある。いろいろなファンドがあることを理解して、投資金額を調整すれば、それほど怖がることはありません。

 

投資の勉強の代わりに「毎月積み立て」を始める

篠田: ここまでファンドマネージャーのみなさんのお話しをうかがってきて感じたことは、投資家は勉強をして専門家を目指すべきなのかと言うことです。もちろんそれは無理なので、どの程度のことまで知っていれば、投資と上手に付き合っていけるのでしょうか。

藤野: 投資の極意を知らなければ投資ができないなどということはありません。車の運転に例えれば、多くのドライバーは内燃機関の構造を詳しく知らずに運転していると思います。それでいいのです。

篠田: では初心者が初めて投資をする時にやるべきことは?

藤野:「毎月積み立て」です。

篠田: それはなぜでしょう?

藤野: 買った値段である「簿価」をいい意味で忘れられるからです。多くの人がやりがちなのは、簿価を追いすぎてしまうこと。簿価に対して基準価額が上がった下がったと一喜一憂することです。簿価は投資家側の都合であり、マーケットは一人ひとりの簿価を気にして値段をつけているわけではありませんからね。
投資家デビューしたら、時価で考えるようにしてください。それは100万円で買った株が80万円に下がったら、今の時点で80万円が高いのか安いのかと考えるということ。でももしかしたら時価ですら考える必要もなくて、とりあえずは少額ずつ投信積み立てを続けて相場を見ないことこそが、初心者がやるべきことかも知れない。

篠田: できる人は少ないですね。

藤野: だからこそ私たちのような専門家が、投資家の皆さまに代わって365日、マーケットやファンドに目を配っているのです。投信の魅力は皆さんが毎日考えないで済むというところだと思います。

篠田: 投資と聞くと難しく思いがちですが、良いファンドを選んで、積み立てで買う。後はプロにお任せする……投資は難しくないことが初心者のみなさんにお伝えできたと思います。ありがとうございました。

 

〔特別対談〕レオス藤野×スパークス武田×アセマネone酒井:強い個人投資家になるために必要なこと
前編:強い個人投資家になるために必要なこと
中編:投資信託は日本人の将来生活の味方か敵か?
後編:みんなが投資の専門家になるべき?
まとめ:ひふみ投信×スパークス×アセマネoneの最強ファンドマネージャーがガチ対決!?

〔教えてくれたのは〕

藤野英人(ふじの・ひでと)
レオス・キャピタルワークス 代表取締役社長 最高投資責任者
1990年、野村投資顧問(現野村アセットマネジメント)に入社。ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントなどを経て、03年レオス・キャピタルワークスを設立。08年に「ひふみ投信」を立ち上げる。

武田政和(たけだ・まさかず)
スパークス・アセット・マネジメント ファンド・マネージャー
1996年、日本長期信用銀行(現新生銀行)に入行。1998年、長銀ウォーバーグ証券(現UBS証券)に出向。1999年、スパークス・アセット・マネジメント入社し、「新・国際優良日本株ファンド(愛称:厳選投資)」 の運用チームに所属。

酒井義隆(さかい・よしたか)
アセットマネジメントOne
運用本部 株式運用グループ 国内株式担当 ファンドマネジャー
2004年、興銀第一ライフ・アセットマネジメント(現アセットマネジメントOne)に入社。2005年よりファンドマネジャーとして国内株式運用などを担当

〔聞き手〕
篠田尚子(しのだ・しょうこ)
楽天証券経済研究所ファンドアナリスト


 

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