下落が一段落した今の相場は、落ち着いて投資ができる環境だという。
気になるのは、投資初心者が実践すべき投資対象の選び方や相場が再び悪化したときの対処法。楽天証券の篠田尚子が日本を代表する3人の投資のプロに聞いた。

 荒れる相場とどう付き合うか?ここではじめるべき?

投資とは庭に桐の木を植えること

篠田: 投資初心者の投資行動を見ていると、マーケットが大きく崩れたときはもちろん、大きく上昇したときであっても、そこで投資をやめてしまう人が一定数います。マーケットの現状がわからないまま価格が大きく動いたことに不安を抱くためかも知れません。

そこでまずお伺いしたいのは、今のマーケットの現状と、投資家はマーケットにどう向き合えばいいのかということです。

 

酒井: 投資を始めたいと考えている初心者の方にお話ししたいことは、まずは少額の資金でいいので、投資を体験し体感してくださいということです。

昨年末から年始にかけて投資を始めた方は、2月の株価急落により怖さが顕在化したと感じているでしょうが、マーケットは不特定多数の参加者による合意で形成されるもの。ですので、期間にもよりますが、上がる下がるのどちらか一方通行ということはありません。

そこで体験・体感を通して、自分にとっての「快適な投資スタンス、リスク許容度」がどのあたりにあるのかを時間をかけて見つけていただきたいと思います。

個人投資家の方々の強みは、投資が仕事ではないので「無理に投資をしなくていい」ということ。この強みは最大限活用すべきです。いまの値動きが自分にとって怖い、許容できないなら、投資をしない、止める、という判断があっていいと思います。

 

藤野: 私は投資家の皆さんによく桐たんすの話をします。昔は女の子が生まれると、庭に桐の木を植えて、その子がお嫁に行く時に切って桐たんすを作ったそうです。

投資も桐の木と同じで、長い時間をかけて育てるものです。少し育ったところで切ってしまったら元も子もない。

2月以降の相場の調整には、実はホッとしているところがあるんです。2017年から2018年年初の速いスピードでさらに上昇を続け、株価の位置がさらに高くなったところで下落したら、反動が大きすぎて実体経済にも悪影響を与えていたかも知れなかった。

2月の下落は煮立った鍋が軽く噴きこぼれた感じと受け止めていて、むしろ落ち着いて投資ができる水準になったと思います。

武田: 私は、株式投資は基本的には簡単であること、そうはいっても人間は金銭が絡むと経済合理性を伴った判断ができないので難しいという二つの側面からお話ししたいです。

当たり前ですが株式投資は企業が資本を預かって、活用することでビジネス展開をしている。私にとって株式投資は紙切れの売買ではなく、企業のオーナーになることです。投資の対象となる企業を探す時は、長く保有していたいと思えるビジネスを展開している強い会社を探す。

専門用語ですが「本源的価値」を計算して、会社の本源的価値が市場でつけられている価格よりも高ければ投資をして長く保有すべきです。

正しい少数意見を持てば投資で勝てる?

篠田: どのような会社に投資したいと考えていらっしゃいますか。

 

武田: 一つ目がROE(自己資本利益率)が高い会社。二つ目が長期にわたって持続可能な「平均を上回る利益成長率」を持っている会社。三つ目がキャッシュフローを潤沢に生み出すビジネスを持っている会社です。この三つを兼ね備えている会社を探して、市場でつけられている価格が安いと思えば買えばいい。

さはさりながら、市場参加者は誰もが儲けようと考えているので、株価がとてつもない動きをすることがある。そこで私が自分自身に言い聞かせていることは、自分の意見が市場において「少数意見なのか」ということです。多数の意見は、株価に織り込まれやすいものであり、そこで大きな利益を得るのは、実は難しい。

大きなリターンを生むのは、少数意見。株価はこの少数意見が「正しい」と証明される過程で上昇するものです。ただ、難しいのは少数意見が最終的に正しいと証明される機会は非常に少ないこと。だから、頻繁に売ったり買ったりする必要はありません。

人は金銭が絡むと合理的な状況判断ができなくなってしまいがちです。「100円儲かった時よりも100円損した時のほうが心理的ダメージが大きい」という考え方がノーベル経済学賞を受賞するほどです。判断ミスを減らすという意味でも、無闇に取引の頻度を上げるべきではないでしょうね。

篠田: 人は必ずしも合理的な行動をとっていないということを自覚することが必要ですね。

武田: 多数意見を聞きながら、合理的な投資判断を行うという、謙虚でありながら、それを逆手に取れるくらいの大胆さも必要ですが、それも簡単ではない。本当に成功したいのなら人と違うことをするべきです。

人と違うことを実行するのはきついのですが、そういうことが好きな人がファンドマネージャーになっているから、この業界には変わった人が多いのかもしれませんね(笑)

 

〔特別対談〕レオス藤野×スパークス武田×アセマネone酒井:強い個人投資家になるために必要なこと
前編:強い個人投資家になるために必要なこと
中編:投資信託は日本人の将来生活の味方か敵か?
後編:みんなが投資の専門家になるべき?
まとめ:ひふみ投信×スパークス×アセマネoneの最強ファンドマネージャーがガチ対決!?

 

〔教えてくれたのは〕

藤野英人(ふじの・ひでと)
レオス・キャピタルワークス 代表取締役社長 最高投資責任者
1990年、野村投資顧問(現野村アセットマネジメント)に入社。ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントなどを経て、03年レオス・キャピタルワークスを設立。08年に「ひふみ投信」を立ち上げる。

武田政和(たけだ・まさかず)
スパークス・アセット・マネジメント ファンド・マネージャー
1996年、日本長期信用銀行(現新生銀行)に入行。1998年、長銀ウォーバーグ証券(現UBS証券)に出向。1999年、スパークス・アセット・マネジメント入社し、「新・国際優良日本株ファンド(愛称:厳選投資)」 の運用チームに所属。

酒井義隆(さかい・よしたか)
アセットマネジメントOne
運用本部 株式運用グループ 国内株式担当 ファンドマネジャー
2004年、興銀第一ライフ・アセットマネジメント(現アセットマネジメントOne)に入社。2005年よりファンドマネジャーとして国内株式運用などを担当

〔聞き手〕
篠田尚子(しのだ・しょうこ)
楽天証券経済研究所ファンドアナリスト



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