イオン復活の影に何があるのか?
イオンは株主優待が魅力的で、個人投資家に人気の銘柄です。ただこれまで、業績はイマイチというイメージが付きまとっていました。
ところが、2018年2月期の連結経常利益は前期比14.1%増の2,137億円と、ついに過去最高益を更新しました。続く2019年2月期の経常利益も会社予想ベースで同12.3%増の2,400億円と、最高益が続く見通しです。
イオンの連結業績
グループ会社の再編にコストがかかるので、連結純利益はまだ最高益に届いていませんが、再編が完了すれば、いずれ純利益も最高益を更新すると予想されます。イオンは株主優待だけでなく、業績でも評価できる銘柄になったと考えています。
イオンは「小売+金融+不動産」&「海外」で稼ぐビジネスモデルを確立
イオンやイトーヨーカ堂などの大手スーパーは、長らくユニクロ、無印良品、ニトリなどの専門店や、セブンイレブン、ローソンなどのコンビニに売り上げを奪われて、衰退していくイメージを持たれていました。そごう西武などの百貨店も、苦戦が続いています。総合小売業が衰退し、専門店(カテゴリー・キラー:特定分野の勝者)が成長する時代がずっと続くイメージを持たれていました。
ところが、最近、小売業界に、ちょっとした異変が起こっています。イオンなど総合スーパーの一部が、元気を取り戻しています。一方、国内のコンビニには、やや飽和感が出ています。
イオンの復活の背景に何があるのでしょうか? それは、イオンのセグメント情報を見ると良くわかります。同社が7月4日に発表した第1四半期(3-5月期)決算で、連結営業利益は前年同期比8%増の396億円と、最高益を更新しました。その内訳をセグメントに分けたのが、以下です。
イオンの事業セグメント別営業利益:2018年3-5月期(2019年2月期の第1四半期)
イオンの所在地セグメント別営業利益:2018年3-5月期
事業別、所在地別の2つのセグメント情報を見ると、イオンの2つの構造変化がわかります。
- スーパーストアの利益は低迷、金融・不動産・ドラッグストアの利益拡大で最高益達成
- 国内の利益が伸び悩む中、海外の利益が拡大トレンド入り
象徴的なのは、イオンの中核ビジネスであったGMS(総合スーパー)が3-5月期で赤字であることです。SM(その他スーパー)もあまり収益を稼げていません。それでも、金融・不動産、ドラッグストアの利益成長によって、連結営業利益で最高益を更新しています。
所在地別セグメントでも、同じ現象が見られます。海外でも、小売業ではそんなに利益を稼げていません。それは、事業別セグメントの「国際」部門の営業利益が1億円しかないことからわかります。ただし、金融・不動産の海外利益が拡大しているため、海外部門全体で、81億円の営業利益を稼ぎ出しています。
現在のイオンは、必ずしもスーパーストアで稼ぐのではなく、金融・不動産・ドラッグストアなどを含めた、連結全体で、利益を成長させるビジネスモデルに転換しています。金融・不動産業は、イオンのショッピングセンターと不可分です。イオンのショッピングセンターがにぎわっているからこそ、イオンの金融・不動産業の収益が拡大する構造です。
イオンは、金融・不動産を含めて、2018年3-5月期に、海外で営業利益の2割を稼ぐまでになっています。今後、海外収益の構成比がさらに高まっていくことが、予想されます。
イオンは構造改革によって総合スーパーを「強い小売業」に転換
イオンのショッピングセンターに行けばわかりますが、総合スーパーはもはや専門店と競合する存在ではありません。今は、ユニクロなど人気の専門店を積極的に取り込み、ショッピングセンター全体の魅力を高める戦略を取っています。
自前の売り場は、競争力のある生鮮食品や、競争力のあるPB(トップバリュ)などを中心にして、専門店と競合する衣料品や雑貨の売り場は縮小しています。つまり、イオンは、専門店と競合せず、共存する存在になっています。
外部テナントを取り込むと、そこからは賃貸収入が入ります。今やショッピングセンターは小売業(自前の売り場)と、不動産業(テナント管理)のミックスとなっています。さらに、魅力的なGMSを全国に展開することで、クレジットカードや銀行などの総合金融業の利益成長も見込めます。
このようにしてイオンは、総合スーパー事業を衰退ビジネスから再び成長するビジネスに変えたのだと思います。
自前の売り場にこだわらず、魅力的な空間を作ることで稼ぐ発想は、不動産業のものです。魅力的な立地をおさえている不動産業が、小売業に参入すると成功しやすいのは、もともと自前の売り場がないからです。JR東日本が駅ナカなどに展開する「ルミネ」や、三井不動産が展開する「ララポート」は、魅力的な空間を作り、競争力の高い専門店を呼び込むことで、競争力のある小売業を作ることに成功しています。
海外コンビニの成長が魅力のセブン&アイ、総合スーパーの構造改革は周回遅れ
セブン&アイHD(3382)傘下のイトーヨーカ堂も、同様の構造改革に着手しています。「セブンパークアリオ柏」などを見ると、イオンと同じく専門店を取り込んで、強い総合小売業の復活を感じさせるところがあります。ただし、イオンに比べると、総合スーパー強化の取り組みは、周回遅れの感があります。
セブン&アイHDは、海外のコンビニ事業の成長が加速していることが、投資魅力につながっています。ただし、グループ内の総合小売業(イトーヨーカ堂とそごう西武)建て直しは、道半ばです。
コンビニとの戦いは続く
総合スーパーにはまだ天敵がいます。セブンイレブン、ローソン、ファミリーマートなどのコンビニです。コンビニの販売のおおむね8割以上は食料品と飲料です。ここは大手スーパーが自前で収益を稼げる部門として、最後まで残してきたところです。
過去10年で、コンビニは大手スーパーの顧客にどんどん食い込んできました。10年以上前、コンビニの顧客の中心は若年層で、品ぞろえも若年層が外で食べる手軽な食べ物が中心でした。この時は、大手スーパーと直接競合することはありませんでした。
ところが、コンビニはその後、顧客ターゲットを変えてきています。家庭食をターゲットとして、40~50代の女性顧客を増やすことに成功してきました。家庭食がターゲットとなったことで、コンビニは大手スーパーとモロにバッティングするようになりました。コンビニは次々と魅力的な総菜や食材を開発し、大手スーパーの客を奪っていきました。
イオンは、コンビニを撃退するビジネスモデルも徐々に作りつつあると考えられます。小型スーパーやドラッグ・ファーマシーです。まだセブンイレブンを凌駕するビジネスになったとは言えませんが、コンビニよりも面積が広く品ぞろえが異なるドラッグストアや、小型の食品スーパーの一部は、コンビニよりも高い競争力を持ち始めています。
コンビニとの競争では、依然としてコンビニのほうが優位ですが、一方的にやられるだけでなく、いい勝負を挑める体制を少しずつ作りつつあるといえます。
イオングループ各社の投資魅力は、いずれも高いと判断
イオンは、中核事業を担う子会社を多数上場させています。典型的な、親子上場企業です。イオンの成長を担う上場子会社は、いずれも、投資価値が高いと判断しています。
(1)イオンフィナンシャルサービス(8570)
イオングループの金融事業を担う。今期(2019年3月期)の経常利益(会社予想)は、前期比4%増の510億円と、9期連続で最高益を更新する見込み。予想配当利回り【注】が17日時点で3.0%と高いことも魅力。
【注】同社が予想する年間一株当たり配当金68円を、17日の株価2,270円で割って算出。
(2)イオンモール(8905)
イオングループのデベロッパー(不動産)事業を担う。今期(2019年2月期)の経常利益(会社予想)は、前期比10%増の725億円と、6期連続で最高益を更新する見込み。予想配当利回りは17日時点で1.9%。
(3)ウエルシアHD(3141)
イオングループのドラッグ・ファーマシー事業の中核を担う。今期(2019年2月期)の経常利益(会社予想)は、前期比10%増の341億円と、21期連続で最高益を更新する見込み。予想配当利回りは17日時点で0.7%。
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