日本を代表する3人の投資のプロ、レオス・キャピタルワークス藤野氏×スパークス・アセット・マネジメント武田氏×アセットマネジメントOne酒井氏による特別対談。強い投資家になるためのヒントをまとめて紹介します。

 

投資家はマーケットにどう向き合えばよいですか? 

酒井:マーケットは不特定多数の参加者による合意で形成されるもの。上がる下がるのどちらか一方通行ということはありません。

投資の初心者はまずは少額の資金で、投資を体感し、体験を通して、自分にとっての「快適な投資スタンス、リスク許容度」がどのあたりにあるのか、時間をかけて見つけていただきたいと思います。今の値動きが自分にとって怖い、許容できないなら、投資をしない、止めるという判断があっていいと思います。

藤野:昔は女の子が生まれると、庭に桐の木を植えて、その子がお嫁に行くときに切って桐たんすを作ったそうです。投資も桐の木と同じで、長い時間をかけて育てるものです。少し育ったところで切ってしまったら元も子もない。

そこで投資初心者は「毎月積み立て」でスタートするのがいいと思います。その理由は買った値段である「簿価」をいい意味で忘れられるからです。多くの人がやりがちなのは、簿価を追いすぎて、簿価に対して基準価額が上がった下がったと一喜一憂して振り回されること。簿価は投資家側の都合であり、マーケットは一人ひとりの簿価を気にして値段をつけているわけではありませんからね。

だから、投資家デビューしたら、時価で考えるようにしてください。それは100万円で買った株が80万円に下がったら、今の時点で80万円が高いのか安いのかと考えるということ。でももしかしたら時価ですら考える必要もなくて、とりあえずは少額ずつ投信積み立てを続けて相場を見ないことこそが、初心者がやるべきことかもしれない。

相場を見ずにいることは難しい面もあります。だからこそ私たちのような専門家が、投資家の皆さまに代わって365日、マーケットやファンドに目を配っているのです。投資信託の魅力は投資家の皆さんが毎日考えないで済むというところだと思います。

武田:私にとって株式投資は紙切れの売買ではなく、企業のオーナーになることです。投資の対象となる企業を探すときは、長く保有していたいと思えるビジネスを展開している強い会社を探します。

さはさりながら、市場参加者は誰もが儲けようと考えているので、多数派の意見は株価に織り込まれやすいものであり、そこで大きな利益を得るのは、実は難しい。だから、本当に成功したいのなら人と違うことをするべきです。

 

いい投資信託、悪い投資信託を見分けるポイントはありますか?

酒井:アクティブファンドがいいのか、インデックスファンドがいいのか、これがひとつのポイントになるかもしれません。この議論は、外食にたとえれば、チェーン店がいいのか個人店がいいのかくらいの違いしかありません。

批判が多い毎月分配型も、上手に使いこなしている人もいます。固定観念を持たずに、自分の使い勝手のいいものを選べばいいのです。

私は資産の3分の1は自分で運用している日本株のアクティブファンドを買い、3分の2で外国株のインデックスファンドを買っています。

日本株がアクティブなのは、日本株にはファンドマネージャーが活躍する余地があると考えているからです。もしファンドマネージャーを辞めたとしても、日本株に関しては「当面の間」はアクティブを買いますね。

一方、外国株がインデックスファンドなのは、外国株を調べる時間がないからです(笑)。

藤野:私も酒井さんと同じく、日本株はアクティブ、外国株はインデックスがいいと思っています。

インデックスファンドはどの指数に投資しているかが重要です。日本株の代表的な指数であるTOPIX(東証株価指数)はよくないのです。TOPIXは時価総額の大きい銘柄の影響を強く受けるのですが、時価総額上位の会社を見ると大きな成長が見込めそうにない会社が多い。それらが足を引っ張ってしまうのです。

私は10年間「ひふみ投信」を運用してきましたが、インデックスにほとんど負けたことがないどころか、常に運用成績上位10%に入っている。日本株インデックスに勝つ方法があるいうことです。

 

時価総額上位の会社は成長性のない会社が多い?

藤野:強い言葉で言えば、日本株インデックスを買うことは、日本経済の成長を阻害する会社の株もまとめてたくさん買っているということです。海外ではインデックス投資が主体とはいえ、極端なアクティブ投資をする投資家も多く、その人たちがリスクテイク(意図的に危険を冒す)している。おかげで結果的によい会社の株価が上昇し、銘柄選別機能が働いている。米国株を見ると、時価総額の上位にアップル、フェイスブック、アマゾン…と成長性が高い会社がズラズラと並んでいます。だからこそインデックスファンドをそのまま買えるわけです。

一方の日本は、アクティブ投資の人がほとんどおらず、インデックス投資が正統という雰囲気がある。こういった背景があるにもかかわらず、米国の理論をそのまま当てはめて、日本でインデックス投資を勧める人が多いけれど、それではパフォーマンスは上がらないし、むしろ日本の成長を阻害する会社が買われ続けることになっててしまう。

 

アクティブファンドを選ぶとき、何を手がかりにすればいいの?

 武田:まずリターンが良い悪いという視点は判断基準の一つですが、それだけではありません。忘れてはならないのは「どれくらいのリスクを取っているファンドなのか」と言うことです。

個人投資家の方に言えることは、「投資信託をリターンだけで選ぶのは危険」ということ。リターンにばかり注目するのは人間の本能だから仕方ないのですが、リスクとリターン、このバランスを取らなければ、投資で長期的に成功はできません。

最後に私は、「アクティブファンドマネージャーはもっと意見を発するべきだ」と考えていて、月次報告書などで、「なぜ、この会社がいいと思っているのか」や「株式投資はこうあるべきだ」ということを、お伝えしようとしています。

 

アクティブファンドの良し悪しはどう見分ければいいでしょうか?

武田:最近問題になっているのは、「クローゼット・インデックス・ファンド」です。アクティブファンドを掲げていながら、ふたを開けてみると投資先がベンチマークに酷似していて、運用成績もほとんどベンチマークに連動している。 

特に私自身が注意を払っているのは、「アクティブ・シェア」と呼ばれるポートフォリオがアクティブ運用されている度合いを表す指標(数値はベンチマークと完全一致すれば0%、全く異なると100%。目安は80%以上といわれる)です。

藤野:アクティブ・シェア70%以下のアクティブファンドは「なんちゃってアクティブ」の可能性がありますね。実態としてインデックス型に近いのに手数料が高いだけ。アクティブ・シェアの計算式は公表されているので、その気になれば投資信託の運用報告書のデータから算出可能ですが、個人投資家でもできる簡単な見分け方としては、投資信託の運用する上位10銘柄が、インデックスの構成銘柄と似ていないかどうかを調べる方法もあります。

実際、今の日本では個人投資家の資産形成に真に役立つと言えるアクティブファンドはやはり少数です。目先の流行を追い求めるテーマ型ファンドも気をつけないといけません。昨年2017年から中小型株ファンドに多く資金が集まっています。中にはマザーズ指数やJASDAQ指数などのベンチマークに忠実なファンドもある。

ですが、市場規模が小さいマザーズの上位銘柄をみんなで買えば株価は当然つり上がっていきます。中小型株ファンドが人気になることで、指数上位の銘柄が実態以上に買われすぎてしまうわけです。

だからこそ「中身が大事」です。中小型株ファンドの中には指数とは関係なく、ちゃんと会社の中身を見ているものもある。中小型株ファンドに限らず、直近のリターンだけでファンドを選ぶのは危険だからやめていただきたい。

酒井:(ファンドの見分け方が難しい面もあるので)自分の資産の何割を使って投資をするのかを決めることが重要になります。例えばもし価格が10%下落しても、投資額を資産の10%にとどめていたら、資産は1%しか減りません。投資信託は分散投資を徹底している商品ですが、その一方で特定のリスクを背負っているエッジの効いた投資信託もある。いろいろな投資信託があることを理解して、投資金額を調整すれば、それほど怖がることはありません。

藤野:投資の極意を知らなければ投資ができないなどということはありません。車の運転に例えれば、多くのドライバーはエンジンの構造を詳しく知らずに運転していると思います。それでいいのです。

 

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中編:投資信託は日本人の将来生活の味方か敵か?≫≫

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〔教えてくれたのは〕

藤野英人(ふじの・ひでと)
レオス・キャピタルワークス 代表取締役社長 最高投資責任者
1990年、野村投資顧問(現野村アセットマネジメント)に入社。ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントなどを経て、03年レオス・キャピタルワークスを設立。08年に「ひふみ投信」を立ち上げる。

武田政和(たけだ・まさかず)
スパークス・アセット・マネジメント ファンド・マネージャー
1996年、日本長期信用銀行(現新生銀行)に入行。1998年、長銀ウォーバーグ証券(現UBS証券)に出向。1999年、スパークス・アセット・マネジメント入社し、「新・国際優良日本株ファンド(愛称:厳選投資)」 の運用チームに所属。

酒井義隆(さかい・よしたか)
アセットマネジメントOne
運用本部 株式運用グループ 国内株式担当 ファンドマネジャー
2004年、興銀第一ライフ・アセットマネジメント(現アセットマネジメントOne)に入社。2005年よりファンドマネジャーとして国内株式運用などを担当

 

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