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 2021年は、国内の多くの地域において、年間のおよそ4分の3もの期間で緊急事態宣言などが適用され、経済活動や日常生活が制限されました。しかし、足元では新規感染者数などが激減してきました。これには、基本的な感染対策などの徹底に加え、従来よりも迅速に開発・生産されたワクチンの接種が奏功していると言えます。

【ポイント1】ワクチンや経口治療薬の迅速な実用化の背景に進化した『AI』の存在

 新型コロナウイルスのワクチンは、欧米の先進国を中心に感染拡大の当初からわずか1年足らずで接種が始まりました。また現在は経口治療薬の承認申請が出されており、感染拡大から2年程度で実用化に至ろうとしています。こうした迅速なワクチンや創薬の背景には、昨今の人工知能(『AI』)の飛躍的な進化があります。

 本来、薬の開発には長い時間と莫大(ばくだい)な費用が掛かります。例えば、通常の薬の場合、1,000万個~10億個ともいわれる化合物から、新しく薬のもとになるリード化合物を見つけ出し、それを効果や安全性などのさまざまな面から評価して最適な化合物の組み合わせを絞り込んでいきます。こうした創薬での膨大な情報や過去のデータを分析することは、いわゆるディープラーニング(深層学習)として、現在の『AI』の得意とするところです。

【ポイント2】「mRNA」ワクチンのタンパク質の解明に活用された『AI』

 新型コロナウイルスのワクチンの主流となっている、いわゆる「mRNA」タイプのワクチンの開発でも『AI』が活躍しています。これらのワクチンは、「mRNA」という物質を利用しています。「mRNA」はウイルスの表面にあるスパイクタンパク質と呼ばれるタンパク質の遺伝情報を含んでいます。「mRNA」が体内に投与されると、細胞の中で設計図のように働いて、次々とスパイクタンパク質が作られ、これに対して免疫が働き、抗体が作られるという仕組みです。

 この「mRNA」を利用したワクチンの開発では、複雑なタンパク質の構造を解明する必要があり、従来では非常に手間のかかる作業となっていました。しかし今回は、この過程で『AI』が活用され、非常に短期間でタンパク質の構造が解明できるようになりました。

【今後の展開】『AI』が創薬時間を短縮、着実に『コロナ』との闘い方は見えてきている

 このように、『AI』が創薬に活用され始めたことで、薬の実用化までの期間が非常に短縮されてきています。新型コロナウイルスの新しい変異株であるオミクロン型については、ワクチン開発に必要なデータは2週間以内に利用可能となり、3カ月程度で新しいワクチンを出荷できる模様です。新型コロナウイルスは次々と新たな変異型が現れるなど、『コロナ』との闘いはまだ続きそうです。しかし、こうした『AI』による創薬事業の進展などにより、着実にその闘い方は見えてきているといえそうです。