米国株の強気相場がけん引した2023年の世界株堅調
米国市場ではS&P500種指数が前週まで8週続伸し年初来では+24.5%となりました(12月27日)。10月末のハロウィーン相場、11月のサンクスギビング(感謝祭)相場、12月のクリスマス相場を経て年末高で終わるのは過去30年(1993~2022年)にみられたアノマリー(季節的傾向)に沿う堅調です。
12月22日に発表されたPCE(個人消費支出)物価指数の上昇率(前年同月比)は+2.3%に減速しました。米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)が注視するPCEコア物価指数の上昇率も+3.2%と前回FOMC(米連邦公開市場委員会)で公表された「2023年のPCEコア物価指数の上昇率予想(予想中央値)」の通りディスインフレ(物価上昇率の減速傾向)を示したことが特筆に値します。
図表1は、世界と主要国(地域)株価指数の期間別リターンを一覧したものです。米国株式(特にS&P500種指数やナスダック100指数)の「年初来騰落率」は相対的に高く、世界株式(MSCIオールカントリー株価指数)の堅調をけん引する優勢となりました。インフレと金利の低下および米国経済のソフトランディング(軟着陸)を先読みして米国株を巡る投資家心理は上向いています。
ただ、年明けにその反動でスピード調整を余儀なくされる可能性には警戒を要します。リスク(リターンのブレ)に直面した場面では「何のリスクもとれない人間は、人生で何も成し遂げられない」(モハメド・アリ/米国のボクサー)との言葉が参考になります。
投資を続ける途上で、株価が乱高下する可能性は排除できません。新年も一喜一憂せずに長期分散投資を続けたいと思います。
<図表1>米国株の強気相場がけん引した世界株堅調
2024年の「びっくり(サプライズ)予想」とは何か?
新年を迎えるにあたり、本稿では筆者が考える「2024年のびっくり(サプライズ)予想」をご紹介したいと思います。びっくり予想の定義は、現時点ではコンセンサス(市場予想平均)やメインシナリオとみなされていないものの、「生起確率が5割以上あるかもしれない」と筆者が見込んでいる事象です。
図表2では七つのサプライズ予想を「びっくり初夢!?」として取りあげ、それぞれの概略や要因を一覧にし、やや詳細な解説を下段で述べてまいります。
<図表2>2024年の「びっくり(サプライズ)初夢」
(1)「米国初の女性大統領誕生」
2024年11月5日の米大統領選挙に向けては、現職のバイデン大統領(現在81歳:民主党)とトランプ前大統領(77歳:共和党)による再対決が現時点でのコンセンサスです。ただ、米国では最近「もしトラ・リスク」(トランプ前大統領が再選された場合に米国の外交や内政が混乱する事態)を懸念する有識者や富裕層が徐々に増えているようです。
JPモルガンのCEOでその発言が注目されているジェイミー・ダイモン氏は11月29日、大統領選に向けた共和党の候補者指名争いを巡り「ニッキー・ヘイリー氏(元国連大使:51歳)がトランプ前大統領よりも良い選択肢になる」と述べ、「あなたがたとえ民主党支持者であっても彼女を支援してほしい」と呼びかけました。
前サウスカロライナ州知事のヘイリー氏は、富豪のチャールズ・コーク氏が設立した保守系政治団体から大口献金を獲得し、ウォール街からの支持も得て勢いを増しつつあります。危機感を抱いたトランプ氏は最近「ヘイリー氏を副大統領候補にどうだろう」と周囲に相談していると報道されました(22日)。
2016年の大統領選挙を振り返ると、当時のトランプ氏も最初は泡沫候補の一人とみられていました。女性でインド系のヘイリー氏が共和党の大統領候補に選出されれば、米国初の女性大統領として「ガラスの天井」を打ち破り米国の政治シーンを刷新する可能性があるため、注目したいと思います。
世論調査データサイト「RealClearPolitics」によると、大統領選挙がヘイリー候補とバイデン大統領の対決となる場合、「45.2%対40.3%」でヘイリー候補が優勢と見積もられています(27日時点)。
(2)「地政学リスクが大幅後退」
ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、米国の有力紙ニューヨーク・タイムズは12月23日、ロシア政府の元高官や米国当局者筋の話として、プーチン大統領が少なくとも今年9月以降、「仲介者を通じて停戦に向けた協議に関心を示してきている」と報じました。その真偽やウクライナ側を惑わす情報戦略と疑うべきとの見方もあります。
ただ、「戦争疲れ」気味のロシアとウクライナが2024年中に停戦交渉に向かう可能性には期待したいと思います。過度の楽観は禁物ですが、イスラエルによるハマス攻撃も終結すると地政学リスクはいったん後退するでしょう。
戦争の終結を受け、「平和の配当」と呼ばれる不確実性の後退と商品市況下落がもたらされると、株式を中心とするリスク資産にプラス要因となることが見込めます。
(3)「S&P500が5,500に到達」
2024年の米国株式見通しについては、筆者は12月1日付けの本稿で「メインシナリオ」をS&P500の目標値で5,000ポイントと想定し、潜在的なリスク要因についても解説しました。(2024年の米国株式見通し:リスクシナリオは?(香川睦) )
ただ、12月以降の一段の債券高・株高の流れを受け、ゴールドマンサックスが12月15日に2024年のS&P500目標値を(11月時点予想の「4,700」から「5,100」へ)引き上げるなど強気見通しが増えてきました。
筆者が参考にしているバリュエーション・モデル(予想益回りスプレッド=S&P500の予想益利回り(予想PER(株価収益率)の逆数)と長期金利(10年国債利回り)の差から逆算したフェアバリュー・レンジ)に基づく「ベストシナリオ」を試算すると、S&P500の上値余地として「5,507」が視野に入ってきます(22日時点)。
米国の物価上昇率が着実にディスインフレ傾向をたどり、FRBがピボット(金融政策の転換)に沿って断続的な利下げを実施すると、長期金利は一段と低下して景気のソフトランディングが現実味を増してきます。
生成AI(人工知能)の「収益化」が一段と進む中、グロース株とバリュー株が循環物色を繰り返しつつS&P500が2024年末までに「5,500」に到達しても、現水準からの上昇率は+15%で「2023年の上昇率(+24.5%)」(27日時点)と比較すれば控えめです。S&P500が2年連続で2桁上昇率を示現すれば、投資家にとってはコンセンサスを上回るポジティブサプライズとなるでしょう。
(4)「ドル/円は150円に回復」
為替相場では日米金利差縮小を織り込み11月中旬以降に円高ドル安となりました。実際、来年1月もしくは4月の日本銀行政策決定会合でのマイナス金利解除を巡る思惑や警戒感は解けず、投機筋を含む市場参加者による円のロング(買い)ポジションは増えつつあります。
ただ、日米金利差縮小をいったん織り込んだ後は、デジタル収支の赤字拡大(日本居住者による米大手テック企業:アップル、マイクロソフト、アマゾン・ドット・コム、グーグル、メタ・プラットフォームズ、ネットフリックスなどへのサービス使用料金支払い増加)に伴う持続的なドル買い需要、新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)スタートに伴う海外資産(外国株式や外国債券)の積み立て投資拡大による円売り需要、生命保険会社や銀行など本邦金融法人による(為替ヘッジをしない)外債需要拡大などで円売りは着々と増えると見込まれ、米国がソフトランディングを確かにすると為替相場が再び円安ドル高に向かう可能性もあります。
また、歴代の米政府高官が「強いドルは米国の利益」と述べてきた経緯もあります。イエレン米財務長官は2022年10月11日、「市場原理に基づいてドルの価値が決まることが米国の利益に合致する」と発言し当時のドル高基調を是認しました。
巨額の債務や財政赤字を抱える米政府の立場に立てば、外国人投資家や海外の中央銀行に買い続けてもらいたい米国債のドル建て価値を損なわせるドル安進行を容認するかは疑問です。
意外にもドル/円が2024年末までに1ドル=150円程度に(2023年末時点と比較して)ドル高円安に転じる動きはサプライズとなるでしょう。多くの専門家の2024年為替見通しが円高進行に傾いている現在だからこそ留意したいと思います。
(5)「日経平均は4万円に到達」
筆者は、2024年の日本株式について「一時的な下落を消化しつつもジリ高傾向をたどる」と予想。日経平均株価(225種)は来年末までに3万7,000円程度まで上昇するとの見方をメインシナリオとしています。
ただ、上述したような想定以上の米国株高、為替の円安回帰、日銀のデフレ脱却宣言(マイナス金利解除)、東京証券取引所による低PBR(株価純資産倍率)是正要請を受けた資本効率改善、企業業績拡大、海外勢の見直し買いが進めば日経平均が史上最高値(1989年末の3万8,915円)を超え、2024年末までに4万円に到達する可能性は否定できません。
アベノミクス相場(2013年)当時は構造改革やデフレ脱却への期待を反映し日経平均ベースの予想PERは一時23倍まで拡大しました。現在の日経平均の予想PERは約14.7倍です(27日/日本経済新聞)。
日経平均ベースの予想EPS(1株当たり利益)(約2,280円)が来年度に10%程度の増益に相当する2,500円に増え、予想PERが16倍まで拡大すれば日経平均で4万円が試算できます(2,500円×16倍)。2023年の日経平均は約29%上昇しました(27日)。4万円は現水準から18.9%程度の上昇で「非現実的」とは言いきれません。
来年も「インフレ下では現預金の実質購買力が毀損(きそん)していくリスク」が再認識されるでしょう。新NISAの活用を契機に、資産形成に目覚めた各世代の長期投資資金が日本株に向かう需給も予想します。
(6)「日本初の女性首相誕生」
リクルート事件(1988年)以来の政局危機とも言われる「政治資金パーティーを巡る裏金疑惑」を受けた自民党は、内閣支持率と自民党支持率の同時低下に直面しています。「青木率」として知られる「内閣支持率と自民党支持率の合計」は各種世論調査で50%を割り込み政権維持を巡る危険水域に陥っています。
元自民党政調会長の亀井静香氏は12月22日、「岸田さんで次の選挙を戦えないという場合、次のリーダーは誰か」と聞かれ、「自民党は女性の党首でないと選挙できない」と予測。亀井氏は「刷新さ」と「清廉さ」を打ち出すために自民党は「ポスト岸田」に女性総裁(首相候補)を据えて解散総選挙に持ち込む見通しを示しました。
亀井氏は次期総裁有力候補として上川陽子衆議院議員(現外務大臣:岸田派)と高市早苗衆議院議員(現経済安全保障担当大臣:無派閥)が有力であるとも述べました。
日本で女性初の自民党総裁(→首相=政治のトップ)が誕生することは、他主要先進国と比べて「周回遅れ」とされるダイバーシティ(多様性)推進の観点で重要かつ歴史的な事象となるかもしれません。
(7)「大谷選手が2年連続MVP」
最後は金融市場と直接関係ないサプライズで恐縮ですが、2024年の初夢として「大谷翔平選手の2年連続MVP(最優秀選手賞)選出」を取り挙げました。ご承知の通り、大谷選手は今季44本のホームランを打ち、「日本人には無理」と言われてきた本塁打王に輝いただけでなく「二刀流」によるピッチングで10勝を勝ち取り、アメリカン・リーグで2度目のMVPに選ばれました。
体に負担がかかる二刀流を貫いた結果として肘の手術をした後、大型契約でナショナル・リーグのロサンゼルス・ドジャースに移籍が決定。リハビリが順調に進めば、来季は打者のみに専念するとのことです。大谷選手は「日本のヒーロー」から「アジアのヒーロー」となりつつあります。
「来季もドジャースがプレーオフに進出し、ワールドシリーズで優勝。大谷選手が打撃の活躍で2年連続MVPを獲得する」がファンとしての期待です。ただ、本音として大谷選手にはけがなくMLBで長く活躍してもらいたいと希望しています。
上記した「びっくり(サプライズ)初夢」の多くは皆さまの見通しと大いに異なるかもしれません。メインシナリオ(コンセンサス)よりも楽観的すぎるかもしれません。ただ、想像の枠を広げた期待が実現する可能性はあります。
一方、各種リスク要因が顕在化したり深刻化すると上記サプライズ予想は実現しにくくなります。株価で例えれば、2024年の米国市場でも日本市場でも想定外の懸念材料で一時的にせよ株価が思いのほか下落する場面はあるでしょう。
そのような株価調整局面では、「虹が見たければ、雨は我慢しないと」(ドリー・パートン/米国の女優)や「朝の来ない夜はない」(吉川英治/作家)との言葉を思い出したいです。11月に惜しくもお亡くなりになったKANさんは1991年に大ヒットした「愛は勝つ」との曲で「最後に愛が勝つ」と歌いました。
長期分散投資や積み立て投資でも「最後に買いが勝つ」と言えることが市場実績で検証できます。2024年も皆さま方のご多幸と資産形成でのご成功を心からお祈りしています。本年も最後までお読みいただきありがとうございました。
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