利益水準が大きい割にお値打ちな株を探る指標がPER

 値上がりが待ち遠しいけど、値下がりは怖い。初心者からベテランまで、投資家なら誰もが同じ心理でしょう。株式投資は預貯金と異なり元本保証がないため、株価の値下がりが続けば、購入価格を下回り損することもあります。しかし、値下がりリスクを小さくすることならできそうです。

 株式の世界ではしばしば「割高」「割安」という表現が使われます。業績や資産の価値に比べて株価が高い、株価が安い、という意味です。

 たとえば、1株当たり年100円の利益を稼ぐA社とB社があり、株価はA社が1,000円、B社が2,000円とします。A社の株価は利益の10年分(1,000円÷100円)に相当しますが、B社は利益の20年分です。A社とB社の稼ぐ利益が同じなら、A社が割安でお得、B社が割高ということです。

 このように、株価が利益の何倍かを示す指標をPER(Price Earnings Ratioの頭文字:株価収益率)といい、アルファベットの通りピーイーアールと読みます。PERで使う利益はすでに確定した実績値ではなく、予想値(現在なら2022年3月期や2022年12月期)を使います。通常は、企業が年度末の本決算を発表した時点で、基準とする利益の決算期が変更になると考えておいてください。

  1株当たり利益 株価 PER
A社 100円 1,000円:株価は利益の10年分=PER10倍
B社 100円 2,000円:株価は利益の20年分=PER20倍

 しかし、A社の業績が下り坂ならどうでしょう。A社の利益が翌年には半減に落ち込むことを考えれば、翌年の利益をベースとしたPERは(1,000円÷50円で)20倍になります。逆に、B社の業績が絶好調で、翌年に利益が倍増することを考えれば、PERは(2,000円÷200円で)10倍になります。一転して、B社のほうが割安ということになります。

 このことからも、利益の成長性が高い企業ほど、PERは割高な状態が許容されるといえます。なので、PERで割高、割安を判断するには、同業種のなかでの比較、同じような製品やサービスを扱っている企業同士で比較することが重要といえるでしょう。なお、業績が順調に推移していれば、PERの絶対水準が低い企業は「割安」と判断しても問題ないでしょう。

株価の「売られ過ぎ」を見る指標、PBRにも注目!

 株価の割高・割安はPERだけでは判断しにくいケースも多いので、ほかの指標なども併せてみたいところです。そこで、PERと同様に代表的な指標となる、純資産を基準にしたPBR(Price Book-value Ratio:株価純資産倍率)にも注目です。こちらもアルファベット通りピービーアールと読みます。

 純資産とは総資産から負債を差し引いたものです。つまり、PBRとは、株価が純資産の何倍にまで買われているかを示す指標となります。なお、純資産はすでに確定した実績値の数字を使うことが多いです(利益と違って翌年の純資産を予想することが難しいため)。

 1株当たり純資産をA社500円、B社2,500円、現在の株価をA社500円、B社2,500円としたのが次の表です。PBR0.8倍のB社のほうが割安ということになります。

  1株当たり純資産 株価 PBR
A社 500円 1,000円:株価は純資産の2倍=PBR2倍
B社 2,500円 2,000円:株価は純資産の0.8倍=PBR0.8倍

 注意してほしいのは、企業が成長するには資産を使って投資を行うべきであり、純資産が膨らんでいる企業がけっしていい企業というわけではありません。「PBRが割安=買うべき銘柄」ではないのです。ただし、PBRが1倍を下回っている企業は、理論上、誰かが株を買い占めて、すぐに解散し全ての資産を売り払えば、その瞬間にもうけが出てしまうという状態にあるわけです。

 もちろん、今後の利益成長なども全く織り込まれていない状態です。このため、PBR1倍という水準は、一つの株価の下値メドになり得ると考えられます。また、PBRが1倍未満の株は、理論上は1倍の水準にまで株価が戻る余地があるといえます。

 東証1部全銘柄(3月16日現在)平均のPERは13.7倍、PBRは1.17倍です。この数値と単純に比べるだけで割安株とは判断できませんが、業績が順調に伸びているにもかかわらずPERが平均を大きく下回っている、赤字でもないのにPBR1倍を大きく下回っているなどは、その株が割安といえる一つの基準になるでしょう。

 下の表の銘柄は以下の六つのポイントで選んだものです。ぜひ参考にしてください。

  • 10万円未満で買える
  • PERが10倍未満
  • PBRが0.8倍未満
  • 配当利回りが3%以上
  • 前期(2021年3月期)実績、今期(2022年3月期)見通しともに経常増益
  • 時価総額が200億円以上

はじめてでも選びやすい割安株10選

※株価などのデータは2022年3月17日現在
※PERは今期(2022年3月期)予想、PBRは前期(2021年3月期)実績ベース
※キッツ、新日本電工、岡部、スミダコーポは決算期が12月、富士製薬は9月
※時価総額の大きい順

キッツ(6498)
株価 693円
いくらから
買える?
6万9,300円
PER 9.86倍
PBR 0.77倍
配当利回り 3.61%
どんな会社? 水や空気などの流体を流したり止めたりするバルブ製造の国内最大手。建築設備や水関連、半導体関連などが主用途になる。生産拠点は海外8カ所に展開。2022年12月期経常利益は前期比8.1%増の97億円となる見通し。半導体装置分野や水素分野などでの売り上げ拡大を見込んでいる。2月には中期計画を発表、2024年12月期の営業利益は120億円を目標としている(2021年12月期は90億円)。クリーンエネルギーとして今後の市場拡大が期待できる水素関連分野の需要取り込みなどが、今後の注目材料となる。
太平洋工業(7250)
株価 926円
いくらから
買える?
9万2,600円
PER 6.23倍
PBR 0.5倍
配当利回り 3.56%
どんな会社? 自動車用のタイヤバルブ(タイヤに空気を入れる箇所)大手。タイヤバルブとバルブコア(タイヤバルブの心臓部品)の国内シェア(市場占有率)で100%、海外シェアでも50%以上を握る。空気圧や温度の異常を検知するタイヤ空気圧監視システムなども扱う。2022年3月期の経常利益は前期比11.4%増の125億円となる見通し。自動車生産全般の回復を背景として、販売数量が増える見込み。全国的にタイヤの脱落事故が相次いでいることは、同社への関心の高まりにつながる。また、世界トップ製品を抱える企業にあって、株価の割安感の強さは際立つ。
ユアテック(1934)
株価 714円
いくらから
買える?
7万1,400円
PER 8.24倍
PBR 0.41倍
配当利回り 3.64%
どんな会社? 東北電力系列の電気工事会社。電気、空調、給排水、情報通信設備工事から、土木・建築工事・リニューアルまで幅広く手掛ける。主要な展開地域は東北各県や新潟県など。東北電力向けが売上高の4割超を占める。2022年3月期の経常利益は前期比2.5%増の94億円となる見通し。再生可能エネルギー関連工事などが増加している。2021年4-12月期までは前年同期比倍増ペースで推移し、業績上振れの可能性は高そう。再生可能エネルギー関連設備では20年以上の実績を持ち、東北地区で風力発電案件が多く控えていることはメリット。
新日本電工(5563)
株価 340円
いくらから
買える?
3万4,000円
PER 8.32倍
PBR 0.78倍
配当利回り 3.53%
どんな会社? 日本製鉄系列の合金鉄最大手メーカー。「合金鉄」とは、マンガンなどの金属を鉄と結合させたもので、鉄を生産する過程で必要な副原料となる。二次電池材料の提供や排水の循環利用など環境事業も手掛けている。2022年12月期の経常利益は前期比16.4%増の80億円となる見通し。合金鉄市況が大幅に上昇していることで、利益率の上昇が続くとみられる。中期的に拡大が期待されるのは、自動車の電動化進展に伴うリチウムイオン電池用材料だ。2017年から住友金属鉱山の製造を一部受託加工している。
岡部(5959)
株価 695円
いくらから
買える?
6万9,500円
PER 9.66倍
PBR 0.55倍
配当利回り 3.17%
どんな会社? 鉄骨造の建物の基礎である「ベースパック」や建設工事に使う仮設材、金具などを主力に手掛ける、建築用金属材メーカー。また、米国を中心に自動車バッテリー用端子などの自動車関連製品も扱う。2021年10月に米国企業から建材製品の製造事業を譲り受けており、2022年12月期から連結業績に寄与する。2022年12月期の経常利益は前期比12.1%増の53億円となる見通し。買収効果がフルに寄与して利益も押し上げる。鋼材を中心とした原材料費上昇の影響が警戒される中、当面は米国における建設資材事業の拡大が焦点となる。
有沢製作所(5208)
株価 995円
いくらから
買える?
9万9,500円
PER 9.74倍
PBR 0.72倍
配当利回り 5.33%
どんな会社? 電子材料を手掛け、主力製品は自動車やスマートフォンなどに使われるFPC(フレキシブルプリント回路基板)材料。また、海水を淡水に変える水処理用耐圧パイプは世界でトップシェアを誇る。2022年3月期の経常利益は前期比3.4%増益の37億円となる見通し。3D(3次元)ディスプレイ用光学フィルターなどが好調で、ディスプレイ材料が利益増をけん引する。台湾子会社がこのほど増産のための投資計画を発表し、今後の成長が期待材料となる。また、自動車用水素燃料タンクなども開発しており、水素関連企業としてのテーマ性もある。
JVCケンウッド(6632)
株価 178円
いくらから
買える?
1万7,800円
PER 9.73倍
PBR 0.45倍
配当利回り 3.37%
どんな会社? 2008年10月に、日本ビクターとケンウッドが経営統合して現体制になった。カーナビゲーションやドライブレコーダーなどの車載用機器が主力で、業務用無線システムや多くの人気アーティストを抱えるエンタテインメント事業も手掛ける。2022年3月期の税引前利益は前期比41.2%増の64億円となる見通し。半導体不足の影響を強く受けるが、子会社売却益などが利益をかさ上げする。ドライブレコーダーでは業界トップクラスの実績を誇る。あおり運転被害が多発する中、今後一段の需要増加を期待できる。
富士製薬工業(4554)
株価 982円
いくらから
買える?
9万8,200円
PER 9.31倍
PBR 0.73倍
配当利回り 3.26%
どんな会社? 後発薬メーカーで、注射剤などが主力。X線造影剤ではトップクラスの業界シェアを誇る。海外事業はタイで医薬品の製造受託を行う。ホルモン剤など女性医療領域の拡大、新薬開発などに注力している。2022年9月期の経常利益は前期比8.9%増の35億円となる見通し。ホルモン剤の販売拡大やタイ事業の業績回復が全体利益を押し上げると見込んでいる。昨年、自社開発した更年期障害薬「エフメノカプセル」を発売したほか、エムスリーと共同開発している月経困難症薬の治験を開始した。
スミダコーポレーション(6817)
株価 885円
いくらから
買える?
8万8,500円
PER 7.76倍
PBR 0.63倍
配当利回り 3.28%
どんな会社? 車載用コイル製品(電気・磁気をお互いに作用させ、その特性を利用する部品)の製造を主力に手掛ける。自動車が急ブレーキ時にスリップするのを防ぐ装置「ABS(アンチ・ロック・ブレーキシステム)」に使われるコイルでは、世界シェア30%超。ボタン操作でドアを解錠する装置に使われるコイルでも、世界シェアトップ。2022年12月期の税引前利益は前期比12.9%増の44億円となる見通し。電気自動車関連の需要拡大が継続するほか、高速通信規格「5G」、IoT(モノのインターネット)関連向けも堅調に推移する見通し。海外売上比率が高く、対ドルで1円の円安は1億6,000万円の利益増加要因となる。
クリナップ(7955)
株価 540円
いくらから
買える?
5万4,000円
PER 8.66倍
PBR 0.38倍
配当利回り 3.70%
どんな会社? 住宅設備メーカー。システムキッチンが主力で、業界シェアは20%前後を占める。システムバスや洗面化粧台なども手掛ける。富裕層向け高級キッチンやキッチンの要素を極力シンプルにした新生活提案キッチン、アジアを中心とした海外事業の拡大などに注力している。2022年3月期の経常利益は前期比32.6%増の36億円となる見通し。新設住宅着工戸数の堅調な推移がストレートに好業績につながっている。LIXIL、TOTOなど他の住宅設備機器メーカーとの比較では、株価の割安感が顕著な状態にある。