※本記事は2020年9月10日に公開したものです。

億り人に聞く1億円達成の道!

 投資の世界では、運用で1億円以上を達成した人たちを、いつしか尊敬の念を込めて「億り人(おくりびと)」と呼ぶようになった。その中でも、投資スタート時は普通の会社員、つまり働いて得た給与を主な元手に運用し、「億り人」となった人たちは何をやってきたのか。

 そこでトウシルでは、主に投資信託と不動産投資を中心に資産を築き、現在も会社員として一般企業に勤務する井上はじめ氏に、1億円達成までの軌跡、投資手法をインタビュー。ゼロから投資で1億円を目指す方法を探る。

手取り22万円でも1億円を貯められる可能性を発見!

『33歳で手取り22万円の僕が1億円を貯められた理由』の著者・井上はじめ氏が、投資を始めたのは社会人になったばかりの夏のことだった。その当初から「1億円」を目標にしていたという。

 なぜいきなり1億円を目標に? と伺うと、「理由は大きくは二つあります。一つは大学時代に平凡な人生を送るであろうと思った自分でも、1億円を貯められる可能性を発見してしまったからなんです!」と井上氏はニコニコしながら話す。

 その1億円を貯められる可能性とはこうだ。毎月10万円を30年間積み立てると総額は3,600万円。その積み立て先に低金利の銀行預金を選んだ場合、利息を含めてもほぼ同額にとどまるが、世界経済の成長、具体的には、過去の実績上、年利回り6%程度が期待できる世界株式に分散投資する投資信託に積み立てで想定通りの成果が出れば、「総額は1億円を超えると思えたんです」と話す。

 はっきり言って新入社員時代の給料から毎月10万円を積み立てるのは相当な覚悟と意志がいるはずだが、「どうせやるなら本気で億万長者になりたかったし、統計上での世界の人口は2050年まで増えるというデータから『世界経済の成長』を確信していました。だからこそ全力で投資することができたんです」と井上氏。

 そして、もう一つの原動力は「1億円の資産を持つことができれば、そこから先は年利回り4%で運用できれば毎年400万円の収入が得られ、その400万円の範囲内で生活する分には、1億円がずっと減らないということに気が付いたこと」だった。「100歳、あるいは150歳まで生きるとしても、年間400万円の生活水準を保てば、お金が尽きることはないはず」と確信したのだという。投資初心者がなんとなく雰囲気で掲げる資産1億円とは、決意と試算の次元が違う目標だったのだ。

たった10年で資産総額1億円

 そして、2007年8月から本格的な投資をスタートさせた井上氏が総資産額1億円を達成したのは2017年。なんと当初描いていた30年という目標よりも相当に短い期間、たった10年でその可能性を実現させ、億り人となったのだ(ご本人は純資産1億円を超えるまでは「億り人」ではないと否定)。2017年に総資産1億円を達成後も資産は増え続けて、現在は総資産1億5,810万円(2020年8月現在)まで増えている。

井上氏の総(純)資産額推移
2007年 150万円(150万円)
2008年 250万円(250万円)
2009年 380万円(380万円)
2010年 500万円(500万円)
2011年 650万円(650万円)
2012年 800万円(800万円)
2013年 2,600万円(2,600万円)
2014年 2,900万円(2,900万円)
2015年 5,500万円(3,800万円)
2016年 8,800万円(5,700万円)
2017年 1億290万円(6,100万円)
総資産1億円達成
2018年 1億2,300万円(6,600万円)
2019年 1億4,500万円(8,600万円)
2020年 1億5,810万円(9,010万円)2020年8月現在

誰でもできる?資産1億円

 井上氏のように手取り22万円でも、これから可能性を実現し資産1億円の実現を目指す人は、まず何をすべきなのか。

1:はじめの一歩はお金と向き合うこと

「1億円を目指すためというわけではないのですが、資産を増やすためには、まず真剣に自分のお金と向き合うことが必要だと思います」(井上氏)

 どんなに素晴らしいアドバイスを受けたとしても、自分で動かなければ何も始まらない。「自分で動くためには、自分がお金と真剣に向き合い、そこで感じたことを原動力にするしかありません。この数年間、収入はどうなっているか、資産はどうなっているか、収入や資産を増やすために何をしてきて、何をしてこなかったか――これらを本当に真剣に考えて、何をすべきかを自分で見出していくしかないと思います」。

 これができれば、「本業が忙しいサラリーマンでも、投資に抵抗がある専業主婦でも、世界を投資対象にして、時間を味方につけて長期投資をすれば、本当に誰でも1億円を目指せるんじゃないかと思います」と井上氏は力を込める。

2:全力の節約生活で、全力の投資

 とはいえ、1億円に到達するまでの10年の間、井上氏はどのようにモチベーションを保ったのか。言い換えれば、どんな努力をして、どんなふうに苦労を乗り越えたのか。その答えは意外だった。

「僕は投資をしているという感覚よりも、日常生活においては全力で節約生活し、余ったお金を全力で世界経済に預けるということしかしていません。そこに努力や苦労は大してありませんでした」

3:1億円実現に向けて、その過程も楽しむ

 ただ、当初の井上氏の場合でいえば、給料から10万円の積立投資資金を差し引いた残りの約10万円(しかも家賃含む!)で生活することが「楽しい人生」と言えるのかという疑問を持つ人もいるだろう。

「その点に関しては、『人生のやりたいことリスト』というのを作って、少しずつ達成できているので、それがモチベーションになっている部分もあります。1億円という金額を目標にすると同時に、その過程を楽しむという感覚です」(井上氏)

「人生のやりたいことリスト」には、人生をかけてかなえる、すごいことがリストされているのだろうか。ところが「大きい目標だと、なかなか達成できなくて逆にモチベーション低下につながってしまうかもしれません。僕の場合は小さい目標もたくさん設定しています」と井上氏。

 例えば、「1日中漫画喫茶で過ごして、○○さんが人生で一番感動した○○を読む」「自宅にスマートキーを設置してちょっと便利な日常にする」「酸素カプセルに入ってみる」「食べログ4.0以上のお店に半年に1回行く」など。手を伸ばせば届くような小さな幸せを目標にすることで、プチ成功体験を得られるという。

投資中の「不況でワクワク」とは?

「人生のやりたいことリスト」でモチベーションを維持しつつ、1億円達成までの10年間は、資産を大きく減らした時期もあり、決して順風満帆だったわけではない。ただ、それを乗り越えられる読みがあった。

 井上氏が投資を始めてすぐの2007年は、リーマン・ショックが起こる1年前で、サブプライムローン問題が騒がれていたときだった。

「ニュースでは毎日のように『デフレスパイラル』とか『金融危機』とか『未曾有の出来事』と言われていて、僕の資産額もしっかり減っていました。でも積立運用をしている僕としては、この時期は同じ積立額でもたくさんの口数が購入できる『バーゲンセール中』みたいな感覚だったので、不景気の後にいつか必ずくるはずの好景気を楽しみに待っていました。僕にとって『不景気』や『○○ショック』というのは、資産構築の上では、ワクワクワードなんです」

 その読み通り、「いつか必ずくるはずの好景気」はやってきた。2012年までに700万円積み立てていた投資信託の評価額は550万円に下落したが、「同じ積立額でもたくさんの口数が購入できるバーゲンセール中みたいな感覚」でパニック売りに走ることなく、2013年には評価額は2,200万円まで上がった。「そのおかげで、この方法が2050年までは使えるという確信に変わりました」。

誰でもできる?不動産投資と投資信託

 そして、井上氏の主な投資方法の一つ、不動産投資を始めたのは2015年だ。

「僕は不動産投資に興味があったわけではなく、毎月の支出の大半を占める住居費を払いたくないという強い節約志向から、2015年に不動産の勉強をスタートしました。相場よりも安い物件を購入してそこに住み、売却する時は購入した時よりも高く売却することができたら住居費はタダどころかプラスの利益になるということを思いつき、それを検証するために2015年に1,380万円でマイホームを購入しました。自分で図面を描いたり、施主支給(自分で部材を手配)を駆使したりして割安なリフォームをして、2年間居住した後の2017年に2,490万円で売却して大きな利益を手にしました。これは売却益として600万円以上を手にしただけでなく、その2年間の住居費も実費0円という意味で、大きなインパクトでした。この方法の再現性をどんどん高めるために、それからも何回か繰り返しています」

 この不動産投資法は「不動産投資の王道の方法でもないし、本気でやるためには勉強や経験を積む必要があるので、興味がある人はしっかりと勉強した上でチャレンジしてみてほしい」と井上氏。だが井上氏の投資信託を買う方法なら誰でもできそうだ。

投資信託は何を買うべき?

「投資先をどうしても教えてほしい」と井上氏がせがまれたときにオススメするのは「世界経済全体に投資する『バランス型』と言われる投資信託の購入」だ。とはいえ、世界経済に投資するバランス型投信は多数販売されているので、通常なら「信託報酬が少しでも安い商品」といった視点で選ぶといい……といったアドバイスが多いが、井上氏は違う。

「投資信託をいろいろと比較検証したことはあります。世界経済に分散する商品、信託報酬が少しでも安い商品、先進国、新興国、発展国の株や債券に連動する商品をバラバラに購入して自分でバランス型を作るなど。でも数年間運用してみて運用結果に大きな違いはなかったし、自分でバランス型を作るのはリバランスも含め少し面倒でした。信託報酬の差といっても0.1%の違いだと、1,000万円運用していても年間1万円の差にしかならないと気がついたとき、改めてバランス型でいいし、単純な信託報酬の比較ではなく、自分が納得した商品にしようと思い、三井住友トラスト・アセットマネジメントの『世界経済インデックスファンド』を選びました」

現在の投資状況、ポートフォリオは?

 投資信託を中心とした運用と話す井上氏だが、現在の資産ポートフォリオを見ると、外貨、金、仮想通貨などの資産がかなりあるようだ(現金比率が高いのは最近不動産を1件売却したことによるもの)。

井上はじめ氏の資産ポートフォリオ(2020年8月現在)

注:不動産はすべて売却した場合の経費などを差し引いた純資産額として記載

 いろいろな資産に分散投資していながら、管理は毎月1回、資産状況をチェックするだけという井上氏。実は独自の管理・売却ルールに従って、投資の時間も節約している。

「僕は投資信託の積立運用にも独自の売却ルールと売却後の積み立てルールを設けています。その売却後の積み立てルールに基づき、売却して得たお金は10年分に分けて毎月の積み立て額に上乗せしています。つまりいったん売却したら5年以上、投資信託の積み立てには使わないお金もあるので、そのお金を利用して外貨、金、仮想通貨なども積み立てるようになりました。株主優待を得るために個別銘柄も購入していますが、明確に資産を増やす目的で行っているのは投資信託と不動産投資のみです」

 外貨、金、仮想通貨の積み立てを行っている理由は二つあると言う井上氏。一つは投資信託や不動産で売却した利益を銀行に預けていても増えず、現金での長期保有は「もったいないから」と言う。さらにもう一つの理由は、外貨や金や仮想通貨にも自分の資産を預けることで、「世の中の変化に興味を持つことができるから」だと言う。

 いろいろな資産に分散投資しているからこそ、毎月1回だけ資産状況をチェックするときに、世界や金融商品において何が起きたかを興味を持って調べることができるし、それらにも積み立てているおかげで、世界経済の成長が鈍い時も他の何かが高値になっていることもある。投資が自身の視野を広げ、知識を増やし、リスクを分散する役割まで果たしているのだと言う井上氏。

 ただ井上氏は、投信積立が資産形成の手段として絶対に優れていると言いたいわけではない。

「投資に詳しい人であれば、株やFX(外国為替証拠金取引)、仮想通貨の方が大きく資産を増やすチャンスがあると思っています。でも僕みたいに、投資に詳しいわけではないけど将来のためにお金を増やしておきたいという人にとっては、投資信託は素晴らしい性質を持っていると思います」

 投資信託の素晴らしい性質とは次のように「運用の自動化」が図れること。

給料が銀行に振り込まれる
銀行から証券会社に送金する
毎月自動で商品(投資信託)を積立購入する
プロが運用してくれる

「一度設定するだけで、これらが全て自動でできるというのは最高に優れている点だと思います。念のためにお伝えしておくと、僕は全ての投資信託が優れていると考えているわけではありません。世界経済に分散して投資する投資信託が、誰にでもできる資産形成の手段として優れていると思っています」

 普通の人が普通に働いて1億円を手にすることはまずない。だからこそ、投資の目標を高く持って、1億円を目指すべきなのだろうか。

「いいえ。まったく思いません。僕の場合は、出世も難しい、節約しか取りえのない平凡な能力の自分が1億円を貯められるかもしれない! という人生最大の発見をしてしまったので、試さずにはいられなかっただけなんです。人によっては5,000万円でもいいし、2,000万円でもいいと思います。ただ、お金はなくて困ることはありますが、いくらあっても困るものではありません。そういう意味では1億円を目指してもいいのだと思います。資産が増えていくにつれて、1億円というハードルはどんどん低くなっていきますよ」

 井上氏自身も元々は、1億円を達成できるのは30年先だと思っていた。

「ところが、2013年に投資した800万円が2,000万円以上になってからは、お金が増えていくスピードが早くなりました。2016年に純資産が5,000万円を超えたときは、1億円に対するハードルは信じられないくらい低くなっていました。『これから世界経済に何があっても、大震災が起きても、自分の物件が火事で燃えてしまっても、あと10年以内には1億円は達成できそうだな』って。『増やす』という経験を積み重ねることが、『資産1億円』への道だと思います」

資産1億円を達成できる人の条件

 ところで、資産1億円を達成できる人の条件はあるのだろうか。「偉そうに言える立場ではないですが…」と、井上氏が挙げたのは次の条件だ。

・行動できる人
・将来を見据えることができる人
・自分の得意分野がしっかりと理解できている人
・目先の利益で一喜一憂しない人
・周囲と同じ行動をしない人
・後ろ指刺されても気にしない人
・日常生活において無駄遣いしていない人
・やらない言い訳を考えない人(投資をやらない言い訳を考えるのは簡単なので)

「お金を増やすという行為は、本当に誰にでもできるものだと思っています。僕には世界経済に預けるという方法で、お金が減ってしまう未来を想像することもできません。もちろん、コロナ・ショックのようなことが起こって一時的な落ち込みはあるかもしれませんが、長い目で見たとき、不景気から回復しない経済はあり得ません。よかったら一歩踏み出してみてください」

 井上氏の「世界経済は成長する」という考え方に同意できるのなら、『世界経済インデックスファンド』や他の同等の投資信託をまずは調べてみることが未経験者にとって、投資のはじめの一歩になるかもしれない。ただし、井上氏が言うように、投資商品選びで大切なことは、他人に「勧められたから」ではなく、自分で「納得した投資信託」を選ぶことだ。

「世界経済を対象にした投資信託に自分ができる精いっぱいの金額で積み立てることができたら、10年以内にきっと売却タイミングが来ると思います」

 うまく売却できたら、「また同じ投資先を選んでもいいし、2歩目、3歩目として個別株や外国株、外貨、仮想通貨、不動産など自分に合った得意分野を探してみるのもいいのではないかと思います」と言う井上氏。

 井上氏にならうなら、難しいテクニックも、投資に対する深い知識も不要だ。1億円を目指すという強い意志を持ち、毎月の出費を抑えてできる限りたくさんの積立投資資金を作り、これと決めた投資信託に積み立てていくだけでいい。そうすればそう遠くないあなたの未来にも資産1億円は現実のものとなるかもしれない。

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▼井上はじめ氏プロフィール
 1985年、宮崎県生まれ。社会人になってから、生死をさまよう大事故にあったことをきっかけに、お金を増やす方法を発見。「投資家ではなく節約家」をモットーに、コツコツと無理せず積立投資を続け、ついに1億円の資産形成を達成。現在はファイナンシャルアカデミーに勤務する。
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