宅配便は成長産業

 近年、ヤマトHD(9064)など、陸運業(トラック輸送業)の利益回復が目立ちます。理由は、2つあります。

【需要の拡大】Eコマースの普及で、宅配便など陸上輸送の需要拡大が継続
【料金引き上げ】人件費上昇に対応した、輸送料金の引き上げが浸透

 2017年度の宅配便取り扱い総数(トラック輸送・航空輸送を含む)は、前年度比5.8%増の42億5,133万個でした。Eコマース増加により、宅配便は、取り扱い個数で見ると、成長産業です。2018年度も、個数の拡大は続いています。
 

宅配便取り扱い個数の推移:1992~2017年度

出所:国土交通省

 宅配便は、大手の寡占化が進んでいます。以下の通り、シェアで見ると、上位3社で94.4%を占めます。
 

宅配便(トラック輸送)取り扱いシェア:2017年度
 

 
宅配便名 取扱
事業者
シェア
:%
上場
している会社
宅急便 ヤマト運輸 43.6 親会社ヤマトHLDG(9064)が上場
飛脚宅配便 佐川急便 30.0 親会社SGホールディングス(9143)が上場
ゆうパック 日本郵便 20.8 親会社日本郵政(6178)が上場
カンガルー便 西濃運輸 他 3.1 親会社セイノーHLDG(9076)が上場
フクツー宅配便 福山通運 他 2.4 福山通運(9075)が上場
合計 99.9

「利益なき繁忙」から「利益ある繁忙」へ転換

 2017年3月期まで、ヤマトHDなど宅配便業者は、低収益に苦しんでいました。仕事がどんどん増える中、「利益なき繁忙」が続いていました。売り上げ拡大を重視して収益度外視で仕事を取る体質がしみついていたからです。
 

ヤマトHD(9064)の業績推移

出所:同社決算資料

 人手不足と人件費上昇が深刻化する中で、最大手のヤマトHDは、違法残業の撲滅、未払い残業代の支払いなど、働き方改革に取り組みました。それがコスト増につながり、前々期(2017年3月期)の業績は大きく悪化しました。ただし、働き方改革と同時に進めた「料金引き上げ」が浸透し、業績は回復に向かっています。

 ドライバーの違法残業がなくなると、これまで無理に受注してきた業務がこなせなくなりました。そこで、適正料金を確保するための料金引き上げを徹底させました。料金引き上げに応じなければ仕事を受けない姿勢を強く打ち出しました。最大手のヤマト運輸、二番手の佐川急便も含め、業界全体に料金引き上げが浸透しました。

 その成果で、ヤマトHDの業績は、今期(2019年3月期)、急回復する見込みです。陸運業界は、ようやく「利益ある繁忙」に転換しつつあると言えます。

 宅配便2位の佐川急便も、ヤマト運輸と基本的に同じ環境におかれていますが、ヤマトよりも高い収益性を維持できています。ヤマトに比べて、拠点も人員も少なく、効率的に配送することで、収益性を維持しています。個別の配達を外注することで、固定費を軽くしている効果もあります。

SGホールディングス(9143)(佐川急便の持ち株会社)業績推移

出所:同社決算資料

 このように、トラック輸送業界は、「利益なき繁忙」から「利益を伴う繁忙」に転換しつつあります。それは実は、建設・土木業界が、4~5年前に経験したことです。
 

(参考)建設・土木産業と、トラック輸送業の共通点

 建設・土木業とトラック輸送業には、3つの共通点があります。

【需要拡大】 建設・土木、物流とも需要が拡大基調。
【人手不足が深刻】 建設・土木技術者、トラック運転者とも不足が深刻。
【料金引き上げ】 建築・土木単価引き上げは4~5年前に実現。輸送料金の引き上げは2~3年前から進行中。

 建築・土木業は「利益なき繁忙」を脱し、3~4年前に「利益を伴う繁忙」に移行。建築・土木粗利の上昇によって、大手ゼネコンは一時、軒並み最高益を更新しました。ただ、建設・土木業は今、リニア入札不正や不正工事で揺れていることに加え、2020年以降に仕事量が減る可能性もあり、投資魅力は徐々に低下しつつあります。

 それに対し、これから収益性の改善が進むと思われるトラック輸送業は、投資魅力が高いと考えています。すでに、最高益を更新しつつある企業も増えています。

国際物流の拡大で成長する日本通運

 国内で、Eコマースの拡大による宅配便の成長余地は大きいと考えられます。人手不足を料金引き上げによってカバーし、成長が続くと予想されます。

 成長のもう1つの柱は、アジアです。日本の陸運業は、近年、アジアで物流事業を拡大中です。貿易取引が増えていることに加え、越境EC(国を超えてのEコマース)が拡大していることも追い風です。

 日本通運(9062)は、1950年代から陸海空の国際物流強化に取り組み、世界40カ国以上に約1,700の拠点を持ちます。近年、アジアでの事業拡大が続き、連結収益の約4割が海外事業となっています。国際物流は国内に比べて収益性が低く、収益性の改善が課題です。それでも海外事業の貢献などがあり、今期5期連続で経常最高益を更新する見通しです。純利益は、前期、子会社の減損で大きく減少しましたが、今期は再び最高益となる見込みです。

 国内では、宅配便から撤退し、産業貨物を中心に取り扱っています。国内で料金引き上げが少しずつ通り始めていることも追い風となっています。業績好調な割りには、株価の評価は低く、日本通運の投資価値は高いと判断しています。
 

日本通運の業績推移

出所:同社決算資料

 意外な最高益更新企業

 トラック輸送業は、過当競争で、長年にわたり収益が低迷しているイメージを持たれています。そのため、株価も割安なバリュエーションに据え置かれている企業が多くなっています。ところが、現実には、物流の増加と料金引き上げで最高益を更新する企業が増えているのです。

 ハマキョウレックス(9037)(会社予想ベースPER13.5倍:2月19日時点)、丸全昭和運輸(9068)(同11.2倍)、センコーグループHD(9069)(同12.1倍)、日立物流(9086)(同16.9倍)は、いずれも今期(2019年3月期)、連続で最高益を更新する予定です。

 

 

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