急落した半導体関連株。半導体ブームの終焉を先取りしていた

 半導体関連株は、2017年に急騰した後、2018年は一転して急落しました。

日経平均と半導体関連5社(合成株価)の動きを比較:2017年1月4日~2019年2月13日

注:半導体5社は、信越化学・SUMCO・ルネサスエレクトロニクス・アドバンテスト・東京エレクトロンの合成株価。2017年1月4日を100として指数化。楽天証券経済研究所が作成

 半導体業界が、世界的なブームに沸いていたのは2018年前半まで。年後半は、ブームの中心にあったフラッシュメモリ(データセンターやスマホの記憶媒体に使われる半導体)の需給が緩み、市況下落が続きました。さらに、米中ハイテク戦争の影響を受けて、中国での需要鈍化が鮮明になりました。半導体ブームの終焉を先取りするように、半導体関連株は、2017年末から1年以上にわたり、大きく下がっています。

 

今年に入り、半導体関連株が急反発、2020年の回復先取りか?

 半導体関連株は2019年に入り、急反発しています。「下げ過ぎの反動」「テクニカル・リバウンド」の可能性もありますが、私は、異なる見方をしています。次の半導体ブームを織り込む、最初の動きと見ています。

 半導体ブームはピークアウトしたものの、今回は深刻な半導体不況にはならないと考えています。短期の軽い不況を経て、2020年には再び半導体ブームが盛り上がると予想しています。その織り込みが始まっていると考えています。

 その根拠について話す前に、簡単に過去の半導体サイクルを振り返ります。

過去20年の半導体サイクル振り返り

 過去20年のシリコン・サイクル(半導体産業の好不況サイクル)を簡単に振り返ります。まず、過去20年の世界半導体出荷額と、SOX指数(米国の半導体株価指数)の動きを見てください。そこに、過去20年のシリコン・サイクルが表れています。

世界半導体出荷金額(3カ月移動平均):1998年1月~2018年12月

出所:SIA(米国半導体工業会)より作成


SOX指数(米国半導体株価指数)の推移:1998年1月~2019年2月(12日)

出所:ブルームバーグより作成

 ITバブルと言われた1999年にも、半導体の大ブームがありました。この頃の半導体の主用途は、パソコン(PC)でした。20世紀には、PCの成長とともに半導体産業も成長しました。PC買い替えサイクルが、シリコン・サイクルを形成していました。

 1999年には、インターネットの登場でPCの成長期待が異常に高まり、株式市場でIT関連株や半導体関連株が、異常な高値まで買われました。ところが、後から振り返ると、それはバブルでした。2002年には、IT需要が大きく落ち込み、ITバブル崩壊不況が起こりました。

 その後、半導体産業は、長期停滞局面に入りました。PCの成長がなくなったことが影響しました。2008年にリーマンショックが起こると、さらに落ち込みました。

 ただ、後から振り返ると、そこから、半導体業界の大復活が始まっています。

2016~17年に空前の大ブーム、18年にブームは終了

 2017年にかけて、半導体業界は、空前のブームに沸きました。半導体ブームを牽引していたのは、データセンターや高機能スマホで使われる、半導体フラッシュメモリでした。

 クラウド・コンピューティングが普及し、個人でも大容量の動画を簡単に保管できるようになったことから、データセンターでのメモリ需要が急拡大しています。2020年に向けて、世界的に、5G(第5世代移動体通信)への移行が進むと、データセンターでのメモリ需要は一段と拡大が予想されます。

 他にも、半導体を使う分野が増えています。自動車の電装化が加速しており、自動車は半導体需要を牽引する重要分野となりつつあります。EV(電気自動車)・自動運転の普及が進むと、需要の伸びがさらに拡大が予想されます。

 AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット化)やロボットの普及も、半導体需要を増加させています。産業用機器でもIoTが広がっています。

 2016~17年には、急拡大する半導体需要に供給が追いつかない状態が続きました。最先端のフラッシュメモリ(64層の3次元NANDフラッシュ)の生産が難しく、歩留まりがなかなか上がらなかったためです。
 

【注】歩留り(ぶどまり)

 工場で生産される半導体から、「不良品」を取り除いた出荷可能な「良品」の比率を、「歩留まり」という。最先端の半導体は、生産が難しく、当初、歩留りが低い。技術がこなれて生産が軌道に乗ると、歩留りが上昇する。

 需要が増大する中、供給が増えないため、2016~17年は、フラッシュメモリの市況が上昇を続けました。生産が増えるにしたがって価格が下がるのが当たり前の半導体で、価格が上昇するのは異例のことです。これが、過去に例のない半導体ブームを生じました。半導体メモリを生産するメーカー(韓国サムソン電子、東芝半導体など)が巨額の利益を上げる中で、他社より少しでも早くフラッシュメモリの生産を増やそうと、世界の半導体メーカーが、競って設備投資を増やしました。

 空前のブームが続くうちに、半導体スーパーサイクルが始まったという声が出ていました。半導体産業から好不況の波が無くなり、長期成長するとの見方です。

 ところが、その見方は外れ、足元、半導体メモリの需給が緩み、半導体ブームはいったん終了したと見られています。それには、3つの理由があります。

  • 最先端のフラッシュメモリの歩留まりが上がってきたことで、需給が緩和
  • 米中貿易戦争(ハイテク戦争)の影響で、中国で半導体需要が減速
  • 仮想通貨の急落を受け、中国で仮想通貨マイニング需要が低下

半導体スーパーサイクル説は、半分正しく、半分誤り

 4~5年周期で好不況を繰り返してきた半導体業界ですが、半導体の用途が、PC・スマホ・データセンターだけでなく、自動車・家電製品・ロボット・IoT機器(「モノのインターネット化」関連機器)に広がる中で、一時は、「半導体スーパーサイクルが始まった」との声もありました。

 それは、半分正しく、半分誤りであると考えています。市況変動が激しい、半導体メモリ(フラッシュメモリやDRAM)は、これからも供給不足と供給過剰を繰り返すと考えられます。つまり、半導体メモリだけについて言えば、スーパーサイクル説は誤りということになります。

 ただし、半導体メモリは、半導体市場全体の一部(約3分の1)に過ぎません。半導体には、メモリの他にも、マイクロ、ロジック、アナログ、ディスクリート、光半導体、センサーなど、さまざまな種類があります。メモリ以外の半導体は、ここから安定的に成長すると考えられます。たとえば、個別オーダーメードとなる自動車用の半導体は、極端なブームにも不況にもなることなく、安定成長が続くと予想しています。メモリ以外に注目すれば、半導体市場全体ではスーパーサイクルが始まっていると言っていいと、考えています。

 

半導体関連株の値動きは今後2極化へ、何に投資したら良いか

 半導体関連株の投資判断が難しいのは、株価が、半導体サイクルを半年~1年先取りして動くからです。ブームの真っ盛りに株価は急落し始め、半導体不況の中で株価は急反発を始めてきました。

 私は、先に述べたとおり、今回の半導体不況は浅く、短期に終わると思っています。2020年に半導体ブームが復活すると仮定すると、今が半導体関連株の買い場と考えています。ただし、半導体関連株ならば何を買ってもいいというわけではありません。特定分野で競争力があり、需要が安定して拡大していくと期待される分野に投資した方が良いと思います。

 私は、今後、半導体関連株の値動きは、徐々に二極化すると見ています。半導体メモリが供給過剰になっているので、メモリの比重が高い半導体製造装置の上値は重いと考えます。

 ただし、メモリ以外の半導体ビジネスは、スーパーサイクルに入った可能性があります。半導体材料(シリコンウエハ)で最先端の技術力を持ち世界第1位の信越化学(4063)、同2位のSUMCO(3436)や、自動車用の半導体で世界第3位のルネサスエレクトロニクス(6723)は、スーパーサイクルの恩恵で安定的に収益を稼いでいけると予想しています。

 一方、メモリへの依存度が高い日本の半導体製造装置株は、要注意です。高水準の受注残を抱えているので、すぐに業績が悪化することはありませんが、ブームが去った後は、業績が急速に悪化する可能性があります。具体的には、東京エレクトロン(8035)SCREEN HD(7735)には積極的には投資したくないと考えています。

 半導体製造装置では、アドバンテスト(6857)が有望と考えています。メモリテスターではなく、SOCテスターの需要拡大が期待されるからです。来期(2020年3月期)は減収減益となる可能性がありますが、その先の増益を考えて、投資していって良いと考えています。

2020年に半導体ブームが復活すると予想する理由

 最後に、2020年にブームが復活すると予想する理由を述べます。3つあります。

 

【1】次世代NANDフラッシュメモリ(3次元96層)の歩留まりが簡単には上がらないと予想

 前回の半導体ブームが予想以上に長期化したのは、当時の最先端フラッシュ(3次元64層)の歩留まりがなかなか上がらなかったためです。それでは、次の最先端フラッシュの量産は、どうなるでしょう。次世代NANDフラッシュの量産は、今年から始まる予定です。実際に始まってみないとわかりませんが、生産はどんどん難しくなっているので、簡単には歩留まりが上がらないと考えています。そうなると、旧世代フラッシュの寿命が長期化し、再び、需給逼迫につながる可能性もあります。

【2】米中貿易・ハイテク戦争が一定の「落としどころ」に

 米中貿易・ハイテク戦争が解決することはあり得ませんが、協議が進む中で、なんらかの落としどころは見つかると予想しています。そうなると、貿易戦争への不安で止まっているハイテク関連の投資も復活すると考えられます。

【3】AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット化)、ロボット、5G(第5世代移動体通信)の普及進む

 世界で、AI、IoT、ロボット、5Gの普及が進む流れは変わらないと考えています。貿易戦争や世界景気減速の影響で、一時的に進行が鈍っているだけで、2020年にかけて、再び普及が加速すると見ています。

 私は26歳だった1987年に、投資顧問会社で、日本株ファンドマネージャー兼アナリストとなりました。その時、アナリストとして最初に担当したのが、半導体産業でした。それから、いろいろな業種を担当しましたが、半導体業界について、常に考え続けてきました。

 半導体産業、厳密に言うと、半導体メモリは波の大きいビジネスです。誰もが強気で半導体メモリの好調が続くと思っているときに突然ピークアウトし、半導体不況が始まります。もう、半導体メモリでは稼げないと思われている、半導体不況の大底から、突然、急回復が始まります。

 将来の予測はとても難しいですが、私は過去の経験も踏まえた上で、今、半導体関連株を買っていくべきタイミングが訪れたと判断しています。

 

 

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