最高益更新企業が多い、小売業は成長産業

 小売業は、成長産業です。時価総額上位銘柄は、軒並み最高益を更新しつつあります。2月決算の時価総額上位13社で見ると、前期(2018年2月期)は、9社が経常最高益を更新しました。今期(2019年2月期)の会社予想で見ると、経常最高益を更新する見込みの企業が同じく9社あります。

2月決算小売業、時価総額上位13社の経常利益:前期実績と今期予想

出所:各社決算短信より楽天証券経済研究所が作成。IFRS採用のユニー・ファミマとJフロントは、連結税前利益を経常利益として集計

中間決算は、天災や天候不順の影響があった割りには堅調

 6~8月は、大阪北部地震・西日本豪雨のほか、数々の大型台風に見舞われるなど、天候要因が消費にマイナス影響を及ぼしました。その割りには、時価総額上位13社の8月中間決算は、全般的に良好であったと言えます。

2月決算小売業、時価総額上位13社の8月中間決算実績、通期予想に対する進捗率

出所:各社決算短信より楽天証券経済研究所が作成。進捗率は、通期経常利益(会社予想)に対する、中間決算時点での進捗率を示す

 上の表で、注目していただきたいのは「進捗率」です。中間決算まで半年間の経常利益(実績)が、通期(2019年2月期)の経常利益(会社予想)の何%か示しています。季節要因があるので一概には言えませんが、一般的には、50%くらいが普通と考えます。

 進捗率が50%を大きく超過しているところは、赤で表示しています。一般的に、中間決算時点での進捗率が高いと、通期業績(会社予想)が上方修正される可能性が高いと考えます。

 50%を大きく下回っている進捗率は、水色で示しています。進捗率36%のしまむらは、通期業績(会社予想)が下方修正される可能性が高いと考えています。同社はカジュアル衣料品を全国で有店舗販売して成長してきました。しかし、最近はネット販売に押されて売上げが伸び悩んでいます。衣料品はネットで販売しやすい商材で、近年、ネット販売が急増していますが、ネット販売への対応が遅れたため、しまむらの業績低迷は当面続きそうです。

なぜ、小売業は成長産業なのか?

 小売業は、かつては内需産業でした。今は、アジアを中心とした海外で収益を拡大する企業が増えています。最高益を更新しつつある小売大手には、以下のような特色を持った企業が多いことがわかります。

【1】製造小売業として成長

 利益率の低いナショナルブランド品の販売を減らし、自社で開発したプライベート・ブランド品を増やすことで競争力を高め、売上げ・利益を拡大させてきました。自社ブランド品について、商品開発から生産・在庫管理までやることが多く「製造小売業」とも言われます。最高益を更新中の専門店(ニトリHDセブン&アイHD)はこの取り組みが進んでいます。百貨店・家電量販店はこの取り組みが遅れています。

【2】海外で成長

 内需株であった小売業が、近年はアジアや欧米で売上を拡大し始めています。日本で強いビジネスモデルが、そのまま海外で通用するケースもあります。セブン&アイHD良品計画などは海外での売上拡大が軌道に乗ってきました。

【3】ネット販売で成長

 ネット販売が本格性長期を迎えています。3月決算の小売業で、MonotaRO(3064)ZOZO(3092)などがネット小売成長企業の代表です。大手スーパーや百貨店でも最近ネット販売を強化する努力を始めていますが、今のところコストに見合う利益を確保できていません。

 8月決算でカジュアル衣料品「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング(9983)は、これまで国内および海外の有店舗販売を中心に成長してきましたが、ネット販売を次の成長の柱にする方針を表明しています。

【4】インバウンド(訪日外国人観光客の買い物)需要を取り込んで成長

 訪日外国人観光客の数が年々、伸びています。大丸・松坂屋が経営統合したJフロント・リテイリング(3086)は、その恩恵もあり、今期、経常最高益を更新することが見込まれます。

来年10月に予定されている消費増税(8%→10%)の影響に注意

 成長企業の多い小売セクターですが、来年、悪材料が控えています。2019年10月に消費税引き上げ(8%→10%)が予定されていることです。消費税引き上げ前に、駆け込み需要で消費が増加し、引き上げ後に反動で落ち込む可能性があります。

 過去に消費税引き上げ後に、景気が落ち込んだことが多かったので、来年の消費増税にも、警戒が強まっています。消費増税後に、政府は景気対策を打つことを検討していますが、効果がどの程度あるか未知数です。

 小売セクターは、増税後に明暗が分かれます。持ち帰りの食品は、軽減税率(消費税を8%据え置き)が適用されますので競争上、優位となります。持ち帰りの食品が多いコンビニエンスストアや、食品スーパーは、相対的に有利です。

 外食は持ち帰りの食品を除き、10%へ増税されますので、コンビニとの競争上、不利になります。ただし、節約志向が高まれば、低価格の外食は、高価格の外食に対して、メリットがあるかもしれません。

 もっとも、マイナス影響が大きいのは、高価格の耐久消費財を扱う小売業です。百貨店には影響が大きいかもしれません。来年になると、消費増税の影響を考えた銘柄選択が必要になると思われます。

 

 

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