10月15日に、一時1ドル111.61円まで円高進む

 10月に入り、米金利上昇を嫌気してNYダウが下がると、日経平均株価も外国人の売りで大きく下がりました。同時に、円高が進んだことが、日経平均がさらに売られる要因となりました。

ドル円為替レート推移:2018年1月1日~10月16日

注:楽天証券経済研究所が作成

 

 なぜ今、円高が進むのでしょうか?これには、2つの理由があります。

【1】世界的な株安を受けて、「リスクオフの円高」が進んだ
【2】米国から円安を批判する発言が出始めた

【2】について、さらに詳しく、説明します。直接、円高(ドル安)につながった発言は、ムニューシン米財務長官の「為替条項」要求発言です。ムニューシン長官は12日、TAG(日米物品貿易協定)の交渉で、日本に対して、円安を誘導する政策を禁じる「為替条項」を要求すると発言しました。この発言から、「円安を招いている日銀の金融政策に批判が及ぶ」との連想が働き、円高につながりました。

 さらにもう1つ、円高(ドル安)進行に影響した発言があります。トランプ米大統領が最近、繰り返している米FRB(連邦準備理事会)への批判です。FRBは9月26日に今年3回目の利上げを実施しました。10月に入り、金利上昇を嫌気して株が下げると、トランプ大統領は、FRBの政策を「ばかげている」と批判しました。株安やトランプ発言を受け、「FRBが今後利上げをしにくくなる」と見る向きから、ドル売りが出ました。

 それでは、ここで、2018年のこれまでのドル円為替レートの動きを振り返りましょう。1~3月は、今と同じように、円高(ドル安)が進んでいました。その理由は今とほとんど同じです。

【1】世界的な株安を受けて、「リスクオフの円高」が進んだ
【2】トランプ大統領が、中国・メキシコ・日本などに対し、貿易戦争を仕掛けてきた

 この時、円安を直接批判する発言はありませんでしたが、日米貿易戦争がこじれれば、いずれ円安批判が出るとマーケットは先読みしました。

 ところが、4~9月は、円安が進みました。FRBが3回利上げを実施して日米金利差が拡大していくのを、素直に反映しました。貿易戦争の不安はやや緩和しました。

 このように、今年のドル円は、「日米金利差拡大(円安要因)」「株安や貿易戦争への不安(円高要因)」を材料に動いています。

ドル円を動かす3大要素、一番重要なのは「日米金利差」

 為替を動かす要因は無数にありますが、今ホットな話題で重要度の高いものに絞れば、3つあります。

  1. 日米金利差
    ドル金利が上昇し、日米金利差が拡大すると、円安(ドル高)になります。
    ドル金利が低下し、日米金利差が縮小すると、円高(ドル安)になります。
  2. 政治圧力
    米国政府筋から、円安を非難する発言が増えると、円高(ドル安)が進みます。米国政府が、円安を容認している間は、円安(ドル高)が進みやすくなります。
  3. 世界的な株高・株安
    世界経済に不安が広がり、世界的な株安が起こると、安全資産として「円」が買われます。これを、「リスクオフの円高」と呼びます。不安が緩和し、世界的な株高が起こると、金利の低い「円」は売られます。「リスクオンの円安」が起こります。

 中でも一番重要なのが、1.日米金利差です。米FRBは今、利上げを続け、「金利の正常化」を目指しています。一方、日銀は、大規模金融緩和を長期的に継続する方針です。日米の中央銀行の言っていることを、言葉通りに受けとめれば、ドル金利はさらに上がり、日米金利差が開き、円安(ドル高)が進むことになります。

 

日米金利差(2年金利)で動く、ドル円為替レート

 最近10年間のドル円の動きは、日米2年金利の差で、ほぼ説明できます。

日米の2年金利(残存2年の国債利回り)と日米金利差(2年金利の差):2008年1月~2018年10月16日

注:楽天証券経済研究所が作成

 

 次に、ドル円の動きと日米金利差を比較します。

ドル円為替レートと、日米2年債利回りの差:2008年1月~2018年10月16日

注:楽天証券経済研究所が作成

 

 過去10年を見ると、おおむね日米2年金利差と、ドル円は連動していることが分かります。ただ、厳密にいうと、以下のように細かい相違があります。

【1】2008~2011年

 日米金利差の縮小にしたがって、円高(ドル安)が進みました。

【2】2012~2014年

 日米金利差が少ししか拡大していないのに、大幅な円安が進みました。2年金利の差では説明できない程、円安の進行が大きかったということです。

【3】2015~2016年

 日米金利差が拡大する中で、円高が進みました。行き過ぎた円安に修正が起こったと見ることができます。

【4】2017~2018年

 ドル円は上下とも大きくは動かないレンジ相場となりました。日米金利差がさらに拡大し、ようやく行き過ぎた円安は修正されました。現在のドル円は、金利差から見て、ほぼ妥当な水準と見なすことができます。

近年、政治が為替を動かす重要な要因となりつつある

 ドル円は、日米金利差だけで動いているわけではありません。アベノミクス開始以来、政治圧力に振り回されています。

 米国が円安を容認している間は、円安が進みやすい一方、米国から円安批判が出ると、円高が進みやすくなります。為替に影響を与えた政治圧力を含めて、2012年以降のドル円の動きを再度、解説します。

(再掲)ドル円為替レートと、日米2年債利回りの差:2008年1月~2018年10月16日

注:楽天証券経済研究所が作成

 

【1】2008~2011年

 日米金利差の縮小にしたがって、円高(ドル安)が進みました。

【2】2012~2014年

 米国が円安を容認していたので、日米金利差では説明できないほど、大幅な円安が進みました。

【3】2015~2016年

 2016年には、米大統領選キャンペーンで共和党候補だったドナルド・トランプ氏(現大統領)と、民主党候補だったヒラリー・クリントン氏が、ともに円安を批判したことをきっかけに、円高が進みました。トランプ大統領が、日本の対米黒字を問題視していることも、潜在的な円高圧力となりました。朝鮮半島有事リスクの高まりも、円高要因となりました。

【4】2017~2018年

 ドル円はレンジ相場となりました。米FRBが利上げを続けたことが円安要因ですが、貿易戦争の不安が高まったことが、円高要因となりました。

 

為替は今後、円高・円安どちらへ進むか

 現時点で、米FRBが12月に再度利上げするのは、ほぼ確実と考えられています。来年以降も、利上げを続ける方針です。米利上げが続き、日米金利差がさらに拡大するならば、円安が進むと考えられます。

 ただし、世界的な株安が長引き、トランプ大統領がFRB批判を先鋭化することによって、12月の米利上げが無いとの見方が広がると、円高圧力が強まります。

 結論のない話で恐縮ですが、円安材料と円高材料が両方ある状況ですから、今すぐ、円高または円安どちらかのトレンドが出る可能性は低いと考えています。

 

 

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