トヨタ・ホンダ「買い」継続

 トヨタ自動車・ホンダの業績・株価が好調です。私は2020年以降、両社株の「買い」推奨を継続してきました。2社とも株価が大きく上昇し、割安度はやや低下しましたが、自動車メーカーとしての総合力と比較して株価はなお割安と判断します。両社の「買い」判断を継続します。

<トヨタ・ホンダの株価・PER・PBR:2024年3月6日>

コード 銘柄名 株価(円) PER
(倍)
PBR
(倍)
7203 トヨタ自動車 3,769.0 11.2 1.6
7267 ホンダ 1,821.0 9.1 0.7
出所:PER(株価収益率)は3月6日株価を2024年3月期1株当たり利益(会社予想)で割って算出、QUICKより楽天証券経済研究所が作成

グローバル投資家がテスラからトヨタへシフトか

 グローバル投資家の一部に、米テスラを売って日本の自動車株を買う動きが出ていると考えられます。次世代自動車として期待されていたEV(電気自動車)の販売が減速する一方、トヨタが圧倒的な強みを持つハイブリッド車が米国で見直されているからです。

<トヨタ自動車とテスラの株価の月次推移比較:2020年5月末~2024年3月(6日)>

出所:QUICKより作成、2020年5月末の株価を100として指数化

 インフレ、金利上昇、ガソリン上昇を受けて、米国で、EVの販売が減速し、経済性に優れるハイブリッド車が見直されています。消費者の人気の変化が、そのままトヨタ株とテスラ株の投資家の売買につながっている面もあると考えられます。

 ただし、トヨタ株がグローバル投資家に見直されるようになったのは、2023年後半以降、ごく最近のことです。2021年まで、ESG投資が拡大する中、世界の株式市場ではEVメーカーばかりが評価され、ガソリン車メーカーは好業績でも顧みられることがありませんでした。

 ガソリン車やディーゼル車の販売を2035年までで終了する方針を表明する国や地域が増える中、2021年には次世代自動車の本命とみなされてきたEVメーカーに期待が集まりました。特に、テスラに過大な期待が集中したことが、同社株の異常な上昇に表れていました。

 ところが、2022年以降、EVへの過大評価は徐々に修正されます。2022年はESG投資受難の年となりました。2月にロシアによるウクライナ侵攻が起こると、ESG投資で除外されてきた化石燃料関連株が軒並み急騰しました。一方、テスラなどEV関連株は急落しました。2021年に好調だったESG投資のパフォーマンスは、2022年に大幅に悪化しました。

今期4兆5,000億円の最高益を見込むトヨタ

 トヨタ株の史上最高値更新が続いています。3月6日も一時3,772円をつけ、最高値を更新しました。

 トヨタ株の上昇に弾みがついたのは、2月6日に今期(2024年3月期)の連結純利益見通しを前期比83.6%増の4兆5,000億円に引き上げてからです。2022年3月期の最高益(2兆8,501億円)を1兆6,000億円以上、上回る見通しです。

<トヨタの連結純利益推移:2021年3月期~2024年3月期(会社予想)>

出所:トヨタ決算資料より楽天証券経済研究所が作成

 ただ、今期の業績は、さまざまな追い風を同時に受けてできた「追い風参考値」ともいえます。特に、円安の強い追い風を受けています。

 半導体不足が解消して生産が増加した恩恵もあります。これまで在庫不足で、売りたくても売れない状況が続いていましたが、今期は生産増加による「生産益」と、売り逃していた販売取り戻しの恩恵が同時に出ています。

 来期以降の業績にはいくつか不安もあります。まずは為替です。このまま1ドル=150円前後の相場が続くならばいいですが、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)が今年、利下げに転じると、それをきっかけに円高に転じる懸念もあります。

 また、連結子会社ダイハツ工業による車両試験不正や、持分法適用会社豊田自動織機によるディーゼルエンジン認証不正が明らかになるなど、グループの品質管理問題も気になるところです。

 さらに新たに持ち上がった不安として、米国が2022年6月に施行した「ウイグル製品輸入禁止法」の影響もあります。ドイツのフォルクスワーゲンの新車数千台が、中国の新櫃ウイグル地区で作られた部品を使っている可能性があることから、米国の港で押収されました。

 自動車産業のサプライチェーン(供給網)は世界中で複雑に絡まり合っており、フォルクスワーゲンだけでなく、世界の自動車大手全てが、この問題で影響を受ける可能性があります。

 こうした不安がある中でトヨタ株が勢いよく上昇するのは、次世代自動車に対するイメージの変化が大きいと思います。EV・テスラへの過大な評価が修正されるとともに、トヨタ・ホンダおよびトヨタが世界トップの技術を有するハイブリッド車が見直されている影響が大きいと思います。

テスラ車への評価にも変化

 EVの過大評価へ修正が入ったのは、株式市場だけではありません。消費者からの評価にも、修正が入りました。テスラ車を例にお話しします。

 まず、テスラ車の魅力として、以下3点があります。私個人の感想もありますが、多くの方から同じ声を聴いています。

【1】強大なトルクを瞬時に出す、スタートダッシュが痛快

 テスラ車に乗った人が最初に感じるのは、スポーツカー並みの加速のよさです。テスラにかかわらずEV全般のメリットとして、走り出しからギアチェンジ不要で最大トルクが出せることがあります。

【2】大きなパネルに操作機能を集約・オートパイロットの魅力

 コックピットがすっきり見えます。また、テスラに乗った時、オートパイロット(半自動運転)を見せてもらいました。ハンドルから手を離しても、ハンドルが自動で動いて滑らかにカーブを切っていくのに感動を覚えました。自動運転への道筋が感じられます。

【3】走行安定性に優れる

 電池を積載しているので重量がやや大きいが、重心が低く、スムーズな走りです。

 一方、テスラ車の問題も、再認識されるようになってきました。

【1】高額、急な値下がり

 2023年以降、頻繁に値下げをしてきたものの、まだガソリン車、ハイブリッド車に比べて、高額です。

 値下げはテスラ車の一段の普及に必須とはいえ、値下げが続いていること自体が、買い控えを生じている面もあります。頻繁な値下げで中古車価格も下がるため、買いは待った方がよいという感覚につながっています。

【2】充電時間が長い 充電インフラがまだ十分ではない

 テスラにかかわらずEV全体の問題として、充電時間が長いことがあります。急速充電でも20~30分くらい必要だと、忙しい日中には対応できません。充電インフラがまだ十分に整っていない上に、1台当たりの充電時間が長いと、充電ステーションの順番待ちにも時間を取られることがあります。

 こうした欠点を補うものとして、米国でプラグイン・ハイブリッド車を見直す向きもあります。 

【3】極寒に弱い ヒーターを使うと電費が著しく低下する

 今年厳寒の北米で、テスラ車が充電できないまま急速充電ステーション近くで大量に乗り捨てられる問題が起こりました。

 寒冷地では、電池をヒーターで温めないと充電性能が落ちます。テスラ車は、充電前にヒーターを適温まで温めるプレコンディショニング機能がありますが、それが十分に生かしきれませんでした。充電の待ち時間が長く、ヒーターに電気を取られて動けなくなったテスラ車が出ました。

 ヒーターを適切に使用すれば寒冷地でもEVは問題なく使用できますが、まだ極寒での利用に慣れていないオーナーが多かったことが、問題につながりました。

 EVの問題として、寒冷地ではヒーターを使う必要があるために、電費(電気1kWh当たりの走行距離)が著しく低下することが挙げられます。EVの強みが、寒冷地では逆に弱みとなっています。

 電気モーターとエンジン(内燃機関)を比較すると、モーターはエネルギー変換効率の高さで内燃機関を凌駕(りょうが)します。無駄な熱や音を出さない分、動力エネルギーへの変換効率が高い。一方、内燃機関では、熱や音で失われるエネルギーが大きい。

 ところが、寒冷地では、熱が出ることが逆に有利に働きます。内燃機関から出る熱の一部は、車内暖房などに使われます。またボンネットが熱を持つので、ボンネットに雪が付着しにくく、運転者の視界が守られます。

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