米国株がけん引する世界株高:「米国株を除く世界株」は?

 米国市場ではS&P500種指数が今週も最高値を更新し、為替がドル高・円安であることから「円建てのS&P500」の年初来騰落率は+9.9%となっています(7日)。

 2日に発表された1月・雇用統計が想定外の強さを示したことなどで、米国経済のソフトランディング(軟着陸)期待が広まりました。IMF(国際通貨基金)やOECD(経済協力開発機構)が発表した最新の「世界経済見通し」では2024年の米・実質GDP(国内総生産)成長率が+2.1%に上方修正されました。

 また、前週に発表されたGAFAM(米・大手テック企業5社)の2023年4Q(10-12月期)決算は全て増収・増益でした。GAFAM5社がそろって増収・増益を計上したのは10四半期ぶりのことでした。中でもメタ・プラットフォームズやアマゾン・ドット・コムの好決算を市場は評価。大手テック株の上昇がS&P500やナスダック100指数の高値更新を主導しました。

 図表1は、米国株式、世界株式(オールカントリー)、米国を除く世界株式、日本株式、中国株式それぞれのドル建て指数について過去10年推移を比較したものです。世界株式の時価総額ウエートで約6割を占める米国株式の堅調が世界株式をけん引してきたことが分かります。

 一方、「米国を除く世界株式」のパフォーマンス劣勢が目立ちます。特に、不動産不況で構造的な景況悪化に直面して弱気相場に転じた中国株式は、先進国株と新興国株で構成される世界株式指数の時価総額ウエートで約4%を占めます。低調傾向を鮮明にしている中国株式が「オールカントリー投資」にとり重しとなっている状況には注意したいと思います。

<図表1>「米国を除く世界株式」と中国株の劣勢に注意

(出所)Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2014年初~2024年2月7日)

米国株式と世界株式の長期総収益(円)実績を比較する

 日本居住者(投資家)にとり「オールカントリー」と呼ばれる世界株式に分散投資するインデックスファンドがいいのかS&P500が象徴する米国株式に連動を目指すインデックスファンドがいいかについて議論が盛んです。

 参考までに、図表2は米国株式(S&P500)、世界株式(MSCI世界株式指数)、日本株式(TOPIX(東証株価指数))の総収益指数(配当込みトータルリターン指数)の推移について1994年1月を100としたドルベースと円ベースのパフォーマンスを比較したものです。米国株式(円)の総収益は約30年で24.2倍に膨らんできたことが分かります(2024年1月末時点)。

 これは、同じ期間の世界株式(円)の約11.5倍、日本株式の約2.5倍を大きく上回る市場実績です。時期によって優劣が一時的に変わっても、S&P500がリスク(リターンのブレ)を加味した長期リターンではドルベースでも円ベースでも優勢だったことが分かります。

 もちろんこれらは過去の市場実績であり、米国株式や世界株式のこれからの長期リターンを正確に予測することは困難です。

 ただ、今後も中長期で「米国株式の優位性」とみられる(1)イノベーション(技術革新)進展に伴う生産性改善と利益成長が期待できる市場であること、(2)起業家が幾度失敗しても「再チャレンジ」が認められるアニマル・スピリットが浸透していること、(3)経営者(CEO)の多くが株主還元を常に意識した経営を行っていること、(4)多様な移民の流入で総人口も労働人口も増え続けていること、(5)新興国を含む世界の経済成長(市場拡大)を取り込もうとするグローバル(多国籍)企業が多いことなどに大きな変化はないと思われます。

 今後想定される景気や金利の変動、大統領選挙の行方、地政学リスクなどの不確実性に起因するノイズ(需給の乱れ)で米国株価が一時的に下落する場面があれば、押し目買いや積み増し買いの好機と考えています。

<図表2>米国株式、世界株式、日本株式の長期市場実績を比較

(出所)Bloombergより楽天証券経済研究所作成(1994年1月~2024年1月31日)

米国株式に5万円ずつ積立投資したら「億りびと」になれた

 新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)の「つみたて投資枠」は年額120万円と旧NISAから3倍に拡大されました。月額にすると10万円までの定時定額投資が可能となったということです。

 ただ、若年層で「毎月10万円のつみたて」を実行することが難しい方は多いと思います。一方、中堅世代を含めて「一定額から資産形成に励めば将来や老後に向け相応の備えができる」との考えが普及しています。

 そこで、家計の貯蓄や余裕資金から「毎月5万円のつみたて」を実施した場合の長期市場実績を以下で検証します。

 図表3は、30年前の1994年1月に5万円をS&P500総収益指数(円)に投資し、その後も毎月末に5万円ずつ継続的に投資してきたケースをシミュレーションしたものです。合計で361回の定時定額投資を実践すると、累計投資額は簿価ベースで1,805万円(=5万円×361回)となりました。

 この間のドルコスト平均法と複利運用(雪だるま)の効果で、投資元本の時価評価額は「約1億3,901万円」に膨らんできました(2024年1月末時点)。資産の時価評価額が累計投資額(投資元本)の7.7倍に成長してきた投資成果を示し、いわゆる「億りびと」(金融資産1億円以上を保有する個人や世帯)になれたということです。「つみたて投資」は、資産形成に向き合う時間軸の長さを武器にしたリターンの追及が本質です。

 幾度ものリスク(リターンのブレ=株価下落)を乗り越えてきた米国株式の長期リターンがもたらした資産形成効果は、米国の一般個人にとり「常識」とされる「長期投資」に対する信頼を支えているといっても過言ではないでしょう。

 日本でもここ数年で「資産形成のコアに据えるべきは長期積立(つみたて)投資である」との認識が広まってきました。今後も不定期に想定される株価の上下に一喜一憂せず、長期的な資産形成に取り組むにあたり参考にしていただきたいと思います。

<図表3>米国株式の長期積立投資効果(円)を検証する

*上記は過去の市場実績に基づくシミュレーションであり将来の投資成果を保証するものではありません。
出所: Bloombergより楽天証券経済研究所作成(1994年1月~2024年1月)

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