混迷する不動産市況。恒大の次は碧桂園のデフォルト危機
中国の不動産市場を巡る問題が引き続きマーケットをにぎわせています。私自身、9月に入ってからも日本の実業家や投資家の方々から、「中国の不動産不況が中国経済、世界経済に与える影響をどう見積もるか」「中国政府は昨今の不動産危機にどう対処しているのか、中国不動産バブルの崩壊はあるか」などさまざまな質問を頂いています。
今年1~6月の不動産開発投資は前年同期比で7.9%減と低迷、1~7月では8.5%減と減速に拍車がかかっているのが現状です。これらの数値以上に気になるのが、不動産開発業者を巡る実態。先月末に配信したレポートでは「恒大集団の破産申請で中国経済、不動産市場はさらなる迷走へ。政府は『救済』には消極的」と題して、近年の不動産危機を象徴するメインプレイヤーである中国恒大集団(チャイナ・エバーグランデ:3333HK)の動向を扱いました。恒大集団は引き続き海外の債権者たちとの交渉を含めた債務再編、中国国内における経営再建、住宅購入者たちへの弁明、自社が手掛けてきた物件の政府系企業への引き渡しなどを、中国中央政府、広東省政府の指示、支配下で続けていると理解しています。
足元でより注目を集めているのが、碧桂園(カントリー・ガーデン:2007HK)が直面するデフォルト(債務不履行)危機です。碧桂園は今年に至るまで売上高が国内最大の不動産開発会社であり、急速な事業拡大や本業軽視が当局から問題視されていた恒大集団と比べると、不動産業に特化して取り組んできた企業です。同社の負債は恒大の59%にとどまる一方、国内での開発プロジェクト数は3,103件で、恒大の約4倍に上ります。この意味で、碧桂園がデフォルトすれば、不動産市場、兼ねては中国経済全体にとっての影響はさらに大きくなることが見込まれますし、国内外の中国経済への不信はさらに高まると予想されます。
碧桂園の直近の利払い状況を端的に整理すると、9月5日、本来は8月6日が支払日だった2,250万ドルのドル建て債の利払いを、猶予期限ぎりぎりで実行しています。9月12日には、人民元建てのオンショア債6本の返済期間を3年間延長する承認を債権者から得たとされます。同日、香港株式市場では、同社の株価が一時9.7%急上昇しました。
とはいえ、債権者からの承認を得られていない債務も残っていますし、デフォルト危機が完全に回避されたとは到底言えない状況が続くと思われます。
不動産不況が誘発し得る3つのリスク
ここからは昨今の中国不動産不況を深掘りしていきたいと思いますが、中国という特殊な政治経済体制を持つ国において、不動産危機が誘発し得る危機は大きく分けて3つあると私は考えています。以下、それぞれ検証していきます。
1.経済リスク
「不動産業界が中国のGDP(国内総生産)全体に占める割合は3割近くある。」
この文言を聞いたことのある方は多いと察します。実際、中国の人々にとって、不動産、住宅というのは、資産、尊厳、面子、婚姻、生き様など、人生におけるあらゆる要素に直結するものであり、故に経済全体への影響も計り知れません。
新型コロナウイルスの感染拡大を徹底的に封じ込めるための「ゼロコロナ」策によって疲弊した中国経済という経緯を鑑みれば、打撃はさらに強くなると思います。個人消費、雇用、生産、物価、投資などさまざまな分野が影響を受けるのは必至です。そして、仮に局地的であったとしても、不動産バブルの崩壊が現実化すれば、中国経済はさらなるショックに見舞われるでしょうし、信用リスクも一気に上昇するでしょう。
2.金融リスク
習近平(シー・ジンピン)政権が過去5年以上にわたって警戒してきたのが金融システミックリスクです。その意味で、不動産業界の低迷、特にバブルの崩壊が金融システムに与える影響は軽視できません。実際、恒大集団や碧桂園を含めた不動産開発業者は、金融機関から莫大(ばくだい)な借り入れをしながら事業を拡大、プロジェクトを遂行してきたわけで、これらの企業がデフォルトすれば、当然金融機関への負荷が増加するでしょう。
私自身は、不動産業界の低迷や、一部企業がデフォルトした程度で、中国金融システム全体が機能不全に陥るとは考えませんが、それでも潜在的リスクとして警戒すべきですし、現に中国政府は、不動産危機が金融リスクを誘発する可能性があると見ているのです。
3.政治リスク
中国共産党が最も警戒するのがこの政治リスクです。考えられるケースは、恒大や碧桂園といった不動産大手の国内債権者が、ローン支払いを進めてきたにもかかわらず物件の引き渡しがされていないといった理由で暴れだし、当局がそういう事態への対応を見誤り、人民の不満や批判の矛先が中国共産党に跳ね返ってくるというブーメランの論理です。
また、不動産危機の顕在化が中国経済のさらなる低迷を引き起こし、失業率の急速な上昇や物価高騰などが引き金となり、路頭に迷う人民(特に若者)が公道で暴れだすような局面も考えられます。政治リスクは下手をすれば政権が吹っ飛ぶほどの威力を内包するものですから、注意が必要です。
チャイナリスクの中でも最も深刻なのが政治リスクだと私は見ています。
中国経済にとっての真の課題は「脱・不動産」
本稿の最後に、昨今の不動産危機から、中国経済が近未来において抱える最大の教訓は何か、というテーマを考えてみたいと思います。
単刀直入に言うと、最大の教訓と問題は、背景や国民性はどうあれ、中国経済が不動産市場に過度に依存し過ぎてきた点にあると私は考えます。個人消費、工業生産、雇用、成長モデルなどを含め、不動産という業界に便乗してもうけ、養い、果実を謳歌(おうか)してきた国内、海外の企業家、投資家たちが、その構造に甘えてきたということです。もちろん、最大の共犯者は中国共産党です。
この構造にメスを入れない限りは、中国経済の成長は長続きしない。その意味で、債務危機に陥る恒大や碧桂園を「安易に救済しない」という中国政府のスタンスは、短期的な経済、金融、政治リスクは存在するものの、長期的には適切だと私は考えています。
脱・不動産。
これこそが、中国経済が進化を遂げるために不可欠な脱皮なのでしょう。一方で、不動産業界に変わるだけのインパクト、スケールを持った業界が他に見られるかというと、現時点ではなかなか難しい。
中国政府としては、官民を挙げて振興させようとしているEV(電気自動車)、脱炭素、グリーン、デジタル、および少子高齢化時代を逆利用する養老といった分野を複合的に組み合わせ、盛り上げつつ、不動産業界に対するオルタナティブにしたいのでしょうが、それには一定程度の時間とプロセスが必要です。
少なくとも短期的には不動産市場に依存せざるを得ない。昨今、不動産市場を支えるために行われている一連の規制緩和は、中国政府がそのように考える証左と言えるでしょう。
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