エヌビディアの決算期待で米国株に下げ止まり感

 米国市場では前週にS&P500種指数が50日移動平均を割り込み投資家心理の悪化を示しました。金融引き締めが長期化するとの観測で債券市場は下落。長期金利(10年国債利回り)は2007年以来となる4.35%まで上昇しました(21日)。

 大手格付け会社が複数の米銀の格付けや格付け見通しを引き下げたことも不安材料となりました。一方、週央には一時的な下落のタイミングを狙った押し目買いに伴う自律反発の動きも見られました。

 特に、半導体大手エヌビディアの決算発表期待が高まると、フィラデルフィア半導体株指数やナスダック総合指数が底入れする兆しを見せました。実際、エヌビディアが23日に発表した2023年5-7月期の決算は売上高、純利益、EPS(1株当たり純利益)が市場予想を上回る大幅な増収増益。

 同社が示した8-10月期のガイダンス(業績見通し)でも売上高や粗利益率の見通しが市場予想を上回りました。250億ドルの自社株買い発表も好感されました。生成AI(人工知能)開発やデータセンター向けGPU(画像処理装置)の拡販を確認した決算の好調はナスダック相場の反発に寄与することが期待されます。

 ただ、週末に向けて米国で開催される経済シンポジウム・ジャクソンホール会議で、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長が行う25日の講演を市場は警戒しています。米国経済、インフレ、金融政策を巡るパウエル氏の発言がタカ派寄りである場合、株式や債券が動揺する可能性があります。

 講演内容に特段のサプライズがなければ、市場参加者に安堵(あんど)感が広がり株価は底堅く推移すると見込んでいます。

<図表1>S&P500は50日移動平均線を割り込む調整

(出所)Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2022年3月初~2023年8月23日)

配当貴族指数の長期パフォーマンスは優勢

 本稿では、米国の「配当貴族指数」(S&P500 Dividend Aristocrats Index)の長期視点に立った優勢に注目したいと思います。配当貴族指数とは、S&P500種指数採用銘柄(大手企業)のうち「25年以上連続して配当を増やし続けてきた優良銘柄」(現在は66銘柄:S&Pグローバルが選定)で構成されています。

 図表2は、2000年初めを起点として配当貴族指数、S&P500(米国市場平均)、TOPIX(東証株価指数、日本市場平均)それぞれの総収益指数(配当込みトータルリターンインデックス)の推移を比較したものです。

 配当貴族指数の総収益指数は、今世紀以降で10倍を超える成長を実現し、S&P500やTOPIXの総収益指数に対して優勢を鮮明にしてきました。この間には、米国株式が不調に陥ったことが幾度かありました。2000年のITバブル崩壊後、2008年の金融危機、2020年の新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)危機で米国経済が景気後退入りを余儀なくされたこともあります。

 こうした中、経営環境が一時的に悪化しても毎年(毎期)着実に配当を増やし続けてきた企業群を投資家が評価してきたことを示しています。配当を切れ目なく増やし続けてきた企業は、「株主還元を重視した経営を実践している企業」として市場で評価され続けると考えられます。

<図表2:配当貴族指数の長期パフォーマンスに注目>

(出所)Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2000年初~2023年8月18日)

「配当貴族」や「配当王」の具体的な銘柄を知る

 参考情報として、S&P500配当貴族指数の主要構成銘柄(時価総額上位15銘柄:時価総額の降順)を図表3で一覧してみました。長期連続増配銘柄には、高いブランド力で知られている安定成長業種に属する企業が多いことが分かります。

 特に、ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)ウォルマート(WMT)プロクター&ギャンブル(PG)アッヴィ(ABBV)コカ・コーラ(KO)ペプシコ(PEP)アボットラボラトリーズ(ABT)ロウズ(LOW)S&Pグローバル(SPGI)などは50年以上連続して配当を増やし続けてきた銘柄として「配当王」(Dividend Kings)の称号が与えられています。

 日本の東証上場銘柄で「配当貴族」(25年以上の連続増配企業)の名に値する銘柄は、33期連続で増配してきた花王(東証コード:4452)1社のみとなっています。

 株式市場全体が下落し、金利上昇で景気の鈍化傾向が懸念されている環境でこそ、「いかなる経営環境に陥っても配当を毎年(毎期)着実に増やし続けてきた実績」を持つ企業群は相対的に物色されやすいと思われます。

 こうした配当貴族銘柄について、セクター(業種)を分散しながら複数の銘柄に時間分散していくことは、インカム(配当)の安定的増加を期待しながら長期的な株価の成長を目指すポートフォリオ構築に寄与すると考えています。

<図表3>配当貴族指数の主力銘柄をチェックする

ティッカー 銘柄名 業種名 株価 (ドル) 連続増配 年数 予想配当 利回り(%)
JNJ ジョンソン・エンド・ジョンソン 薬品 164.53 61 2.9
XOM エクソンモービル 石油 107.15 40 3.4
WMT ウォルマート 小売り 158.10 50 1.4
PG プロクター・アンド・ギャンブル 消費財 153.25 67 2.5
CVX シェブロン 石油 159.25 36 3.8
ABBV アッヴィ 薬品 147.08 51 4.0
KO コカ・コーラ 飲料 60.27 61 3.0
PEP ペプシコ 飲料 178.12 51 2.8
MCD マクドナルド レストラン 281.87 48 2.2
LIN リンデ 産業ガス 378.35 30 1.3
ABT アボットラボラトリーズ 薬品 105.13 51 1.9
CAT キャタピラー 建機 273.03 30 1.8
IBM IBM コンピュータサービス 143.41 29 4.6
LOW ロウズ 小売り 227.19 61 1.9
SPGI S&Pグローバル 金融データ 391.73 50 0.9
*S&P500配当貴族指数を構成する銘柄の時価総額上位15社のみを一覧した
*予想配当利回りは市場予想平均
(出所)Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2023年8月23日)

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