「夏枯れ相場」はしばらく続く可能性がある

 8月の世界株式は「夏枯れ相場」に覆われています。夏枯れ相場とは、機関投資家などが長期休暇を取ることが多い夏場に株式市場の取引高が減少し、相場が上がりにくくなる状態をいいます。市場参加者が減る中、悪材料に反応して株価が下振れしやすい季節ともされます。

 筆者が過去30年(1993~2022年)におけるニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均と東京株式市場の日経平均株価の年間推移を検証したところ、「サマーラリー」と呼ばれる7月の株価堅調を経た後の8月から9月にかけて株式相場は不安定となる傾向がみられました。

 米国市場では前週、7月のCPI(消費者物価指数)とPPI(生産者物価指数)の前年同月比伸びが反発し、インフレの下げ止まり感が懸念されました。

 今週は、7月の小売売上高や鉱工業生産が市場予想を上回り、前回7月のFOMC(米連邦公開市場委員会)議事録でタカ派発言が目立ったため、債券市場では長期金利(10年国債利回り)が約10カ月ぶり高水準となる4.27%まで上昇。8月に入り利益確定売りが続いていたナスダック銘柄に一段の重しとなりました。

 格付け会社フィッチ・レーティングスが米銀大手を含む70行以上を格下げする可能性を示唆したことも銀行株を下落させて市場心理を圧迫。S&P500種指数は50日移動平均線を下回りました。米国株が調整すると、リスク回避姿勢が世界市場に波及する傾向があります。

 図表1は、世界の主要株価指数の期間別騰落率を比較したものです。「8月初来騰落率」が同時的に低調となっている状況が分かります。

<図表1>内外株式の期間別パフォーマンス比較

株式指数別/期間別のリターン比較

株式市場
(指数)名
8月初来
騰落率
年初来
騰落率
3年
総収益
:年率
5年
総収益
:年率
10年
総収益
:年率
単位:%
米国株式(ダウ平均) ▲2.2 4.9 9.9 9.1 11.2
米国株式(S&P500種指数) ▲4.0 14.7 11.3% 11.4 12.6
米国株式(ナスダック総合) ▲6.1 28.7 8.2 12.9 16.0
ユーロ圏株式(STOXX) ▲3.4 7.2 10.9 7.1 8.2
日本株式(日経平均) ▲4.2 21.7 13.1 9.6 11.4
日本株式(TOPIX) ▲2.7 19.5 14.4 8.6 9.9
世界株式(MSCIワールド) ▲4.8 11.2 8.3 8.4 9.2
(出所)Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2023年8月16日)

ナスダックの業績見通しは復調傾向にある

 8月から秋にかけて米国株や世界株の調整が続く可能性があります。一方、米国市場で注目したい動きもあります。ナスダック相場の中核を担うビッグセブン(大手テック株)の4-6月期決算の発表とガイダンス(業績見通し)はおおむね市場予想に沿う堅調なものでした。

 一部の事前予想や期待が高かったことで、決算発表を契機に利益確定売りが広まった例もみられました。ただ、ビッグテックの堅調なガイダンスで、ナスダックの業績見通しは改善傾向にあります。

 図表2は、2020年初を起点にS&P500ベースとナスダック100指数ベースの12カ月先予想EPS(1株当たり利益)を巡る市場予想平均の推移を示したものです。

 利上げの累積効果や景況感の鈍化を消化してS&P500ベースの予想EPSが底入れしつつある一方、ナスダック100指数ベースの予想EPSは「生成AI」を中心とするイノベーションやリストラ効果期待を反映して復調傾向を鮮明にしています。

 今後、8月24~26日に開催されるジャクソンホール・ミーティングで予定されるパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の講演や次回FOMC(9月19~20日)で金融政策を巡るサプライズがない場合、政策金利の打ち止め期待が再浮上。

 利上げ長期化懸念が後退をきっかけに、業績拡大見通しを評価してナスダックが復調に転じる可能性がありそうです。ナスダック相場が元気を取り戻せば、市場平均(S&P500)も復調傾向を再開する可能性も高くなります。

 筆者としては、秋から年末までの戻り(年末高)を想定し、S&P500の年末予想値(メインシナリオ)は「4,600」に据え置いています。株式が夏枯れ相場に直面している時間帯の投資戦略としては「長期投資」の基本姿勢を崩さず、押し目買いや積み増し買いを検討することが合理的であると考えています。

<図表2>ナスダックの12カ月先予想EPSは復調傾向

(出所)Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2020年初~2023年8月11日)

日本市場では「インバウンド関連株」が堅調

 日本市場でも、日経平均が7月初旬に高値を付けて以降は上値が重い調整局面に陥ってます。こうした中、個人投資家を中心に物色人気が高まっているのが「インバウンド関連株」(訪日観光関連銘柄)です。

 日本政府観光局が16日に発表した7月の訪日外国人客数(推計値)は約232万人と前月比+11.9%、前年同月の約16倍に増えました。加えて、中国政府は10日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて制限してきた「日本への団体旅行」を解禁すると発表しました。

 中国から日本への団体旅行が再開されるのは、およそ3年半ぶりとなります。日本を訪れる中国人旅行者は、2020年以降の「ゼロコロナ」政策の影響で低迷。今年春ごろからすでにビザを取得している人を中心に個人旅行者が増えるなど徐々に回復傾向が続いていました。今回、「団体旅行」も解禁されたことで、日本を訪れる中国人旅行者の数は大幅に増えるとみられます。

 欧米、韓国、台湾などからの訪日客数は順調に回復してきましたが、コロナ禍前の2019年に最もボリュームが大きかった中国からの団体旅行者の解禁により、地方も巻き込んだ「モノ・コト消費」の需要回復に弾みがつくとみられます。関連業界で改善している企業収益は一段と増えそうです。

 実際、参考例として図表3で示した主な「インバウンド関連株」の「8月初来騰落率」は総じて堅調となっています。訪日外国人でにぎわっている百貨店、専門小売り、宿泊施設(ホテル)関連などの上場企業は決算発表で業績の改善や拡大を確認しています。中国からの団体旅行解禁による恩恵がインバウンド関連株の堅調に寄与する流れに注目したいと思います。

<図表3>インバウンド関連株の堅調に注目

主なインバウンド関連銘柄(参考例)

東証
コード
銘柄名 業種 年初来
騰落率(%)
8月初来
騰落率(%)
2780 コメ兵ホールディングス リユース専門店 124.2 23.5
8136 サンリオ キャラクター専門店 68.6 21.8
9722 藤田観光 宿泊施設 58.0 19.4
3086 J.フロント リテイリング 百貨店 32.7 15.2
3099 三越伊勢丹ホールディングス 百貨店 22.7 14.4
9616 共立メンテナンス 宿泊施設 7.6 14.0
2222 寿スピリッツ 加工食品 56.3 11.7
3088 マツキヨココカラ&カンパニー 食品・薬品 39.7 10.7
8233 高島屋 百貨店 22.2 9.0
7532 パン・パシフィック・インターナショナル 大規模小売店 19.0 3.9
*上記は主なインバウンド関連銘柄を「8月初来騰落率」の降順に示したものです。
出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2023年8月16日)

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