資産形成の五原則と米国株の役割

 米国株式(S&P500種指数)は2022年に19.4%下落しました。下落率としては2008年(金融危機時)における38.5%以来の不調。ただ、長期で振り返れば、昨年も押し目買いや積み増し買いの好機だったと言えそうです。

 米国の著名投資家ウォーレン・バフェット氏は2008年10月、リーマンショックで世界の金融市場が恐怖に支配されていた時に、「Buy American. I am (米国株を買おう、私は実践中)」とのタイトルの記事をニューヨークタイムズ紙に寄稿。

 バフェット氏は「株式市場の過去100年を振り返ると、株式投資で損をする方が難しい。それなのに損をする人は多い。不遇な投資家は、環境が良い時だけ投資し、記事の見出しが恐怖感をもたらすときに売却するからだ」と述べました。

 参考までに、資産形成(投資)にあたり重要と考える「五原則」をおさらいしたいと思います。「長期投資」「積立投資」「分散投資」「低コスト投資」「節税投資」の五つです。

 とは言うものの、節税効果のあるつみたてNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)やiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)を活用し着実に投資をしてきた方で、株式が下落した際にあわてて売却しようとする例が見られたのが残念です。

 なお、図表1は米国株、世界株、米国を除く世界株の過去30年推移を示しています。世界株をリードしてきた米国株は下落した際が投資の好機だった市場実績がわかります。また、「米国を除く世界株」が、米国株や世界株に劣後してきた事実にも注目したいと思います。

<図表1>米国株をコアに据えた世界分散投資を心がける

*S&P500種指数、MSCI世界株式指数、米国を除くMSCI世界株式指数、
(出所)Bloombergより楽天証券経済研究所作成(1993年初~2022年12月末)

米国市場の予想ROEは世界最高水準

 投資対象市場を検討する際は、成長期待やバリュエーションだけでなく「資本効率」も比較したいと思います。長期実績の観点で米国株式のリターンは日本株式など「米国を除く世界株式」よりも優勢に推移してきました(図表1)。

 その主要因として米国市場のROE(株主資本利益率=自己資本利益率)の高さに注目したいと思います。図表2は、主な株式市場別の予想ROE(MSCI指数ベースの市場予想平均)を比較したものです。

 米国市場の予想ROEは22.0%と他市場を圧倒しており、このことがバリュエーション指標である予想PER(株価収益率)や予想PBR(株価純資産倍率)を押し上げているとみなされています。

<図表2:米国株式の予想ROEは国際比較で最高>

*上記はMSCI指数をベースに予想ROE(株主資本利益率/市場予想平均)を比較したものです。
(出所)Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2022年12月末)

 一方、日本市場の予想ROEは8.9%と国際的に低いことがわかります。これが、日本市場の予想PERや予想PBRを低位に押しとどめている主因とされています。米国市場の中でROEが高いセクターをみると、IT(情報技術)、消費財サービス、生活必需品、ヘルスケアなどが全体平均を引き上げています。

 株価のブレはあっても、株主資本に対する利益率の相対的な高さも世界の投資マネーを引き付けやすい米国株式の魅力と言えるでしょう。また、米国がエネルギーや農業の世界的な一大供給国であること。総人口や労働人口が増え続けていること。米国がイノベーション(技術革新)と資本主義経済の進展における中核を担っていく流れに変化はないと思われます。

 日本居住者からみた「分散投資」として、米国株式をコアに据える投資戦略は今後も主流を担うと思われます。資産形成において、米国への長期積立投資を実践し続けることを検討したいと思います。

米国株への長期分散積立投資をシミュレーションする

 年初にあたり、長期的視点に立って「米国株に積立投資(定時定額投資)を実践した場合の累積的成果」を市場実績に基づき検証しました。図表3は、21世紀初頭(2000年初)に3万円を米国株(S&P500総収益指数/円換算)に投資し、その後も毎月末に3万円を継続的に投資してきたケースを示したものです。

 2000年1月から2022年12月まで273回の定時定額投資を実践すると、累計投資額は簿価ベースで819万円(=3万円×273回)だったことがわかります。ドルコスト平均法と複利運用(雪だるま)効果で、投資元本の時価評価額は2022年12月末時点で約3,506万円に膨らんできました。

 これは、時価評価額が累計投資額(累計投資元本)の約4.3倍に膨らんできたことを示します。この間には、ITバブル崩壊(2000年)、リーマンショック(2008年)、コロナショック(2020年)、インフレショック(2022年)に伴う景気悪化や株価下落を幾度か挟んできました。

 また、為替市場でもドル/円相場が乱高下した場面も多々ありました。長期投資を実践する間に、株価や為替が短期的に大きく変動するケースは珍しくありません。ただ、円換算した米国株が、預貯金はもちろん確定利回り証券や日本株のリターンを大きく上回り、資産を増やすことができた市場実績がわかります。

 図表3で示したシミュレーションは、円換算の米国株に定時定額投資を続けた場合の長期的な資産形成効果を検証したものとしてご注目いただきたいと思います。

<図表3>円換算した米国株への長期積立投資の検証

*2000年初から毎月末に3万円ずつをS&P500総収益指数(円)に定時定額投資した場合を検証したもの。
(出所)Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2000年初~2022年12月末)

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